データサイエンス

各社導入の嵐?チャットボット開発の現状【前編】

1. チャットボットの紹介

1.1 チャットボットとは
チャットボットは一般的に、チャット(会話)とボット(ロボット)を組み合わせて人間の代わりに会話式でやりとりできるプログラムを指しています。AI技術の発展とともにチャットボットはスマホのメッセージ送信アプリやウェブサイトなど様々なプラットフォームで利用できるようになり、SF世界の空想だった「人間と機械の会話」が現実味を増してきました。

1.2 チャットボットの歴史
対話型ボットの祖先は1966年代に登場したELIZAだと言われています。心理カウンセラーのように人間が文字「xx」を入力すれば、文字列「△△」で対応するパターンマッチング法を用いました。近頃チャットボットが急速に注目されるようになった理由がいくつかあります。

• 自然言語処理、ディープラーニング、音声認識の発達に伴い多様な対話システムが整えられ、コンピューターの従来の苦手分野を克服して来ました。
• メッセンジングアプリの普及による拍車:Facebook Messengerのチャットボット機能がリリース(2016年4月)された後にLINE、Skypeなどもチャット機能を相次いでリリースしました。
• 競争優位を築くために顧客体験を重視する企業の増加:顧客への斬新なコミュニケーション手段としてチャットボットを利用したアプリ・サービスを取り込み始めました。

1.3  チャットボットの種類
チャットボットは一般に「機械学習型」と「ルール型」(別名ワード検索型)に分類できます。

• 機械学習型ボット:対話データを投入しディープラーニング(DL)を用いて会話のパターンを学習します。上手くいけば汎用的な会話ができますが、AIの理解能力が不足すると予期せぬ返答を返しユーザーをがっかりさせてしまいます。大量な初期学習データの投入と運用開始後に継続的なチューニングが必要となり初期費用や運用費が高価になる場合があります。現時点でDLだけを用いた完璧な対話がまだ実現されておらず実質的には確率的な意図推測に限定されます。
• ルール型ボット:事前に登録したFAQ形式のデータと照合して回答します。汎用的な会話はできない代わりに決められた範囲内で信頼性の高い応答が期待できます。
現時点で殆どの実務用のボットはルール型をコアに、プラスで会話パターンの機械学習や自然言語処理を追加した仕組みになっています。多くのボット開発者はルール型と機械学習型をハイブリッドで導入し会話履歴ログを分析しながら会話の質を段階的に強化していきます。

1.4 チャットボットの活用例
ここではチャットボットが活用されている具体的な事例をいくつか紹介します。

• コールセンター:チャットボットによる人件費節約の効果が顕著である代表例です。頻繁に送られてくる同じような問い合わせは本来の支障になり、これらに対してボットが代わりに応答します。最も有名なLOHACOの「マナミさん」(2014年9月~)は2016年5月の時点で全問い合わせの1/3に対応し、6.5人分の人件費の削減が実現されました。
• ECサイトでWEB接客:普段よくアクセスするメッセンジャー系アプリにチャットボットが案内するオンラインストアを設置することにより、ユーザーとの対話を通じて効率よく欲しい商品にたどり着き、企業側はより多くの売り上げを期待できます。
• 雑談型ボット:日本Microsoftが開発したDLを活用した、女子高生とキャラクターとの会話プログラム「りんな」が代表例です。スムーズな言葉遣いを用いた会話だけではなくオセロやしりとりなどのゲームも楽しめます。2015年7月にLINEでデビューして当初の人気は1ヶ月でユーザー数が130万人を超えるほど爆発的でしたが、そのうち「りんな」はDLボットの限界を教えてくれる存在ともなりました。ローソンが自社のLINE公式アカウント「あきこちゃん」に「りんな」のエンジンを採用し2016年9月から運用を開始しました。
• ユーティリティ機能を備えた会話型ボット:会話を通じてアルバイトを探すリクルートの「パンダ一郎」や、場所や日付などを伝えると天気を教えてくれるPONCHOが例として挙げられます。

1.5 チャットボットのメリット
チャットボットはその操作の容易さや利便性ゆえに既存のアプリや検索エンジンに代わる存在にもなる可能性を秘めています。以下は幾つかの主要なメリットです。

• 人件費の削減:AIによる自動応答が24時間365日稼働しており、複数同時対応も可能です。
• 気軽に問い合わせ可能:普段用言葉で問いかけるだけなので複雑なアプリへ抱く苦手意識が解消されます。賢くても人間ではないので偏りのない情報を提供でき、ユーザーに気を遣わせません。
• 検索が便利になる:従来の検索サイトにアクセスし検索語を入力する代わりに、チャットアプリで数個の質疑応答だけで適切に絞り込まれた検索結果にたどり着けます。例えば訪問先へのアクセス法を探す場合、従来ですとサイトマップ上から「アクセス」のタブを見つけて文章を読み、地図アプリを立ち上げて場所を確認し、今自分がいる場所からどの駅を使えばよいかを判断します。これに対して案内ボットに任せれば一連の作業は短時間で楽に済ませられます。
• 顧客との双方的なコミュニケーションが増える:チャットツールを頻用する対話アプリに公開すれば、企業から顧客へ何度もメッセージを送信できてアクセス率もウエブサイトより高くなります。貯蓄した会話データを分析すれば個人の潜在的ニーズを把握しマーケティングに活用できます。

2. チャットボットを構築する

2.1 ボット開発の流れ
ボットを構築する便利なプラットフォームが近年世の中に増えてきており、提供先の会社ごとに学習機能、管理機能、運用サポートの特徴があります。一般的な開発手段は次のようになります。

1. 先方会社との契約を通じてアカウントを入手しAPIを選びます。
2. シナリオライティング: FAQデータの登録、機械機能があれば会話データを登録し学習させます。
3. 話し相手によって表現は様々なので表記ゆらぎを吸収するために辞書の登録を行う。
4. 一旦ボット出来上がったらそれを使用目的の場所に実装させます。
5. 運用期間中は会話履歴を分析しボットをより賢いものにチューニングしていきます。

2.2 サービスを選ぶ時のポイント
数多くあるボット構築会社(以下、ボット社)から選ぶ際に考慮するポイントとして、会話構築・運用のインターフェースの使いやすさ、学習データの登録・会話データ解析などの管理機能の充実さ、自然言語処理能力や学習能力、外部サービスやAPIとの連携の柔軟さ、導入後のサポートが挙げられます。更に費用と契約から運用開始までの時間の長さも重要です。

課金制度に関しては大きく分けて2パターンがあるようです。1つは依頼側からFAQ式で会話の要件だけ受けてボット社が会話構築と連携を担当する場合。豊富な経験と貯蓄データを所有するボット社であればボットの応答精度が保証され依頼側の工数が削減できます。ただしそれらと引き換えに初期費用と月額料金が高くなり、学習データやAPIコールの上限が設定される場合もあります。もう一つはボット社から構築インタフェースと管理画面だけを提供され、シナリオライティングと連携は自社で行うパターンです。この場合月額料金やAPIコール毎の料金が課されます。IBMやNTTのような大企業がこれに当てはまる傾向にあります。ボットの目的機能やそれを提供するクライアントの要求に合わせてプランをカスタマイズしてくれるボット社もあるので情報収集も兼ねてヒアリングを行うことをお勧めです。

2.3 賢いボットを実現するには
優秀なチャットボットは複雑なボタンなど無駄の要素を介さずにユーザーの発言の意図を正確に理解し適切に動作します。しかしこれを完全にこなせるボットは世界最高レベルのAIでさえ難しいです。では現存の技術を用いて「なるべく」賢いチャットボットを実現するためにはどうしたら良いでしょうか?

欲張ってあれもこれもボットに役割を果たせようとするのは賢明ではありません。ボットの意義と得意・不得意を明確に宣言し、適用できる範囲を絞り込みその中で的確に力を発揮させればユーザーを失望させないことが防げます。

さらに、自然な対話を交えながらサービスを躓かずに実施するに至るためには構造化された会話を設計することが大事です。冒頭でボットの機能を過不足なく網羅した選択肢をユーザーに与え、各選択肢に合わせてif-thenのツリー構造で答えを提供したりユーザーが本当に欲しいことを完全に知るまでに次の選択肢を与えたりして会話を発展させていくと成功しやすいです。フリーワード入力を許す場合でも万が一AIが言葉を理解できない場合は適切な例外処理を施すことが大事です。そしてユーザーの言葉の表記ゆらぎを吸収し自然な会話を実現するためには自然言語処理が必要であり、辞書の作成を人間が頑張る必要があります。
図1、図2では社内のHPのために作ったチャットボットとの対話の例です。図1では冒頭でサービスの紹介、アクセス、採用情報など会社に一般的によく問い合わせられる項目を選択肢に出し番号で選んでもらうことにより会話のフローをしっかりと管理します。「その他」を選んだ場合もしくはフリーワードで入力した場合は図2のように特定のロジックに沿ってユーザーの意図を聞き出します。


図1:Slack上に実装したGRI社内ボットの対話例:冒頭で一般的な案内項目を番号で選んでもらいます。社員が内部PWDを入力すると内部向けの「(1)会社の規則・予定・物の場所(2)AI記事・事例紹介 (3)新入社員向け(4)フリー質問(5)終了」に飛びます。


図2:フリーワードで質問をした場合ユーザーが知りたいことを把握するまでに数個の質問を聞き返します。

3. チャットボットの今後の課題

いかがでしたか?次回の「チャットボット開発の現場【後編】」では社内ボットの開発を詳細に取り上げる予定です。どうぞお楽しみにしてください。

数多くの従来のアプリやールセンターや通販・切符予約サイトなどのサービスやアプリは、会話ログ、購買履歴、顧客プロフィールを参考にボットが対応できるようになってきています。現時点でなんでも完璧に対応できるチャットボットは存在せず、ボット対応と有人対応を組み合わせるサービス体系がほとんどですが、急増する社会の中の興味関心と便利な開発環境を提供する会社のおかげでさらに開発が加速することが期待できます。開発側として、ユーザーがチャットボットに求めるニーズを把握し返答精度を高めるためには、人間が対応したときに残した知見やユーザー履歴を貯蓄・分析して改善を重ねることが重要です。同時に機械学習と自然言語処理の技術の向上も肝心です。これらを経て完全ボット化システムへ移行する戦略が実現されればサービスの質と売り上げの向上が期待できます。

更にソフトウェアの領域に限定せずにioTとの連携ができたら更に一歩前進します。スマートロック、モーションセンサー、ドア・窓・家電コントローラーなどをインターネット回線経由でユーザーのスマートデバイスからチャットボットとやりとりしながら遠隔制御できるようになればチャットボットが更に私たちの日常生活に深く浸透していけるのでしょう。

(アナリティクスチーム:YJ)