雑談

NO.2 新宿・高輪泉岳寺脇の細道

NO.2 高輪・泉岳寺脇の細道 男子校内をすり抜け、歴史名所に至る生活道 港区高輪 長さ およそ290メートル 最狭幅 100センチメートル 歴史度:★★★   狭隘度:★★★★ 魅力度:★★★★NO.2 高輪・泉岳寺脇の細道
男子校内をすり抜け、歴史名所に至る生活道
港区高輪
長さ およそ290メートル
最狭幅 100センチメートル
歴史度:★★★    
狭隘度:★★★★
魅力度:★★★★

 江戸の街歩きをなりわいとしている私にとって、泉岳寺は最重要ポイントである。年に少なくとも2回は必ず訪れる。
いわずとしれた四十七士の墓所を案内するためだ。
泉岳寺は高輪の台地の下、江戸時代以降の東海道近くにある。
台地の北側には大石内蔵助らが切腹した熊本藩細川家の下屋敷跡があり、江戸歩き案内の際にはこの両所はセットで案内するのが必須となる。

 というわけで高輪の台地の上と下を行き来する必要があるのだが、するっと行き来できるいい道がない。
どちらから行くにしても、いったんやや離れた伊皿子(いさらこ)坂上の交差点まで遠回りして行き来する必要があった。

 ところがである。

 ある日地図を見ていると、どうも道のようなものが、旧細川邸であった旧高松宮邸前から泉岳寺まで続いているように見える。
はっきりとした道は正源寺という寺の前までだが、高輪中学・高校という学校の校舎の間に「スジ」のようなものが見え、泉岳寺まで続いている。

 現代は便利な時代だ。さっそくグーグルマップの航空写真で確認してみた。
すると「スジ」の東側はグラウンドで西側は校舎だ。
「スジ」はアスファルト舗装のようだが・・・うーっむ。
これは校内道路か?一般人も通れるのか? 確かめるには行ってみるしかない。

泉岳寺の細道、台地上からの入口。古い石碑が建っている。突き当たりが正源寺泉岳寺の細道、台地上からの入口。古い石碑が建っている。突き当たりが正源寺

 台地上の入口とおぼしき場所に行くと、古びた歯科医とマンションの間を坂が下っている。
突き当たりに正源寺の玄関があった。
右に折れて下ると細い道の脇に民家が建ち並び、突き当たりまで車が入れるようだ。

 左に曲がると、懐かしいコンクリートブロックの舗装道となり、脇には手押しポンプの井戸まである。
時計が50年ぐらい巻き戻されたようだ。
その突き当たりはどうやらグーグルマップで見た高輪学園のグラウンドだが、行き止まりではなく右に細い道があるではないか!

井戸の脇には細い路地が続く井戸の脇には細い路地が続く

 右手にはまた別の寺の墓地があり、正面はコンクリートの壁・・・だが近寄るとまた左に道が続く。
グラウンドと校舎の間が、幅は1メートルもなさそうだがはっきりと舗装道路だ。
すると向こうから自転車に乗った女性がやってくるではないか。
買い物かごに野菜が入っている。
ええっ!すれ違えるの?と、その高齢の女性は別に歩みを緩めるでもなく進んできて、自転車を脇に寄せて私の横を通り過ぎていった。

コンクリートタイルの細道の向こうにポツンと木が立つコンクリートタイルの細道の向こうにポツンと木が立つ

 校舎側はかなり高く、右側は崖のようだ。
グラウンド側も目隠しの塀があり、溝の底を歩くようで結構わくわくする。
頭上には生徒たちが校舎とグラウンドを行き来するのであろう渡り廊下が通る。
先へ進むと道は斜め左に向かい、あとでわかるのだが、右は泉岳寺の敷地の塀で、やがて高輪学園の校門へ出る。その右側が見慣れた泉岳寺の山門だった。

 驚いた。なんでこんな道が校地を分断して通っているのか?

左側は高輪学園のグラウンド。先の見通しは利かない左側は高輪学園のグラウンド。先の見通しは利かない

 江戸時代の地図を見ると、正源寺までの道はあるが、それ以外の場所はほぼ泉岳寺の敷地だ。
それが1901年(明治34年)にこのあたりに高輪学園が移ってくる。
高輪学園は元は西本願寺が造った学校だったので、明治期の泉岳寺が、宗派は異なるが同じ仏教系の本願寺の学校に校地を提供したのだろう。
そのころはこの一帯を校舎がふさいでいる。

そして道の上を、生徒たちが通る通路が渡るそして道の上を、生徒たちが通る通路が渡る

 ところがその後の校舎の変遷の中で、昭和戦前期の地図を見ると校舎脇に道が通り、台地の上まで通じたようだ。
その道はいつしか台地の上と下を行き来する生活道路となり、今に至るも残ったのだろう。

再びコンクリートタイルの道となり、右側はもう泉岳寺の敷地再びコンクリートタイルの道となり、右側はもう泉岳寺の敷地

 その後は案内のたびにこの道を通るようにしているが、参加者の驚く顔を見るのが病みつきになってしまった。
この快感を知ってしまうともう膏肓(こうこう)の域である。
細道探しはさらに加速することとなった。

細道とは
 ここで紹介する細道は、独断で選んだものだが、おおまかな定義は頭にある。
まず、表通りから見えにくく、歩く楽しみと驚きのある狭い道が条件。
自動車は通行できないが、公道もしくは近隣の生活道路として機能していること。
歴史が古く、曲がりくねってアップダウンがあればなおよい。