データサイエンス

驚くべき手法で可視化されたアメリカ社会の真実 – アートで統計を表現する

 

アメリカでは毎年70万人以上の18歳以下の若者がタバコを吸い始める – そんな現実を斬新な手法で可視化する試みがあります。アーティストであるクリス・ジョーダンが、様々な統計をアートとして表現し、ショッキングなアメリカ社会の真実を我々に見せてくれます。(※この講演は2008年に行われたものです。)

『無意識が与える悪影響』

私の仕事は、社会全体で無意識に行う行動についての研究です。つまり、私達が気付かずに 、日常の意識下で行っている行動の事です。私達は個人的にそれらの行動を毎日行っています。誰かに怒っている為自分の妻に当たったり、心配事があってパーティーで飲み過ぎたり、傷ついて過食に走るというような事です。これらの事を3億人が無意識に行う時、誰も思いもよらないような悲劇的な結果がもたらされます。写真を通してこの事をお見せしたいと思います。

これは最近完成したもので、遠くから見ると新ゴシック様式の、公害を出す工場の漫画のように見えます。少し近づくと化学工場や、精油所のパイプや、入り組んだ高速道路に見え始めます。ずっと近づくと実は、本当にたくさんのプラスチックコップだと気が付きます。これは実際、6時間ごとのアメリカの飛行機で使われる100万個のプラスチックコップです。1日の飛行で400万個のプラスチックコップが使われ、再利用やリサイクルはこの業界では行われません。

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さてこの数はコーヒーなどの熱い飲物の為に毎日使われる、4千万個の紙コップと比べて小さく見えます。4千万個のコップはキャンバスに入りませんでしたが、41万個は入りました。これで41万個です。15分間の消費量です。実際積み重ねるとこうです。1時間分のコップです。1日分のコップです。人が下に小さく見えますね。42階建てのビルと同じ高さで、比較の為自由の女神を載せました。

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正義と言えば、私達の文化で起きているもう一つの憂慮すべき現象があります。アメリカは現在地球上のどの国よりも、人口における囚人の割合が多いのです。刑務所にいる4人に1人はアメリカで収監されているアメリカ人です。数をお見せしましょう。230万人のアメリカ人が2005年に投獄されています。今はもっといますが、まだ数字は出ていません。230万の実際の囚人服をお見せします。それぞれは5セントの厚さです。とても小さくて何であるかほとんどわかりません。230万着分をお見せするには、世界のどのプリンターがプリントするより大きなキャンバスが必要です。 そこで何枚かのパネルに分け、縦3.5m横7.5mの大きさになりました。ニューヨークのギャラリーに展示されており、これは私の両親が見ているところです(笑)。これを見ると、母が父に「息子もやっと洗濯物を畳むようになって。」と ささやいているように思えます(笑)。

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次は依存症についての作品をお見せします。これは煙草依存症についてです。喫煙で死ぬアメリカ人の実際の数をお見せしましょう。毎年アメリカで40万人以上が喫煙で亡くなっています。この作品はたくさんの煙草の箱からできています。ゆっくり後ろに下がると、ゴッホが描いた「煙草を吸う骸骨」が見えます。9月11日の悲劇で3千人のアメリカ人が亡くなった時の反響を考えるとおかしな感じです。この事件は世界中に反響を呼び、これからもずっと影響を与えるでしょう。100年先まで語り続けられる事でしょう。しかし同じ日に1100人のアメリカ人が喫煙で死んでいます。次の日も又1100人のアメリカ人が、そしてそれ以降も毎日1100人ずつ死に、今日も1100人のアメリカ人が喫煙で死んでいます。私達はそれについては語ろうとせず、関心を持とうとしません。煙草の団体が強過ぎるからです。私達は煙草の害を意識から追いやり、その破壊力を知りながら、自分達の娘や息子に煙草を始めるような環境を提供してしまうのです。

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これが次の作品のテーマです。6万5千箱もの煙草でできています。これは今月、そして毎月煙草を吸い始める十代の若者の数と同じです。70万人以上の18歳以下の子ども達が、アメリカで毎年煙草を吸い始めるのです。

皆さんにお知らせしたいアメリカのもっとおかしな病は、処方薬の乱用や悪用です。これはたくさんのバイコディン(鎮痛剤)の映像です。実際は一つのバイコディンを何度もコピーしたものですが― (笑)。離れると21万3千個のバイコディンが見えますが、この数はアメリカで処方の痛み止めと抗不安剤の乱用や悪用で救急病院に運ばれた人数と同じです。アメリカでコカイン、ヘロイン、アルコールなどの不法な麻薬を含め、すべての過量摂取された薬の3分の1は処方された薬なのです。おかしな現象です。

これはつい最近完成した、もう一つの悲劇的な現象の作品です。豊胸手術を望む女性が増えているという現象です。38万4千人のアメリカ人女性が昨年豊胸手術を受けました。これは大学に行く前に行われる、最も人気のある高校卒業プレゼントに急速になりつつあります。このイメージをバービーで作りました。花の模様をかたどっていますが、ずっと離れると3万2千体のバービーが見え、その数は毎月アメリカで行われる豊胸手術と同じ数です。その大多数は21歳以下の女性です。そしておかしなことに、豊胸手術より人気のある唯一の手術は脂肪吸引で、そのほとんどは男性に施術されています。

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『アートが持つ力』

強調したいのは、これらはただの例であるという事です。最大の争点というわけではありません。 ほんの例です。このような例を挙げる理由は、我々の社会全体が感情を失いつつあると危惧するからです。現在のアメリカはいわゆるマヒ状態です。我々の国や文化で今現在起こっている事や、アメリカの名の下、世界中で我々自身が行なっている非道に対する怒り、憤り、悲しみを私達は失ってしまいました。これらの感情がなくなってしまったのです。文化的、国民的プライドはどこにも見られません。その原因の一つは、我々個人が、物事は相互につながっていると観る世界観、つまり世界のすべての物事全体を、頭の中で一度に思い描く世界観を築こうとしてしまうからだと思うのです。我々が買う物が千マイル先の環境に及ぼす影響や、消費者としての決断が1万マイル先の社会に及ぼす結果などを一遍に思い描こうとするからです。

この世界観を築き上げ、我々の文化の巨大さを把握する為に向き合わなければならないこれらの数字は、何百万、何億、何十億、いまや何兆という巨大なものです。ブッシュの新しい予算は何兆ドルで私達には計り知れない数です。これらの巨大な統計から意味を汲み取ることはできません。私が作品を通してしようとしているのは、データの生の言語であるこれらの数や統計を、より普遍的で感じる事のできる視覚による言語へと翻訳する事です。より深く感じる事ができれば、これらの問題が今より私達にとって重要なものになると信じるからです。そしてそれができれば、各々が「私達はどう変わればいいのか」という大きな課題に必要なものは何かがわかります。これが現在我々人類が向き合うべき大きな課題です。文化としてどう変わるべきか?個人ができる小さな解決方法の為に、我々はどのように行動を変え、どう責任を取るべきなのか。

これらの問題に対して自分達を責める必要はないと私は考えます。アメリカを名指しで責めているわけではありません。これが今の私達なのです。もし私達の文化に好ましくない部分があれば選択肢はあります。それは私達がどれだけ誠実にこの問題の解決に挑戦できるか、改善するためにどれだけ強い道徳心を持って立ち向かえるかにかかっています。この挑戦は私達の個人として、国としての本質を明らかにし決定づけていくものになるでしょう。そして、私達の選択の結果を受け継ぐ、何億人の子孫の幸福や生活の質に深い影響を及ぼすでしょう。これは観念的な話ではありません。ちょうど今この部屋にいる私達自身の話なのです。
ありがとうございました。

(拍手)

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