「データサイエンティストが知るべきビジネス用語」シリーズの前回の投稿では、「現状理解」のフェーズにおけるビジネスモデルやプレイヤーの把握について書きました。
今回は、「課題の定義」フェーズにおける重要な「スコーピング」、この用語を解説したいと思います。
スコーピングとは
スコーピングとは、「スコープ」を決めることです。スコープとはプロジェクトの成果物やタスクの範囲を指しています。具体的に、優先順位、予算、期限、技術的な可能性を踏まえて以下のことを行います。
- 「要求」(やりたいこと)を洗い出す
- 「要件」(できること)を絞る
スコープを明確化することは、プロジェクトのゴールに期限内に到達するのに重要です。
以下各項目をもう少し詳細に見ていきましょう。
目標を明確にし要求を洗い出す
クライアントから「このようなデータが社内にあり、このデータを分析することで、私たちの会社に有益な情報を抽出してください」という依頼事項をまとめた依頼書をクライアントから提示されるとします。
依頼書を受けるときに気をつけなければいけないこととしては:
- 目的・目標が明確に書かれているのか。
- 目的と要求(やりたいこと)の間に乖離が生じていないか
これらが出来ていない場合は、追加でクライアントにヒアリングする、あるいは自ら提案することで要求と要件を再設定・再確認する必要があります。
目標が数値で書かれていることが望ましいです。「分析プロジェクトを通じて販促を強化したい」は曖昧すぎてスコープを決めることができません。「販売個数を前期に比べて30%増やしたい」のような定量的な目標をクライアントに設定してもらうことが必要です。
この目標を定めてから、それを達成するための要求を洗い出せます。例えば「販売個数と商品レパトリ、天気、季節の関連性を調査する」など。
プロジェクトの制約を明らかにする
クライアントが提示する「制約」には一般的に以下の3つ要素から構成されています。
- 品質(Quality)
- 価格(Cost)
- 納期(Delivery)
これらは「QCD」と呼ばれており、データ分析やAIシステムの開発などのプロジェクトにとっての成功の基準となります。
他に社会情勢や経済からくる制約もあります。
ちなみに、受注側が提示する予算や達成可能な品質は「制約」ではなく「前提条件」と呼びます。
要件を絞る
要求と制約を洗い出した後に、それらを受注者側の前提条件を照合しながら、分析の対象となる事業領域の複数ある課題の中で、どの課題を(優先的に)扱うのかを絞り込みます。プロジェクトの期間内に「できること」や「できないこと」を明確に依頼側と合意をとる必要があります。
スコーピングで何が達成できるのか
- ビジネス目線での要求と要件の合意をとれた上で、依頼側も受注側も気持ちよくプロジェクトに取り込める
- 初期のプロジェクト範囲(領域)を確立できる
- プロジェクトのコストを見積もることができる
- プロジェクトの実行・実装のプランを立てられる
- タスクの優先順位を定めることで着手しやすくできる
- 手戻りによる無駄を防げる
逆に十分にスコーピングフェーズを設けなければ、あるいは「要求仕様の不備」や「仕様書の不備」が発生した場合に、後で責任問題の闘争が起きるリスクがあります。
プロジェクトの実施開始後に、予算が厳しくなったり、納期短縮を要求されたりと、受注側の現場に厳しいしわ寄せが来てしまいます。依頼者側から「隠れた要望」が出ると、予算と期間が同じのまま、要求だけが増えている事態になりかねません。プロジェクトの後半で発散が起きるのを防ぐためには、スコーピングフェーズをしっかりと設けることが大切だとお分かりになったかと思います。
今回は「スコーピング」= スコープを決めることについて解説しました。
本シリーズでは引き続き他のデータサイエンスプロジェクトに関わる用語を解説していきます。
担当者:ヤン ジャクリン (分析官・講師)