雑談

「音楽無快楽症」なるものが存在するらしい。

前回に引き続き、音楽に関する研究をご紹介したいと思います。

「好みはあるにせよ、全ての人は何らかの音楽を好み、楽しんでいる。」

この研究に関する記事をみて、自分が今まで無意識のうちにそう考えていた事に気付きました。
しかしながら、この研究は私のようなウッカリな考えを全否定してくれております。

「音楽無快楽症」という症状

アメリカのCell Pressが発行するCurrent Biology誌に掲載されたレポートによると、全ての人が何らかの音楽を好んでいるわけではなく、世の中には音楽に対する感受性が低い、言い換えれば音楽を聞いても何も感じない人がいるそうです。このような症状は「音楽無快楽症」と呼ばれているそうです。

「音楽無快楽症」の仕組みを解き明かすことは、音楽の神経基盤を理解する上で大変重要な事です。それはどのように音楽が感情に翻訳されていくのか、その仕組みを理解する事でもあります。 – バルセロナ大学の研究チーム

この研究では、一人ひとりがどのように音楽を楽しんでいるのかの違いを探り、音楽に対する感受性が低い人がなぜそうなのか、いくつかの説明を導き出しました。

実験の手段として、音楽の感受性のレベル(高、平均、低)によって分けられた各グループ10名の被験者に、以下のタスクを実行して貰いました。
・心地よい音楽を聴いたあと、その快感度合いを自己評価してもらう。
・MIDタスクと呼ばれる、報酬への期待と脳反応の関係を明らかにするゲームをしてもらう。(勝つために対象物に対してすばやく反応し、金銭的な損失を避けるというもの)

研究者たちは、被験者の脳の動きに加え、心拍数や、感情の生理的な指標として皮膚伝導反応(神経や発汗の作用によって皮膚中での熱や電流の伝わり方が変化すること)なども計測しました。

その結果、どちらの実験でも被験者の脳からドーパミンが生成されていることが確認され、さらに脳の報酬系(欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快の感覚を与える神経系のこと)の関与も見られました。

音楽無快楽症の人は他の刺激に対しても鈍感なのか?

この実験から導き出された結果は、いたって明解であると言えます。

幸せであり、健康的な人たちの中にも、音楽無快楽症の人が存在するのです。

これらの人は他の人と同じように音楽を認識する能力があるのにも関わらず、音楽に対しては生理的反応(自律神経反応)を示しませんでした。その一方で、金銭的報酬に対しては他の人と同様に生理的反応を示していました。

このことから、音楽に対する感受性の低さと、金銭的な報酬に対する反応は関連していない事がわかりました。
すなわち、報酬という刺激に対する感受性には問題はなく、音楽という特定の刺激に対してのみ無反応だと言うことです。

音楽無快楽症の人は、それ以外は全く他の人と変わらなかった、という事ですね。

音楽無快楽症が起こる仕組み

では、なぜそのような症状が発生するのでしょうか。

今回の研究ではその原因まで特定するには至っていないようです。
しかしながら、人がある報酬に対して敏感で、別の報酬に対してはそうならないという事があるということは、脳における報酬系へのアクセスには複数のルートがあり、それぞれの人には他の人のそれより効果的なルートがあるという事を示唆しています。

確かに考えてみれば、人間が一様に同じ動機(≒報酬)に基いて行動するとしたら、多様性が失われるようで面白くないですよね。

私にとって音楽は絶対に欠かせないものですが、他の人にはそれぞれ違った価値があるという、当たり前の事実を再認識しました。

それにしても人間って不思議な生き物ですね~