導入事例

データ・ドリブン・マーケティングって、なに?[第3回]

3.さて、何から始めるべきか?

 

貴方にデータ・ドリブン・マーケティングを導入すべしという指令が突然に下りてきたら、貴方は何から始めるのだろうか?少なくとも指令が下りてきた時点では、データ・ドリブン・マーケティングを導入することが目的ではなくて、データ・ドリブン・マーケティングで「これを実現したい!」という計画があるのが前提です。それでは、以下の3つから選んでみて下さい。回答はひとつだけ。

 

選択肢:

A 片っ端からデータを集めて分析する

B 現場でデータがどのように活用されているかを観察する

C 社内にはないアイディアを求めて社外の人と議論する

 

貴方の会社は、すでに何らかのマーケティング指標(例えば、「ブランド認知率」「顧客満足度(CS)」など)を導入している企業だとします。そういった企業における最大の課題は「共有問題」です。さらにこの共有問題にも大きくわけて2種類あります。ひとつは、インフラの未整備の問題です。サーバーが脆弱で、データが届くのに時間がかかり、膨大な計算処理に追われ、結果誤った分析をしばらく信じていたという、笑えない話は本当によくあります。もうひとつは、個人や組織のデータリテラシの問題があります。正しいデータで適切な指標を必要なタイミングで示すことができても、意思決定する担当者がその結果を活かそうとしない(あるいは、できない!)と折角のデータは無駄に終わります。

つまり、どんなに優秀なデータサイエンティストや豊富なデータが揃っていても、2つの大きな障害が待ち受けており、実現したい目標にはまったく届かない厳しい現実が待ち受けているということです。担当者の貴方は会社から叱責され、責任を取らされるかもしれませんね。

 

これを解決するひとつのアイディアとして考えられるのは、「小さな成功事例(quick win)」を積み上げることと、「ファン(あるいは広めてくれる人)」をつくることです。それを実現するために、私としては先の選択肢から、まず「B 現場でデータがどのように活用されているかを観察する」を選びます。しかも、データ活用が出来ていない部署を探すのではなく、むしろ良くできている部署を探すことが重要です。なぜなら私には、そのような部署だからこそ理解者に引き入れ、「小さな成功事例」を生み出し、いち早く「ファン」になってもらえると思えるからです。このような地味(いや、地道)な活動を通じて、大きな岩に風穴を開けるようにプロジェクトを進めることが貴方には求められます。

 

Topic:巨大なオンラインサービス企業の事例

1,000万ユーザ以上の会員を誇るオンラインサービスのプラットフォーム企業における、データ利活用の事例について考えましょう。その会社はデータに基づいた施策立案によるサービス向上を図るために、大変有名なBIツールのライセンスを購入し社内のウェブディレクタへ配布しました。その1か月後に判明したことは、初級トレーニングを終えた社員であっても全く使った形跡がないことでした。理由は複合的ではありながらも、大きく次の3種類に分類されます。

 

A: 機能を理解しても、自分の業務にデータを当てはめる方法が想像できない

B: 使い慣れたエクセルの手作業から離れられない

C: 上司がツールで分析した結果を見ようとしてくれない

 

便利なツールであることは間違いなかったので、この会社では組織を横断した”週次数値分析共有会”なるミーティングを活用して、分析文化の醸成に取り組みはじめました。初期の段階で最も効果の高かった施策は、最後に共有会に参加した新人社員を2か月でBIツールの先生に仕立て上げたことです。今まで何も知らなかった新人社員が、短期的に教えられるレベルまで成長できる光景を目の当たりすると、意外と簡単に覚えられることが周囲には伝わります。また、質問してもすぐに回答してくれる先生が近くにいると、初期の心理的ハードルが下がります。社員にとって重要なことは自部門の目の前の課題を解くことです。、理解できていない社員の身近な距離に「先生」を置くことで、分析作業はチームとして初めて機能します。

もう一つ効果的だったことは、データ分析のやり方を教わった人は、自分なりに咀嚼して役立った点を共有会で話してもらうことです。これにより豊かな分析事例が増えていき、クリティカルマス(Critical mass)を超えると、自分から学びたい人が自然と増えていく循環ができます。

このような貴方の活動が認められ、インフラへの投資が進み、社員のリテラシが徐々に上がっていっても、まだ次のような問題があります。貴方の会社はいくつ当てはまるでしょうか。再び、以下の3つから選んでみて下さい。複数回答も可です。

 

選択肢:

A そもそも顧客データが足らない

B 開発したシステムが分析用になってない

C 分析が難しすぎてできなーい!

 

どの選択肢も当てはまる会社もあれば、大きな問題が見受けられない会社もあるかもしれません。このうち、自社で解決できる可能性があるのは「B 開発したシステムが分析用になってない」くらいであって、それ以外の問題は、資金力や技術力だけでは補いきれないものです。おそらく、「A そもそも顧客データが足らない」その会社は顧客データを集めるための画期的なアイディアが必要であったり、「C 分析が難しすぎてできなーい!」会社はそもそも現在の技術力では達成できない途方もない分析結果を望んでいる可能性が大きいのです。

資金力のある企業では、顧客データの欠如については、いわゆるサードパーティからのデータ供給やアンケートデータによる拡大推定などが取り入れられています。そのような方法も一考であると尊重しつつも、私としてはもっと顧客の「行動予測」を分析して欲しいと思っています。ここでいう顧客の行動予測とは、顧客の購買確率であったり、購買金額の予測のことです。先月にある商品群をある合計金額分を購入したグループが、翌月に購入する確率はどれだけか?あるいは、翌月に購入する合計金額はいくらぐらいか?と予測することです。同時に、はたして「それはなぜか?」という課題に担当者はぶつかります。そこにたどり着くことが重要であって、その時点で担当者は「このようなデータが欲しい!」と考えるようになります。

また、最近のAI(人工知能)に対する期待から、いまの解析技術なら何でも答えが出ると考える担当者が存在するのも事実です。担当者が抱く「世の中で次は何が流行るか当ててほしい」「水玉の洋服とストライプの洋服のどっちがどれだけ売れるか教えてほしい」というのは妄想すぎるとしても、それに近い線の要求は現実的にあります。それよりも大きな問題だと私が思うのは、担当者が抱いた妄想をより現実的にするためのアイディアにチャレンジしないことです。例えば「次に何が流行るか当てる」ことはできなくても、「次に何が流行るかをいち早く察知する」ことができたり、「この中のひとつは90%の確率で流行る」と示すことが我々にはできるかもしれません。

これらの分野でも、現在のデータ収集向けのインフラと解析向けテクノロジーの発展には凄まじいものがあり、これまで出来なかったことができるようになると、我々は大いに期待してよい分野だと思います。

※JAAA誌9月号既掲載分を一部改編