雑談

自分で梅和えまで作る!30代男性デザイナーの堅実生活

 

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Room No. 009:梅和えを作るデザイナーは好機をしっかり生かす(30代 男性 単身世帯)

今回お邪魔したのは練馬区の大泉学園駅近くに住む35歳のグラフィックデザイナー。

はっきり言っていろいろラッキーな方だと思う。しかし幸運も、受け止める方に力がないと逃げていくという。その点、好機を生かす地道な努力をひょうひょうとこなしている印象だ。おしゃれそうに思いがちな職業ながら、節約を心がけ、凝ったメニューを自炊し、ファストファッションばかりを着て過ごしているという。

 

驚きの独身都内一戸建て

まず住まいに驚く。練馬区という郊外とは言え、住宅街の中の一戸建てに一人暮らしだ。祖父が亡くなるまで一人で住んでいた家だったのだが、亡くなったのが大学を卒業して東京で就職を考えていた時期で、そのまま住むことになった。

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寝室は実にさっぱり。さみしくないか聞いてみたが、寝るだけなんで、とのこと。

しかし老朽化がひどく、4年ほど前にリフォームした。そのため中はピカピカの新築のよう。35歳独身で郊外の一戸建てに一人暮らしとは、どれだけ売れっ子で儲かっているグラフィックデザイナーかと思うが、独立したのは昨年で、「リフォーム代のローンで大変だし、まだ綱渡り的な感じ」という。

はた目には羨ましい一戸建てだが、本人評価は「広すぎる」。1階は大きなLDKで2階に2部屋。一つは寝室でもう一つは「物置」という。バストイレも2階で窓つき。リフォームの力点は「なるべく広く」と「寒くないように」。1階は壁をぶち抜いて広々とさせ、耐震用の柱を一つ加え、断熱材をふんだんに使った。

基本的にあくのないように、白っぽくしました。

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少ない家具の多くが祖父の形見

家具は木製ばかり、しかも古い。祖父が使っていたものをそのまま使っているという。しかし寝室の古いタンスなど不思議と部屋に溶け込んでいる。ほかにも自作の机や、展示会で使っていたインテリアをもらってきたりと、買った家具がほとんどない。中学生の時に工作で作った机まであった。実に物持ちがいい。

家は南北両側が道路に面するという理想的位置で、駐車場もあるが車はない。狭い庭があるがほとんど使わないという。

彼女が月の半分来るぐらいで、あとは友達とかあんまり着ませんねえ。やっぱり大泉学園遠いですから。彼女は遠方で仕事を持ってそちらに住んでいるので、いまのところ同居という話にはなってません。タイミングもあるかなあ。

両親が転勤族で、生まれてから、福島県、茨城県、島根県と転居し、大学は静岡県の学校に一人暮らしして通った。

ひょんな事から写真部に

大学時代はカメラマンになりたくて写真部に入っていました。学部は国際関係学部、というところだったんですが、コソボの内戦とか時事的な問題を扱っていて、メディアに興味を持っていました。報道写真希望というわけではないんですけどね。

写真部に入ったのも偶然だという。

入学したばかりの頃病気をして、運動ができなかったんです。それで映画も好きだったし、写真なら体をそんなに使わずにできそうだと思って入りました。もともとはバスケが好きで、今は社会人のバスケサークルに入って活動してます。

学生時代はカメラマンのアシスタントとして東京で働いていて、カメラマンを仕事にしようとも思ったんですが、ついていたカメラマンがグラビア系中心で。仕事がきついとは思わなかったんですが、アイドル相手の仕事とかばかりで、ずっと続けられるのかって考え出して、そちらの仕事に就くことは辞めました。

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そこで、卒業と同時に好きだった雑誌の編集補助スタッフとして働くことにした。

最初はアルバイト。買い物のお使いからテープ起こしまでなんでもやった。しかしデザイナーになりたいと思い、まもなくその雑誌のデザイナーのアシスタントについてデザインの勉強を始める。その間3ヵ月ほどはほぼ無給状態。

雑誌編集の補助からデザイナーへ

おもしろい編集部で、スタッフは外注とかではなくて中で叩き上げで育てるという伝統があったんです。そうして社内デザイナーとして社員になりました。

一人前になると大変でしたね。もう時間がパツパツで。いろんな段階の工程遅れのしわ寄せが最後にデザイナーにやってくるんです。それからいまはパソコン上のDTPなんで、形にするのは全部デザイナーがやる。昔は文字流しなんてやらなかったのに、今はデザイナーの仕事です。で、仕事量は増えているのに給料は増えない(笑)。

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目立たないが灯油ストーブが見える。エアコンは空気が乾燥しがちだが、灯油ストーブはやかんをかけて湿気を出せる。しかも経済的。床にはホットカーペットも敷いているが、電気代がもったいないのであまり使わない。

その編集部も2010年に辞める。

5、6年やってみて、やっぱりほかのデザインを触ってみたいと思ったんです。やはり雑誌にはそれぞれの色がありますから、そこからはみ出すことはできない。自由が利かないんです。そう思っていたときにどうも会社の経営が厳しくなって、リストラをするっぽい雰囲気になって、あ、ちょうどいいな!やめます!って手を挙げました。

そんなときに知り合いのデザイナーが産休を取ることになり、3か月の約束で仕事を肩代わりしました。それは結局半年になって、その間就職活動をして、フリーペーパーとか、企業のカタログなどを制作している編プロに就職したんです。うまい具合に無職期間を作らずに切り抜けた。

念願の独立を果たして1年ほど

なんともうまいタイミングに巡り会う人だ。知り合いがたまたま産休したので無職にならずに済んだ、というのはラッキーとしか言いようがない。

そして就職した編プロも1年半ほどで辞め、2013年の1月に独立。今、独立してほぼ1年になった。

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仕事机。なるべく机の上はすっきりさせておきたいが、資料が山盛りになることも。

歳も歳なので、無理が利くうちに独立しようと思ったんです。まだレギュラーの仕事がないので綱渡り的な感じもしますが、まあ頑張っていこうかなと。1年でそこそこの収入にはなっているんですが、仕事がある時期とない時期の差があって。

でも独立してよかったです。一番いいのは一つ一つの仕事を大事にできること。自分の名前でやってる分、充実していますね。

ぼくは編集からデザイナーになったので、デザイナーの知り合いは少ないんです。仕事は編集者とか、以前の同僚とかから仕事を紹介してもらっているので、まだ営業に出かけたことはないです。これからは営業もしていこうかな。

まあしばらくは仕事の内容や方向に大きな変化はないと思います。美術展に関わったときは楽しかったので、空間デザインとか、サインとかの仕事はやってみたいと思います。

経歴が少し変わっているので、写真の見方とか、文章の組み方などにそれが役立っていますね。文章の中身もデザイン上、気になります。

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なんだかんだいって、やっぱりシンプルでセンスがいい。

仕事場は家なので外出は少ない。1つの仕事で1回は会って打ち合わせするように心がけている、というが、仕事で外に出るのは週に1、2回だ。家にこもっていてあまり良くない、流行に疎くなっていると感じる。1日ならいいが2日家にこもっていると気分ももやっとしてくる。でも都心のシェアオフィスなどは高くてまだ手が出ない。はた目には羨ましい一戸建てだが、仕事場として考えると立地が厳しい、と思う。

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家はシネコンが近いのがいいぐらいだという。日用品の買い物は周辺で済ます。よく行く繁華街は最寄りのターミナルの池袋。バスケの練習で築地には週1回は行く。スポーツクラブは会費が高いので、体を鍛えるのは近くの公共施設のジム。

「流行に鈍感でまずいかも」

六本木などは行かない。行く必然性がないそうだ。ファションは節約を重視して最近はユニクロばかりだという。好きな店ではイケア。彼女の車に乗って、新三郷のイケアによく行く。頭の中のグラフィックデザイナーのイメージとずいぶん違う。

池袋は意外とおいしいものが多いんで好きです。食べることはとっても重要です。まあ家で食べることが多いんですが。外食は楽しく。自炊は節約が目的ですが、楽しいです。昨日の夕食は、チャーハンとカキとキノコのチーズ焼きを作りました。レシピを参考にアレンジしたオリジナルです。会社勤めの時は忙しくて無理だったんで、独立してから自炊を始めたんですが、苦にならないですね。なんか実験みたいで。

健康的な生活を心がける

健康的な生活を意識しているという。朝は8時にきちんと起きるし、仕事は10時に始めると決めている。昼夜逆転などという生活はしない。稼働時間も表向きは短くしている。夜8時以降はメールなど出さない。深夜の仕事はしないぞ、という暗黙のアピールだという。土日も仕事はなるべくしない。

グラフィックデザイナーはみんなが作った仕事をまとめてみんなに納得してもらわないといけないので、きちんとしている人が多いかもしれません。自分では向いていると思います。

部屋はお金をかけてはいないが、センスよくすっきりとまとめられている。

いま欲しいものは掃除機。持っているのが古いので、最新の性能がいいものが欲しい。カメラも手持ちのものは古くなったので、性能のいいものが欲しい。

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男性一人暮らしだが、キノコ、ニンニク、大根などが見える。
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調味料もきちんと結構そろっている。
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楽しい自炊、「梅和え」なんかも作っちゃう

冷蔵庫は取材のために片付けたそうだが、それでもなかなかこうはきれいにならない。写真の梅干しは、このまま食べるわけではない。梅和えを作るためだという。梅和えのおかずを作る男性は初めて会った。上右はレモンの塩漬け。ローズマリーを入れている。テレビでやってたのを見て作ってみた。主婦のようだ。これは調味料として使うのだという。

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毎日1本飲むというビールだが、やはり発泡酒。
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肉がきっちりラップされているのは泣かせる。さりげなく千駄木越塚のコンビーフがあるが、これはもらいもの。
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野菜が入っているのはイケアで買ったバスケット。中の野菜は取り寄せている。
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自転車は買い物などの必需品だが、なにげにおしゃれ。ありきたりのメーカーではない。
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お風呂場用のブーツが見える。
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入浴剤はドイツ発祥のクナイプ。この手のものは割と自然派だという。臭いの余りしないものが好き。
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洗濯機はドラム式。水の量が少なくていいと聞いたのでドラム式にした。乾燥機がついているのもポイントだったが、結構音が大きいのでほとんど使っていない。
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広い浴槽が羨ましい。湯船は入る派。

ひょうひょうと自分を律して着実にステップアップ

「取材後記」 仕事で以前にもグラフィックデザイナーの方とはおつきあいしたことがあったが、当然ながらあまり人柄には関心がなく、仕事のできばえのみで記憶していた。だから世間の人と同じく「デザイナー」という職業の人はおしゃれで、華やかで、流行に敏感な生活を送っているのだと勝手に妄想していた。

大間違いである。

彼自身も言っているように、多くのカメラマンやライターなどの制作物をとりまとめて形にし、さらには編集者、広告主などの意見や指示を実現するグラフィックデザイナーという仕事は、様々な意見をとりまとめる力がないとできるものではない。

だから基本的に「いい人」でないとつとまらない気がする。カメラマンだの、イラストレーターだの、ライターだのは、もちろんいい人もいるが、我の強い人、変わった人、生活のむちゃくちゃな人も多い。グラフィックデザイナーはそれではつとまらない。

今回の方はそうした意味で天職とも思える印象だ。

また生活に派手さはない。地味というわけではないが、穏やかに落ち着いた生活を築こうという意志をひしひしと感じる。そのためには、転がり込んでくる好機、転機をしっかり逃さない。また逃さないような準備もしっかりできているようだ。

つきあっている女性とは結婚の話も出るのだそうだが、まだその方向で動き出しているわけではない。しかし何かのきっかけがあれば、パッパと進めるのだろう。そういう準備はいろいろな面でできていそうな方だった。