雑談

アメリカで家を高く売る(小手先の)戦略:後編

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ランディ女史が宣言したとおり、火曜日にはリスティングに乗っかったようだ。というのも乗せて数時間もたたないうちに見学予約が入ったらしく、早くて木曜日には見せる予定だという連絡が来たのだ。ついては、売り手と売り手のブローカーが自由にくつろいで発言できるよう見学者がいるうちは帰って来ないでくれ、という。本当にそういうことなのか、私が余計なことをベラベラしゃべらないよう遠ざけてるのか、真偽の程は分からない。

私自身も、自分の部屋がどれだけ幻に写ってるのか、どれだけ宣伝文句に仰々しく書き立てられてるか、そして何よりいくらで売るつもりなのか気になってたとこなので、早速インターネットで検索してみた。そもそも17万ドル程度の価値の部屋に2千ドル弱のコストをかけて、果たしていくらになったか?なんと19万ドルになっている。あんなヘナチョコ付け焼刃修理と写真程度で、コストの10倍の見返りを求めようとしてるではないか!

挙げ句、宣伝文句を読み進むにつけ驚愕の文章がでてきた。

  • Priced to Sell「確実に売るための値段設定は勉強しております(つまり利潤追求の値段設定ではない、と言っている)」
  • This is not a foreclosure「差し押さえ物件ではありません」

よくもまぁ、ここまでシャーシャーと言ってのけて・・・。利潤を求めないなら17万ドルでさっさと修理もせんと売りゃぁよかったのに。てか、差し押さえ物件のくせにこんなこと言って違法にならないのか?!それとも、差し押さえ物件を差し押さえ物件に「定義上」しなくてすむような、なにがしかの法律の穴みたいなものでも使ってるのか?どういうカラクリがあるのか分からないが、こんなことシラっと書き立てるランディ女史、ツワモノすぎる。

在庫不足で売り手市場というのは本当なようで、火曜午後までには10件近くの見学がスケジュールされた。

しかも木曜に見学に来た7組のうち、2組はその場でオファーを出したという。

木曜の夜仕事から家に帰ってくると、見学者に配布する印刷物がテーブルの上に積み上げられてるのを見つけた。普通家を売るとき、お金のかかってそうな艶々した豪華なパンフレットを作成すると思うのだが、これはちがう、資料のプリントアウトだ。どこまでもコストを安く抑えようって魂胆なようだ。

プリントアウトは3枚セットでホチキスでとめてある。1番上のページはリスティングに乗せてる内容。2枚目と3枚目は、なんと300万ドル屋根修理費の緊急徴収スケジュールだ。そこにははっきりと、どのユニットにいくらの負担が課されたかが記述されてる、私も一連の資料のなかで見たうちのスケジュールだ。なるほど、臭いものは隠すより、堂々と初めから見せて前向きに説明をしてしまおうということらしい。ランディ女史、どこまでもやり手だ!

そして翌日金曜の朝、銀行さんから電話がかかってきた。早くも2件もらったオファーの中から、契約に進めることに決めたという。で、契約では5月1日、つまり約1ヵ月後には明け渡す予定だから、それまでには滞りなく出てってくれ、という趣旨だ。早い、早すぎる。リスティングされてからたったの3日でさばき、しかも1ヶ月で全部終わらせようとしている。こんな効率の良さ、アメリカに来て以来見たことない、ってくらい効率良過ぎる!

前々から売れたら出てってねという話はしてたのでそれは全然よいのだけど、1ヶ月というサイクルが普通より早すぎだ。普通、住宅ローンの申請から承認まで45日〜2ヶ月くらいかかるとされている。1ヶ月というのは非現実的ではないか?

さらなる情報をランディ女史からも聞いてみようと思い、契約即効で決まっておめでとう的な会話の流れのなかでさりげなく聞き出してみた。いわく、この買い手は女性で、他人に賃貸する投資目的ではなく自分が住むためにこの部屋を買うという。しかも住宅ローンを取り付けるのに何の問題もない素性だから、30日でも全然大丈夫と言ってのける。

でも弁護士と色んな資料をレビューするにあたって、問題点があってオファーを引っ込めるかも知れない可能性もあるよね、と振ってみると、「問題なんてないと思うわよ、屋根の修理にしろビルをより良くするためのプロジェクトでしょ、ビルの価値を将来に向けて上げてるってことだから全然平気、いい買い物だと思うわよ」

私の部屋を初めて見学にしたときとは180度反対の意見を陳べたてるではないか!

でもここでふと気付いた。ランディ女史はあくまでも売り手側のブローカーだ。売り手に不利になるようなことは言わない、言えないのだ。それにもしかしたら、これは勘繰り過ぎかも知れないが、実は意図的に通常より短い30日という期間で売りさばこうとしてるのかもしれない。近所の似たような物件よりもなぜこのビルの部屋は安目なのだろうとか買い手の女性がふと訝る前に、買い手の雇う弁護士が深く色々調べあげる前に、幻がまだ続いているうちに再考の隙も与えず売り渡そうとしてるのかもしれない。

いずれにしても今回は、やり手不動産ブローカーの舞台裏を見学させてもらってとても勉強になったし、自分もまだまだナイーブだなと反省した。と同時に、不動産を買うにあたって、絶対絶対ナメられないよう気をつけなくちゃいけない、一歩外を出たら野獣だらけのジャングルだな、っていうのも学んだ。怖い怖い。

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