雑談

逆転の発想で大当たり! – 『ひどいサービス』で集客する飲食店のアイデアとは?

先日、チームビルディング研修なるものが行われた。職場から離れた会場に同僚一同が集まり、午前・午後と講師の話を聞いたり講師に支持されるがままゲームをしたり、というやつだ。もちろん昼食も夕食も指定されたレストランで同僚一同と食事を共にし、1日中イヤが応でも同僚とくっついて過ごさなきゃならないイベントだ。

さて夕飯も終わり解散となったにも関わらず、もちろんそこで解散などせず「もう1件飲みに行こう」と相成った。そこで同僚の1人が「この近くに、ひどいサービスが売りの店がある」と言い出し、もちろんみんな興味津々となり、そこに飲みに行くことになった。

その名もDick’s Last Resort(ディックス・ラスト・リゾート)。Dickは「嫌なやつ」「ひどい人」といった意味で、Last Resortは「最後の切り札」みたいな意味なので、もう店の名前からしてキテる。

店構えは普通のアメリカン・レストラン・バーという感じだし、メニューの内容も至って普通のアメリカン・フードばかりのようだ。が、ウェイターが我々の席に来るなり、ひどいサービスが炸裂した。

まず人数分のフォークとナイフを我々のテーブルに投げてよこし、紙ナプキンを頭上から紙吹雪のように撒き散らした。同僚の1人がメニューを頼むと、「メニューが見たかったら、あそこの角に積んであるから自分たちで取りに行きなさい」と怒られた。

「で、今日は何でこの店に来たの?え、研修の帰り?どおりであんた達、陰気臭いわけだ。店の雰囲気ぶち壊しになるから早く酒飲んでパッとしてくれないかな」などと応対され、同僚の誰かがそれに茶々を入れると、ウェイターも負けずと辛口トークで応酬する。まるで、ツッコミの優れたコメディアンのやり取りを見てるようで、ひどいサービスを受けてるのになぜか面白くて笑えるのだ。

■Dick’s Last Resortボストン店の様子

http://youtu.be/qLIN-GWiOqA

さらにサービスの一環なのか、昔のコックさんがかぶっていたような背の高い白い帽子を持ってきて、そこにマジックで辛口のメッセージを書いて客の頭に乗せていく。たとえば我々の同僚でよく喋る仕切り魔の女の子などは、「あんたって人は黙らないな!そんなんじゃ彼氏もできないだろ?え、やっぱり3年間もいないのか?!」というやり取りをしたためか、”Only talk and no action (for 3 years)” (口ばっかりでヤること無し、3年間も)などと帽子に書かれ、一同爆笑、本人も苦笑していた。他にも、頭髪が繊細になりかけている同僚なんかは、禿げネタを書かれた帽子をかぶされたり。どれもこれも、中傷というよりは、笑えるレベルの辛口なので、言われる本人も笑ってすませるし、聞いてる方も笑えるのだ。

SNSに投稿された Dicks's Last Resortでの様子SNSに投稿された
Dicks’s Last Resortでの様子

この店に向かってるあいだに「ひどいサービスの店」と言われて私が想像してたのは、頑固一徹の寿司屋やラーメン屋のように、大将の癇癪に触れぬよう客は縮こまってなきゃいけないのかな、という感じだったが、とんでもない。あくまでも余興として客をぞんざいに扱い、笑いものにすることで仲間内で楽しめるという、計算された「ひどいサービス」というエンターテインメントを提供しているようだ。

あまりにもこれまでにない体験だったので、帰宅後この店について調べてみた。どうやら創業1985年以来拡張を続け、今では全米に17店舗あるようだ。創業者は、Dick’s Last Resortを始める前も別のレストランを経営してたのだが、そのレストランは高級路線を目指したものの客足が伸びず倒産に追い込まれた。そして再度レストランを経営するにあたり、失敗した高級路線とは全く逆を行く「ひどいサービスの店」を目指してDick’s Last Resortを始めたところ、大当たりしたようだ。また誰でもかれでもこの店で働けるわけではなく、最低限の接客サービスができるのは当然のこと、その上で機転が利き侮辱中傷にならないユーモアがある人をオーディションで選出しているらしい。

■Dick’s Last Resortのビデオ

http://www.youtube.com/watch?v=qOYlpO92uyY

殆どのサービス業が優れたカスタマーサービスを追及するのが当然となっているなか、あえてその逆を狙い計算ずくのぞんざいなサービスで差別化を図るというのは、なんとも興味深い。これを日本でやるとしたら・・・かゆいところにも手が行き届いた極上のサービスに慣れ親しんでる日本人に、これは受け入れられるだろうか?!

■Dick’s Last Resortのホームページ
http://www.dickslastresort.com/