雑談

アメリカで家を高く売る(小手先の)戦略:中編

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ランディ女史が見学に来た2週間後の3月初旬、銀行さんから連絡がきた。
彼女の提案に沿って、少しだけ室内に修繕を施したいので、便利屋さんが来て作業する日程調整をしようという内容だ。
どんな修繕をするかというと、

  • 玄関脇のだだっ広い物置き場に照明を設置
  • バスルームの洗面台の交換
  • バスルームのペンキの塗り替え
  • 食洗機が真正面を向いて設置されてないので、向きを真正面に直す
  • アイランドカウンター土台のベニヤ板の端っこが見えちゃってるのを直す

アイランドカウンターの件は、発見した何ヶ月も前から銀行さんに言ってたのに無視し続けたくせして、売るとなるといよいよ直すわけだ。

はじめの3つはランディ女史が口にしてた改善点。
残りの2つは、住んでる身として私は気づいてたけど、彼女は口には出さなかったけどちゃんと見抜いてた点。
どうやら家電は、ステンレスに買い換えないようだ。
いずれにしても、どれもこれもなんていうか、付け焼刃的な修理で、なにかを根本的に良くするというよりもお恥ずかしいところを表面的に隠すという感じだ。

実際、食洗機の向きの調整なんて、やってる様子を見てたけど、釘2本ねじ込んだだけ。
ベニヤ板の処理も、釘を3本打ち込んだだけ。

バスルームの洗面台も、前はベージュ色の石素材だったのを、今回は黒色グラナイト素材のものに換えて、蛇口は今風のモダン風なものに取り替えただけ。
いくらか聞いたら、700ドル程度だったらしい。

ペンキの塗り替えも、我々日本人のような緻密な職人技に慣れ親しんでる立場から言わせてもらうと、雑だ。
塗り替える前は海老茶色で、しかも昔は青色だったのが壁の隅っこなどを見ると分かってたのだけど、今となってはベージュ色に塗り替えたはよいが、あらゆる隅っこが海老茶色だったり青色だったりするのがバレバレな状態。

物置き場の照明は、まぶしい光が煌々と目に突き刺さり、なんだか警察の取調室みたくなってしまった。

こんなんで大丈夫なのかと部外者ながら心配にならざるを得ない感じのなか、修理は終了した。

翌週の週末、プロによる写真撮影がスケジュールされた。なので一応前日までには、頼まれたわけではないけど掃除片づけをしてなるべく写真撮影の足を引っ張らないようにしといた(←こういうところがやっぱり日本人)。

ところがそんな気遣いも、ランディ女史にしてみれば何の足しにもならないようで、「ステージングするから」という理由で撮影時間の15分前にやって来た。

ステージング、つまり写真の見栄えを良くするため、家具の配置を代えたり邪魔な小間物をどけたりして、生活感を限りなくゼロにする一方、幻想を果てしなく醸し出す、という作業なようだ。

ドヤ顔で到着早々ランディ女史が着手したのは、キッチンの生活感抹消。「シンクの中は写真に写らないから」という理由で、石鹸だのスポンジだの台所の上にあるものをシンクの内側に投げ込んでいく。
挙げ句、保温状態にしてた炊飯器もどかせと支持された。
仕方なく炊飯器の電源を抜き小脇に御釜を抱え彼女の後ろをついて回る私。

そのほかにも、やれ冷蔵庫につけてるマグネットを全部外そうだの、やれソファの向きを変えようだの、やれそこのローズマリーの鉢は小細工にふさわしいからここに置けだの、いろんな細かい支持がでてくる。

カメラマンがキッチン撮影のためカメラセッティングを調整してる最中、あまりにも何も装飾品がないのが御気に召さないらしく、「なにか明るい色の花瓶とかあるかしら?赤か黄色がいいわね」とランディ女史がリクエストしてきた。
残念ながら花瓶はないし赤か黄色の小物もないけど、気を利かせて「骨董品パイレックスの水色サラダボウルならあるけど?」と取り出して見せたところ、「ボウルじゃダメ、花瓶よ花瓶」と却下された。
結局彼女は、リビングルームに飾ってた緑色の油絵を持ってきてそれを配置した。・・・・何が基準で水色サラダボウルがダメ出しをくらい、キッチンとは無関係の油絵が選ばれたのか、全く分からない。

キッチンからリビング、リビングから寝室と、撮影する部屋を移るたびに隠してた生活感のあるものを移動させていく。

ときどきカメラマンが、液晶に表示されてる写真を見せてくれたが、ただでさえ家具の少ない広い部屋を広角レンズと良い照明で撮影してるためか、とてつもなく広く明るく見えるのだ。
日々この部屋で生活してる身から言わせてもらうと、これはまさに幻影だ。

週明けには写真が完成するので、翌週火曜日にはリスティングに出す予定だという。
そうすれば次々と見学リクエストが来て見せることになるのでよろしくね、とランディ女史とカメラマンは帰っていった。

こんな小手先の修理と、30分間のプロカメラマンによる撮影でいったい売り値をどれくらいまで上げるのだろう?修理の原材料費、便利屋さんとカメラマンの人件費全部込み込みでざっくり見積もったって1500〜2000ドルくらいのはず。
いったいいくらで売ろうとするつもりか?果たしてこんな訳ありビルでも買う人はいるのか?

長くなるので続きは次回に。

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