導入事例

マーケティングのヒントは”地域密着型コミュニティ”! – 消費者行動モデルが見事に活かされているサービス

ミレニアル世代を刺激する!?『啓発系』商品が熱い!9月末、とある高校アメフト試合で逆転優勝をおさめたチームのワイド・レシーバー選手の試合後インタビューが、全米に旋風を巻き起こした。いくら...

前々回に取り上げた『啓発系』商品の記事のなかで、ルルレモン(Lululemon)という若い女性に人気のスポーツウェア専門ブランド店に軽く触れてみた。今日はルルレモンの恐るべき有効なマーケティング手口をさらに掘り下げて突っ込んでみたい。

ルルレモンは1998年にカナダで創業したスポーツウェア専門ブランドで、現在ではカナダ、アメリカ、オーストラリアに200以上の店舗を展開している。時代の先端を行く技術を駆使した素材とデザインで、高品質な商品のため値段も高めだ。たとえば女性用ボトムなら平均100ドル、トップスなら平均70-80ドルが相場だ。

私がルルレモンの存在を初めて知ったのは、今から6年前のこと。友人から「無料のヨガクラスが土曜朝に開催されてるので行こう」と誘われて行った先がルルレモン店舗だったのだ。どうやら、近所のヨガスタジオの先生をお呼びして、開店時間の1時間前から無料ヨガクラス1時間を店舗内で毎週無料開催しているらしい。ヨガマットも無料で貸してくれるので、私のような初心者が気軽に手ぶらで参加しても全然問題ないのだ。

この友人は仕事の都合で別の都市へ引っ越していったが、その後も私は忠実に毎週土曜朝の無料ヨガクラスに参加し続けた。続けて参加するなかで観察したことをいくつか列挙してみよう。

  • 無料クラスを開催するヨガの先生は毎月刷新される。たとえば9月はXYZヨガスタジオの先生だったが、10月はABCスタジオの先生、という感じ。なおかつ、先生方は無料クラスを施して帰るのではなく、「今日参加してくれた皆さんには、XYZスタジオでのクラス受講料20%割引券を差し上げます!」というように、自分のスタジオの宣伝も抜かりなく行う。おかげで、気に入った先生のクラスをさらに続けて受講したいなと思ったときは、その先生のクラスを割引購入できて、なんともありがたい。
  • 無料提供されるのは、ヨガだけではない。無料クラスが終わった後に、「近所のXXベーカリーからマフィンの無料差し入れが届いてるのでみなさんどうぞ!」「近所のXXピザ屋から無料差し入れが届いてるのでどうぞ!」「スポーツ愛好者に人気のXXエネルギーバーをたくさん用意したので、どうぞ試してください!」近所の飲食店やスポーツ好きなら興味が沸きそうな食品・飲料のサンプルなどもしょっちゅう無料でもらえる。
  • 無料ヨガクラス参加者だけのルルレモンからの特典もある。たとえば、毎回参加者の中から抽選でひとりにルルレモンの新品ヨガマットをプレゼントしてくれる。または、クラス終了後商品を購入される方には特別割引実施中、といったアナウンスもあったりする。
  • ヨガの先生や店舗の店員はもちろんのこと、無料クラス参加者の殆どがルルレモンの商品を身に付けて参加している。ただルルレモンの商品は、かなり高めだ。ヨガパンツ1着100ドル近く、ヨガシャツ1着80ドルくらいする。いつも店舗内で色鮮やかで高品質そうな商品に囲まれヨガを行う中、「欲しいな」「でも高いな」という葛藤をずっと続けつつ当初1年くらいは頑張って着古しの自前スポーツウェアで参加してたのだが、プレッシャーに負けてというのと、いつも無料クラスに参加させていただいてる御礼にと思って、とうとうルルレモンのウェアを買い始めた。同じような「着古しのシャツ→ルルレモン商品」改宗パターンを辿る者は、私以外の新規参加者の間でも頻繁に垣間見られた。

お分かりだろうか?あれやこれやと無料の商品・サービスで至れり尽くせりでお出迎えいただいた消費者が、マンマと商品購入の罠へと堕ちていくサマが伝わるだろうか?!

俗にマーケティング用語でいうところの「消費者行動モデル」という、消費者が商品・サービスを認識してからファンになるまでの行動・心理プロセスを、ルルレモンのこの一連の無料クラス体験はナンとも巧く網羅しているのだ。

消費者行動モデルの流れ

    • 認知(商品の存在を認知):
      無料クラスを店舗内で開催することで、ルルレモンというブランドの存在を認識してもらえる

  • 興味(商品に興味を持つ)
    店舗内に展示された商品を毎回眺めることで、デザインや品質の良さに興味を持ち始める。また身の回りの参加者が身に付けてるルルレモンのウェアを見ることで、実際どれだけフィットが良いかとかも目に付くようになる

  • 行動(商品を手にとってみる、試してみる、他ブランド類似商品と性能・価格などを比較してみる)
    無料クラスの後で実際に商品を手にとってみたり試着できる。また無料クラスの際にはルルレモンのヨガマットを無料で貸してもらえるので、その高品質度を実体験できる。回りのルルレモン商品を身に付けた参加者に「着心地はどう?」などと感想を聞いて参考にもできる。

  • 購買(商品を買う)
    すでに店舗にいるので、買おうと思ったときはすぐ買える

  • 使用(商品を使う)
    買ったウェアを着用しクラスに参加できる

  • ロイヤリティ(商品を気に入ってまた買う、口コミで情報共有する):
    あまりにも色々な無料好待遇がすばらしいので、もっと買って支えてあげたくなる、他の友達に広めたくなる

しかも何がスゴイって、上記のモデルが応用されるのがルルレモンの商品のみだけじゃないのだ。無料ボランティアでクラスを提供してくれるヨガスタジオ、そしてクラスに無料で飲食品を提供してくれる近所の飲食店・スポーツ飲食品ブランドも同じく、クラス参加者に認知、興味をもってもらい、購買へと進む布石を敷くことができるのだ。

つまり、ルルレモンの店舗を通じて、「ルルレモンの商品」「地元ヨガスタジオ」「地元の飲食店」「スポーツ好きな人向けの飲食品ブランド商品」「消費者」をつなぎ合わせ、皆がお互いに恩恵を受け合う地元密着型のコミュニティーを築いてくれているのだ。

で、そのことに気づいたとき、「おお、こんな地元に貢献するコミュニティーを築いてくれるルルレモンって、すンばらしいな!」と、その信念というか滅私奉公的な姿勢というか、そういうのに感心してもっとファンになってしまう、というのもさらにスゴイ。

このコミュニティーを築いて皆が恩恵を受け合うという形、日本でも比較的簡単に応用できて売上増加を見込めるのではないだろうか。お客さんが自分の店に来店する理由となってるはずの興味の対象を無料セッションなどの形でタイアップ提供するのがコミュニティー作りのポイントになるはず。たとえば……

ルルレモンのようなスポーツ専門店であれば、「ランナーのための筋トレセッションを地元パーソナルトレーナーを迎えて毎週無料開催」などして、パーソナルトレーナーは自分のサービスをXX%割引で提供などと宣伝できるし、専門店もランニングシューズをセッション参加者に限りXX%割引で提供などとプロモーションできるだろう。

インテリア雑貨屋であれば、地元花屋さんと協力で「カフェテーブルを彩るフラワーアレンジメントのワークショップ毎週無料開催」など行い、店舗内の花瓶やカフェテーブルをXX%割引販売したり、花屋さんでの次回花束購入500円割引券の提供とかイイかもしれない。

ルルレモンのHP