5.企業としての価値向上を目指すデータ・ドリブン・マーケティング
最後に、データ・ドリブン・マーケティングが企業価値の向上にどのような貢献できるかを考えてみたいと思います。教科書的に書いてあることに従えば、資源(=事業資産)を活かしてその企業価値を上げるには、次の方法しかないと言われています。P・F・ドラッガーによるとそれは、
- マーケティング
- イノベーション
- 生産性向上
の3つです。決して、技術力や資金力ではありません。「我が社は技術力が凄いのだ」と意気込んで、技術力の向上を最大の目的にしたところで、企業の価値はさほどあがりません。そのことに気づかずに躓いていった企業は決して少なくありません(ここでの事例は多くの文献で既知になっていますので割愛します)。
図表4.企業価値を上げる3つの方法
そのことを理解したうえで、データ・ドリブン・マーケティングへの期待を示すのならば、イノベーションの分野における役割だと思います。これまで見てきたようにマーケティング指標の精度を上げるだけでなく、新たな事業のしくみを創る役割を担うのです。
もう少し具体的に考えてみましょう。例えば、ある地域の車の移動がすべてデータとして取れるとします。分析してみると、2割の人は常に急いでいて、8割の人はそうでなかったとします。2割の人は電車でいうと特急電車に乗りたいのであって、8割の人は普通電車でいいわけです。そうすると、2割の車は余分に通行料を払う代わりに急がせてあげれば、8割の人は料金(税金とか)が安くて済みます。そのような金銭的交換が自動的に計算できるようになると、新たな市場として成立するかもしれません。
実現性はともかくとして、現在はこのような新たな市場(マーケット)が開かれる技術的な可能性が多くあり、新たな市場はデータ・ドリブン・マーケティングを推進していく延長上で築けるものでもあるはずです。そのようなことで、広告業の皆さんも大いなる野望を持ってデータ・ドリブン・マーケティングを担って頂きたいと思います。
※JAAA誌9月号既掲載分を一部改編
(終わり)
[参考文献]
マーク・ジェフリー 「データ・ドリブン・マーケティング」 ダイヤモンド社 2017年
データサイエンティスト協会 「データサイエンティストになろう!」2020年度版就活ガイド
e-Governance Academy(三菱UFJリサーチ&コンサルティング訳) 「e-エストニア デジタルガバナンスの最前線」 日経BP 2019年
P.F.ドラッガー 「マネジメント[エッセンシャル版]-基本と原則」 ダイヤモンド社 2001年