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AIは人類を超える絵画を描けるか

最近、以前の同僚が「面白いので見て」と言っていた海外ドラマの「シリコンバレー」を夜通し見ており、現在シーズン5に差し掛かっていまして、その話の中での興味を引くシーンがありました。

ある企業のパーティに訪れた主人公リチャードが、家にかかっていた絵をみて「いい絵だね、作者は?」と聞いて返ってきた答えは「機械(AI)」というシーンです。

シリコンバレーの10億超え企業CEO邸宅にいかにもありそうな美術品です。一瞬のシーンではありましたが、前からアートとAIの関係について興味があり、良い機会なので最近の周辺事情についての話を何点かまとめてみました。

AIをつかって描かれた絵の価値と内容

2018年10月、オークションでAIが描いた肖像画が競り落とされました。
肖像画にはアルゴリズムの一部「minG maxD Ex[log (D(x))] + Ez[log(1– D (G(z)))].」が署名されており、その金額は432,500ドル(約4,600万円)。

同オークションではアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインも出品されておりサイズなどの違いもありますがそれぞれ約840万円、約1,000万円とのことなので、金額的に価値が認められた作品になっているかと思います。
もちろんオークションに出品された初の「AIプログラムが出力した絵」としての価値で、それ以降の作品はここまでの高値はついていませんが、他の作品も絵画として成り立っている金額がついています。

制作手法的には敵対的生成ネットワーク(GAN)を利用し、多くの肖像画を読み込ませ肖像画の技法を学習させたとのことで、これは近年「実在しない人の顔写真」を生成する方法と同じディープラーニング技術をつかっています。

「この作品の制作プロセス、動画最後が出品された作品」

 

元々のコードは19歳にしてスタンフォード大学の研究所に勤めているRobbie Barrat氏(有名ラッパー風の詞を書くAI作成などで有名なエンジニア)がGithubにアップした以下のものがベースとなります。

その為、以下の3点でちょっと揉めていたりします。
・公開したコードをつかって利益を得るのはどうなのか?
・2016年からこのような絵はみんな色々作っていて何ら目新しいものではない
・Obvious側が当初Robbie Barrat氏のアルゴリズム利用を公開していなかった

AIで作成されたアートは作品自体よりも、その周辺の話題において世間を騒がせる作品となりました。

AIはアートを評価できるか

一方、AIは評価する側に回ることはできるのでしょうか?
例えば今回のAIが作ったアートをAI自身が評価することはできるのでしょうか?

個人的にこの絵は「絵画として」正直それほどうまくないと思いますし、「AIが作った」という点においてもRobbie Barrat氏が感じたようにそれほど目新しくないと感じます。ただし話題性という点においては抜群で、それがオークションに作品として出たことが希少価値となり今回の金額になったのかと思います。「象が描いた絵」に値段がつくのも同様かと思います。

「象のほうがわかりやすく絵画的に描くことができる!?」

 

例えば写実主義や印象派の様々な作品は「誰でも見て上手さがわかる」と思います。
ただし一般の人々は「実写にどのくらい近いか」という物差しによるものではないでしょうか?
近代の美術においてはその視点では解釈が難しい作品が多くあると思います。

以下のマティスやジャクソン・ポロック、マーク・ロスコをあなたは「評価」できるでしょうか?


マティス「ダンス」


ジャクソン・ポロック「Number 17A」


マーク・ロスコ「Untitled (Black on Grey)」

もちろん良いと思う人は沢山いると思いますが、その「良いと感じた点」を他の人がわかるように説明することは可能でしょうか。それはAIにも可能でしょうか?
※一つの視点として「見たことがない(構図や技法)」というのはあるかと思います。

人間はアートをどう評価しているか

細野不二彦氏の漫画「ギャラリーフェイク」は美術を鑑定する「キュレーター」がどのようなものかを知る大変おもしろく且つためになる漫画です。

彼らキュレーターは作品を「目利き」するスキルを持っています。
オークション参加者もオークションに出品する美術商もレベルの差はあれど何かしら目利きのスキルを持っているでしょう。

・知識 :作品の歴史や作成背景などの体系的な知識
・相場観:現在の美術市場での価値の把握
・観察眼:最新の贋作術把握など真贋鑑定力
・審美眼:直感的な美的感覚力

おそらくここでAIが力を発揮する箇所としてはインターネットにあるあらゆる美術品情報をクローリングして蓄積する「知識」、各オークションの売買データをもとにした現在データとそのデータを利用した未来予測での「相場観」となると思います。

また「観察眼」はどうでしょうか?AIの画像認識はかなりの能力を持っており、2015年には人間の制度を超えてきています。ただし元のデータがないとAIには判断がつかないのでどうアルゴリズムを作るかのアイデア次第だとは思います。

最後に残る「審美眼」というのはどうでしょうか?いい絵を大量に見せると養えるものなのでしょうか?
このメカニズムを解き明かせば、質屋の査定部門や一般的なオークションの値付けなどに応用ができ、より便利な世の中になる気がしています。

AIは人類を超える絵画を描けるか

AIがアートを学び描く際の利点は「休むということを知らない」という点だと思います。
365日24時間、彼らは学習しアートを生み出すことも出来ます。ただし創造性という点においては人間も説明できない何かが、まだアルゴリズムとして足りないと思います。

AIの作品制作やシステム開発を行うQosmo代表の徳井直生氏はインタビューの中で「AIを人間の創造性をサポートするパートナー」と位置づけ、AIとの協業を提唱しています。

徳井直生氏らが生み出した「AI DJ Project」というプロダクトは、2人のDJが曲を掛け合うBack to Backにおいて片方をAIに担当させるという試みをおこなっています。

※「AIはフロアを盛り上げることはできるか? ~」(GIZMODO.JP)

このように人間のサポートとしてのAIというのが、各方面においてのスタンダードな使い方になってきていると思います。

では逆に人間がやれそうなことは何でしょうか?
それは「考えの枠がない」という点だと思います。
約1億5000万円で落札後、シュレッダーで裁断されたことで有名なバンクシーの「作品」がいい例だと思います。AIは絵はかけても、これは生み出すことが出来ないはずです。

ただし「創造性」もAIは学び始めています。
例えば料理の世界においてはレシピをパターン学習し新感覚の組み合わせを提案してくれるIBM Watsonを利用した「Chef Watson」などの事例もあります。

常識やルールにとらわれず「人が思いもよらない作品を生み出す」可能性はこれからまだ無限にあると思っており、AIとアートの融合が今後どのような芸術を生み出すか大変楽しみです。

 

「シリコンバレー」のドラマのワンシーンからはじまった今回のアートとAI。
まだまだ色々面白い話がありそうなので、また何かのきっかけでまとめてみようと思います。

ちなみに余談ですが、エピソード4まで出ていた変人インキュベーターのアーリックは「中国で死んだ」という話で進んでるんですが、気になって調べたところどうやら「なんか他の仕事も忙しいからやめるわ」と降板したらしく(!)、これも人間ならではのエピソードで、将来的に高度に発展したAIが仕事をボイコットする世界がやってこないことを祈ります。

hiroyoshi usui
ディレクター、Keep it simple, stupid.