雑談

アメリカの”狭い家”ブームに需要アリ!? – 日本製品を売り込め!

十何年も前、まだ東京で働いていたころ、帰国子女の同期の女の子の部屋に泊まったことがあった。彼女の部屋の間取りは1Kで、終始「狭くてごめんねー」と謝られたが、とんでもない。廊下もキッチンも浴室もトイレもゆったりしており、自分が住んでいた1Kの部屋よりも明らかに広い造りだった。やはりアメリカ生活が長かった帰国子女ともなると、ドメドメ日本人の私が広いと思う部屋も狭く感じるんだろうなぁ、と感じたのを覚えている。

歳月を経たいま、私自身がアメリカで暮らしているわけだが、たしかに住む場所はムダに広い。で、そんな広さに合わせてかどうか、いちいち色んなもののサイズがむやみにデカい。冷蔵庫は人間2人が隠れられるくらいデカイし、風呂釜も2人が一緒に寝そべられるくらいデカイし、洗濯機も大人1人がスッポリ入れるくらいデカイ。

東京の狭い家で育った身としては、そんな広さを始めは歓迎してたものの、しまいには
「掃除する面積が広すぎて億劫」
「風呂に溜める水の水道代ってどれくらいかかるわけ?節約のために風呂に漬かる回数を減らしてシャワーだけにしとこう」
「この巨大な洗濯機の電気代ってどれくらいかかるわけ?節電するためにせめて乾燥機は使わないようにしよう」
などなど、掃除に掛かる手間や時間、光熱費にかかるお金などが気になって仕方なくなる。

総務省統計局と外務省のデータを基にまとめられた「床面積で比べる世界の家の広さ」によると、1世帯平均3人に対する平均的な住まいの床面積は
日本:84平方メートル
アメリカ:205平方メートル
となっており、明らかにアメリカの方が平均的に広いことが伺える。

また、アメリカ国勢調査局の1973年から2013年までのデータ調査によると、平均世帯人数はこの40年間の間に減少したにも関わらず、一軒家の平均サイズは1660平方フィート(154平米)から2679平方フィート(249平米)にまで上昇したという。

こうしてみると、「家はデカイ方がイイ」というのがアメリカ人の総意であるかと見まがうだろう。ところが、そんな流れに逆行するかのように、「狭い家に住むほうがもっとイイ」という動きが、まだまだ一部とはいえ、この数年目だって来始めている。

俗に”Tiny House Movement(狭い家に住もう運動)”やら”Downsizing(家の小型化)”と呼ばれる狭い家を良しとする動きは、まだまだ給料の低い若者層のみならず、それなりの年収を稼いでるはずの5-60代の世代にも広がっているらしい。狭い家が世代を問わず支持されるようになった主な理由を挙げるなら、

1.経済的理由
多くのアメリカ人は、給料の3分の1から2分の1近くを住宅ローンの支払いに15年ほど費やしている。そのためアメリカ人の76%は、貯蓄も出来ないくらい毎月カツカツの生活を送っているほどだ。デカイ家を買ってデカイ住宅ローンを抱え込むくらいならば、狭い家を買って住宅ローンをなるべく抑えるというのは、至極当然な流れといえる。

2.環境への配慮
デカイ家を作るには相当の木材・石材など資源を費やさなければいけない=環境に優しくない。その上、デカイ家で使う暖房費・クーラー代・高熱水道費などバカにならない=環境に優しくない。

3.自由な時間が増える
デカイ家ともなると、何かが壊れたり痛んだりしないよう終始どこかしらを修繕しつづけなくてはならないので、修繕費もさることながらそこに費やす時間もバカにならない。それに家の掃除・家具のお手入れなどにも時間がかかる。一方、狭い家ならば修繕する範囲も掃除の範囲も狭まるるので、自分で自由に使える時間が増えるて、家のメンテに縛られずもっと人生を横臥できるようになる。

おそらく若者世代は経済的理由をメインに、そして、子供達が巣立ったあとの5-60代夫婦ふたりきりになったような世代は自由時間をメインに、狭い家を求めるようになるのだろう。

こんな最近の流れを汲んでかどうか、ケーブルTVでは狭い家を紹介する番組が次々と登場している。去年の夏には”Tiny House Nation(「狭い家国家」)”が、去年末には”Tiny House Hunters(「狭い家探し人」)”が、そして今年は”Tiny House Hunting(「狭い家探し」)”が始まっている。多くの住宅紹介番組は、いかにデカイ家をいかにデカくて素敵な家具で飾り立てるか、みたいな趣旨のものが多いので、これら狭い家紹介番組は極めて斬新である。

で、この現象、バカデカくない家に住む日本人の立場からすると、「で、だからナンなの?」と思ってしまうだろう。でもこの、アメリカ人の狭い家の追求って、日本人にとってデカイ商機だと思う。これまでデカイ家に住むのが前提で作られてきたアメリカ製のデカイ家電にデカイ家具。どの店にいっても小回りのよい小さめの洗濯機や冷蔵庫や掃除機など、お目にかかったことがない。それにキッチンだって、でかいガスコンロにでかいキッチンキャビネットばかりで、デカイ家のデカイ台所を前提にした商品ばかりだ。つまり狭い家に当てはまるような家電や家具や収納具などがまだまだアメリカには存在していないのだ。なのでここで、日本メーカーが当たり前のように日本向けに作っている小振りな電化製品やら家具や、もしくは日本向け設計の小さい住宅家屋をアメリカ市場に投入すれば、需要は間違いなくあるし、これからどんどん伸びるはず。

参考資料

アメリカの家サイズの変遷