データサイエンス

濫用されるメラビアンの法則(コミュニケーションに何が重要?)

筆者は「超優しいデータサイエンスシリーズ」などのAIや機械学習の知識に関して書くことが多いです。日頃、社会人・学生・新入社員の研修を担当させていく中で、今度は人材育成に関してもう少し大枠的な考察をしていきたいと思います。

就活生、新入社員、営業、接客など、対人スキルに関する研修でよく登場する概念に、「メラビアンの法則」というものがあります。

メラビアンの法則とは、1971年にアメリカの心理学者が提唱した概念であり、コミュニケーションにおいて、どんな情報に基づいて印象が決まるのかについて示された法則です。この法則では、見た目やしぐさ、表情などの「視覚情報」で印象の55%が決まり、声のトーンや話す速さなどの「聴覚情報」から38%決まると言われています。すなわち、言葉そのものの情報は、印象を決める支配因子の7%でしかなく、93%は視覚と聴覚だと主張しています。

この有名な法則にある割合のインパクトが強かったのか、「人は見た目が9割」「人のイメージは第一印象で決まる」と巷では言われるようになりました。更に、「話の内容よりも表情やジェスチャーなどのテクニックが大事」ということが、プレゼンテーションや可視化のテクニックの重要性を語る際にも引用されるようになってきました。

しかし、これらの主張は、決してメラビアン自身が行った実験から論理的に導けるものではないため、メラビアンの法則の結論、特に比率の内容のみに着目して拡大解釈していませんか?

メラビアンの行った実験はひつにシンプルなものでした。

  1. 言語情報として、「好意」「嫌悪」「中立」がイメージされる言葉をそれぞれ3つずつ計9語選定する。
  2. 聴覚情報として、この9語それぞれについて、「好意」「嫌悪」「中立」がイメージされる声のトーンで録音する。
  3. また、視覚情報として、「好意」「嫌悪」「中立」がイメージされる顔写真を準備する。

被験者は、顔写真、録音された音声を聞きます。単語と声のトーンと顔写真の組み合わせによって、「好意」「嫌悪」「中立」のイメージが矛盾する場合があります。この矛盾した状況において、被験者が、話者の感情が「好意」「嫌悪」「中立」のいずれと受け取ったのかを質問します。その結果を分析したところ、話者の感情を顔写真、すなわち、視覚情報に基づいて判断した割合は55%であった、という内容になりました。

すなわち、メラビアンの実験は、「単語の聞き取り」という限定的な実験範囲において、視覚情報、聴覚情報、言語情報に「矛盾」がある場合に、話者の感情の判断にどの情報を重視するか、という評価を試みたものにすぎません。この実験結果だけを取ってきて、コミュニケーション全般において、話す内容よりも見た目やプレゼンテーションの資料が重要だ、などと結論付けるのは、飛躍していると思います。

皆さんはどう思いますか?
私の中では、コミュニケーションにとって重要な要素は、提供する内容(体系化やわかりやすさも含めて)が5割、相手を汲み取るスキルが3割、視線や声のトーンなどが2割です。もちろんここは人によって様々であるのは言うまでもないです。

担当者:ヤン・ジャクリン(分析官・講師)

人材育成における「コミュニケーション」のお勧め参考図書

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

yan
データ分析官・データサイエンス講座の講師