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家賃が下がる、不思議な家 -音楽にすべてを捧ぐ人生とは?

今回取材を行ったのは、音楽演奏を生活の中心に据えた27歳女性。
鹿児島から月に1回レッスンのため東京へ通った高校時代、そして東京での音大時代、仕事としての東京での音楽活動。

そんな彼女が一人暮らしをする渋谷区のアパートへ伺い取材をさせていただいた。
現在、音楽活動とアルバイトを掛け持ちしており、収入としては半々くらいの割合になっているそう。
平日と土曜日は音楽活動とアルバイトで朝から晩までを過ごし、日曜日は音楽の仕事が無い時だけお休みをしている。

忙しく過ごす日常において、家にいる時間は総じて少なく、家そのもの、そして家の中で何かをして過ごすということに関しては優先度を下げた生活をしている。
また、消費活動においても、基本的には音楽に関わること(スタジオ代・譜面代)が消費活動の中心にあった。

いくつかデータを見てみよう。

総務省統計局の家計調査「平成24 年(2012年) 年齢別データ」からお金の使い方を見てみると、34歳以下の単身世帯におけるメディア利用状況は固定電話やテレビなど従来型メディアにかける金額は少なく、パソコンやインターネット接続、携帯端末にかける金額が多い。
今回のお宅にテレビはなく、日常必要な情報は PC・スマートフォンで十分間に合っているようだった。
また34歳以下女性は「被服及び履物」及び「住居費」への支出が他の性・年代に比べ最も多いのが特徴だが、今回取材に応じていただいた方は、そこの出費が非常に少ない。
人気の渋谷エリアに住む20代女性の一般的なイメージとしては「被服及び履物」及び「住居費」が最もかかっていそうな項目だが、その分の消費を切り詰め、音楽活動に取り組んでいるのがよく分かる。

音楽を続けるにあたって苦労したお金のこと、それを支えてくれた家族、親戚のこと、そして結婚とそれにまつわる挫折のお話。
悩み、決断、家族への想い、様々な心の動きを伺うことができた取材であった。

 

前は演奏可の部屋に住んでいたが、部屋にいる時間が短いため家賃がもったいない、ということで引っ越しをしてきた。
雨が降ったら洗濯物を取り込んでくれ、郵便物や宅配物を預かって届けれくれ、お裾分けをして下さる非常に親切な大家さんに恵まれたことを一番喜んでいた。

入居する際にも、入居後も「なんか大変そうね〜。全然家にいないんじゃない。」という大家さんの一言でなぜかどんどん家賃が下がって行くという不思議な物件。
取材をして感じたが、大家さんにそのように言っていただく、「世話を焼きたくなる」「何か手伝いたくなる」といういう雰囲気を持っている非常に柔らかい雰囲気を持っている家主さんだった。

物件選びのポイントは「5万円以下」で、音楽活動の拠点やアルバイト先である「新宿・渋谷・目黒へのアクセスがよい所」の2つで絞って検討したとのこと。
渋谷区にあり風呂・トイレ別であるこの物件、古い建物ではあるが定期的に下がってきた現在の家賃は驚愕の4万円。

―こんないい場所でこの間取りで4 万円ってすごい安いですね。
最初は7 万くらいで出してたらしんですけど、9月過ぎてまだ空いていて5万円に下げたところで私が引っかかり、「これって敷金・礼金ってありますよね??」と聞いたら、「それはいただかないといけないから、それじゃ4万8千円に下げるわ。」と言っていただいて。
わーー!!ってなって。

「更新料はありますよね?」と聞いたら「更新料はいらないわ」と言っていただいて。
わーーーい!!となって入ったんです。
それで4万8千円を大家さんのところに持って行ったら「大変よね女の子一人で」と3千円返されて4 万5 千円になり、次の月に「4万5千円でいいんでしょうか??」と持って行ったら「いいのよいいのよ、ごめんねこんなボロ屋で、4万円でいいわよ」と言われて、それ以来4万円なんです。

高校生の時は鹿児島から月に1 回東京へレッスンに、そして私立音大での学生生活。
当時はあまり感じなかったそうだが、母子家庭で育った彼女はお金の面も含め今は母への感謝の気持ちでいっぱいとのこと。
部屋の中にたくさんあるサックスは、当時から愛用しているものあり大切な身体と一部となっている。

「高校の時から夢見ていた、音楽である程度成功もして指導もして食って行く、というのはあったんですけど、この年になって結婚という、なんというんですか、問題が出てきて。」と語る彼女。
今では結婚を決意したそうだが、彼の実家が福岡で結婚後は福岡に行くことになるとのこと。
東京を離れるということは、音楽の大きなイベントに出ることを諦めることにも近く、また地方は音楽の派閥色が強く、どこそこの先生の門下生である、ということが重要らしい。
音楽の世界で実力で勝負し、大きなイベントにも出るためには東京にいる必要が非常に高く、地方に行くということは昔から夢見ていた音楽人生を諦めるということにもつながることから、結婚に対しては非常に悩み続けた。
「九州の中で福岡が一番デカいからいいか、みたいな(笑)。完全に諦めにはなっていますけどね(笑)」

部屋は、普段は「忙しい時は、もういいやってなって、その辺にボーンって、化粧品とかもバババーってやってその辺ボーンって、食器もボーン(笑)。で、帰ってきて、うわーーって思う、というのを繰り返しています。」という彼女。

休みの日には必ずキレイにしてリセットするというのを心がけている。
「私ね0か100かみたいなところがあって。」と話されていたのが休日の過ごし方。
寝る日は夜中の3時からその日の夕方まで死んだように寝るそう。
起きているとずっと起きており、掃除や料理も夜中でも始めるとのこと。
昔から楽器も短期集中型で「周りのミュージシャンは寝る間を惜しんで練習しているんですが、私は寝ます(笑)」というライフスタイル。

今の住居に引越してくる際に大量にモノを捨てたという。
そして今は楽譜を買う、楽器に関するものを買う、ということばかりで他のことにはほとんどお金を使っていない。
「服もそんなに買わないです。なので今この部屋に出ているもの、服も靴も含めて、私の全てかも。」と
のこと。
でも彼氏は「こういう服をきたら?」「これがいいんじゃない?」と言ってくるらしく、さすがにまずいかなと思っているそうだ。

少し前にゴキブリが出たらしく、より一層モノを置かないようにしているし、掃除をするようになった。
本当に使うものだけを出し、あまり使わないものは押し入れに押し込む。
それによりスッキリした棚。
棚には大好きなハリーポッターシリーズが並ぶ。友達から借りてそのままになっているのもあるそう。

虫への恐怖。ゴキブリが出て以降は極力キレイにしているキッチン周り。
見えない所あちこちにゴキブリ退治グッズをたくさん置いている。
それにしてもキッチンがこれだけ広く、バス・トイレ別で渋谷区にある部屋が家賃4万円というのは本当に安い。

「私、決して潔癖性というわけではなく、大雑把だし、汚い場所でも寝れるし。」という彼女。
極力キレイにするようにしているが、「キッチンの所の調味料を置いている所は一番汚いです。塩コショウは埃まみれです(笑)」とのこと。

オフの日曜日は、朝・昼はだいたい料理を作る。「出かける時は簡単に親子丼だけとか」を作るらしい。
「親子丼はぶっこむだけで楽!ぶっこんでご飯をチン!」と表現されていた。

「女子らしいところをアピールすると(笑)」と話されていたのがお菓子作り。
彼氏の誕生日を翌日に控えヨーグルトで作るロールケーキの準備をされていた。
ただ作ることが好きというよりもストレス発散が目的でお菓子を作ることが多いそう。
「甘いものを好きなだけ食う!」とご本人談。

作り始めたきっかけは親戚のお姉ちゃん。大学生の頃にお菓子作りを教えてもらい、その影響で作り始めた。
お姉ちゃんに教えてもらい、美味しかったけど難しかったので作ろうと思わないのはシュークリーム。
作るのは「計って〜入れて〜みたいな、簡単なものがちょうどいいです(笑)」とのこと。

お風呂は「カチンカチン」とまわす追い炊きができるタイプ。
ただ実際には利用したことはないそう。
基本的にお風呂はお湯を張り湯船につかるそう。朝に入る時はシャワーだけの時が多い。

シャンプーやリンスなどは、大量生産で市販されているものはつい避けてしまう。
「100% 自然に還れるもので、少量しか作れないかもしれないけど、そういう自然にいい、身体にいいものを探して買っています。」とのこと。
昔からお母さんがそのような人だったらしく、それが習慣となっているようだ。

洗剤が切れてしまったため、今は臨時でこの商品を使っているが、シャンプーやリンスと同様に洗剤もこだわったものをいつも利用している。

冷蔵庫の横の健康器具のようなものは彼が乗ってくる自転車を置く場所とのこと。
高い自転車に乗っているらしく盗難防止のため部屋の中に置く場所を作っている。

食材や調味料等でぎっしりの冷蔵庫。
中華版の味の素のようなものであるウェイパーは非常に重宝している。
普段の飲み物は、お水とブレープフルーツジュースが圧倒的に多いそう。
昔からなぜかグレープフルーツジュースばかりだったらしい。

脱線するがウェイパーは日本のメーカーが作っている。

キッチンのシンク下の収納。この辺はゴキブリが出てからはものを押し込み、あまり見ないようにしている。

<取材後記>

今回ほど笑い声の多い取材は珍しいかもしれない。
そのくらい明るく人を楽しくさせる家主さんであった。
今までが必ずしも希望する形の音楽の道ではなかったこと、精神的な面から一時期音楽を続けられなかったこと、お金に苦労しアルバイトをしていた時期のこと、そしてそれを全面からサポートしてくれていたお母さんを筆頭とした心暖かい家族のこと。
そういった面も含めて今までの人生の全てを注ぎ込んできた音楽活動。
ちょうど取材に伺った頃には、今まで描いてきた夢の道を諦め、結婚するかどうか、非常に長い期間悩んできたことに結論が出た頃でもあった。
ある種吹っ切れたような彼女の笑顔、明るさはそれが理由だったのかもしれない。
また、部屋の中は一般的にイメージする20代女性のものよりもさっぱりしており、男性的な印象も受けた。
趣味と実益をかね、音楽活動が中心の生活を送っているというのもあるが、彼女曰く「友達のお家に行くと、可愛いなぁとか思うものがたくさんあるんですけど自分の家にそれ置こうとは思わないんですよね。買おうと思わないというか。私だったら、それ買うよりだったら食の方に走るかも(笑)」と話されていたのが印象的だった。

部屋はその人を表すなぁとしみじみ感じたのを覚えている。
また今の印象からは想像がつかないが、以前はキリッとして、自分にも周りにも厳しい人柄だったそう。
10代の頃はストイックに音楽に打ち込んでいたそうだ。
どちらかというリーダー的な性格からどんどんみんなを支えることが多くなり、今では「ふにゃーっとした性格」になってきたとのこと。
「それが楽しいと思えたからか、自然とそうなってきた」というのも印象深いお話だった。
結婚後は東京を離れ、福岡に行くことになるが、彼氏のお父さんが尺八をする人らしく、「君も吹くか?」と言ったそばからポンと尺八送ってきたそうで、時々練習をしているようだ。
サックスとはまた勝手が違い難しいらしい。
お義父さんとのセッションが楽しみとのこと。
今では福岡に行くことを楽しみにしている彼女。
一見しただけでは分からない彼女の悩みや苦労、そして性格などもよく分かる取材となった。

末永くお幸せに。