データサイエンス

やってわかった!チャットボットの開発の現状【後編】

本記事の【前編】では、チャットボットの基礎概念、代表的な使用例と構築の段取りを紹介いたしました。

各社導入の嵐?チャットボット開発の現状【前編】1. チャットボットの紹介 1.1 チャットボットとは チャットボットは一般的に、チャット(会話)とボット(ロボット)を組み合わせて...

本記事ではGRI社内のチャットボットの導入の現状を紹介いたします。

1. GRI社内チャットボットのコンセプト

近頃GRIではクライアントからチャットボットを用いたソリューションの提供に関する問い合わせが増えています。使用例として学生の進路相談や修理サービスの受付などが挙げられます。そこでGRIのHPに載せるチャットボット(以下「ツトムくん」)の導入から開始することにしました。開発理念としてはHPへの外部訪問者の情報取集及び「GRI社員が欲しがるもの」です。

一般的にサイト訪問者の行動としては、メニューを辿りながら情報を概観的に見渡す「ブラウシング」と、予め知りたいことが明確に決まっている「検索」に分類できます。両方に関してツトムくんは以下の役割を目標としています。

•ユーザーを素早く情報まで導くサポート

•HPに露わに掲載されていない内容やメールで問い合わせにくい内容やユーザーから受け付ける

•会話を通じてユーザーの行動パターンを推測し、個人のニーズに対応する

•対話を交わしているうちにユーザーにご自身は何を知りたいか改めて気づかせる。

ツトムくんは外部からの訪問者だけではなく、GRI社員のためにも色々役立てられます。新入社員に会社規則や物の場所を、営業担当が素早く顧客に提示できる資料やデモを案内します。また、頻繁に来る同じような問い合わせにボットが応じてくれると、事務担当の方の手間がだいぶ省けます。さらに、自分自身はチャットボットサービスのデモの役割も果たせます。

2 社内ボットの仕組み

【前編】で言及した通り、「賢い」ボットを実現するコツとしては、欲張らずにボットの意義と得意・不得意を明確に宣言し、適用できる範囲を絞り込みその中で的確に力を発揮させることです。サイトへの訪問者にGRIを案内するという役割を十分に担い、それ以外の機能は対象外であることをユーザーに認識させるようにツトムくんを設計してきました。会話の各段階において次に相手が望むことを選択肢を与えて聞き出し、会話が広がりすぎないように工夫しています。ある程度はフリーワード検索でも対応させています。ユーザーのリクエストを受けて次の会話(返信もしくは更に詳しく要望を聞き出すための選択肢)に移ります。返信する際は、その場での短い回答か該当情報を含むURLまでの案内になります。

会話の表現の揺らぎを辞書で吸収しきれなかった時や分野外の特殊な質問をされた時など、時にはユーザーの予想通りの返答ができない場合もあります。その場合は一旦お詫びをしてからトップに戻るか質問を繰り返して頂くか、ユーザーを迷子にならないように配慮しています。

ツトムくんはIBMワトソンのConversationというAPIを用いて作っています。こちらは【前編】で紹介したルール型ボットを基本としながらある程度の機械学習と自然言語処理の機能が備えられているのと、素人にも使いやすいボット構築インターフェース故に認知度と人気があります。構築の概念としては、「何をしたいか」に対応するインテント(例:「教えて欲しい」)と「リクエストの対象」に対応するエンティティー(例:「採用情報」)を定義し、それらを自然な会話フローになるように繋いで行きます。テスト画面でボットとの会話をシミュレーションしながら構築していくことができ、チューニングに便利です。

Watsonのプラットホームを活用しながらも会話シナリオライティング、学習データの用意、辞書の整備、実際使用する場であるHPやSlackへのボットの実装、使用開始後のチューニング、の一連の作業を極力自社で行っております。これによりコストの削減はもちろん、社内でノーハウーを育てることができ、運用上での柔軟性もあります。

参考↓

3 社内ボットの実用化と改善

現時点ツトムくんはGRIの会社情報、サービスの紹介などの基本項目に関しては案内ができており、GRIのHPと社内のツトムくん専用のSlackチャンネルに実装されています。HPに関してはWordpressで作成されたウエブサイトなのでWatsonプラグインをインストールすることで実装しました。Slackに関してはWatsonの管理画面から発行されるタグを埋め込むことで連携しました。

ツトムくんをさらに賢くするためには以下の工夫を計画しております。

•現時点はSlack上に表示される社員とツトムくんの会話を観察して会話の質を徐々に改善していますが、近いうちには会話ログを記録・分析するためのシステムを構築し「ビッグデータ分析会社らしい」ボットの運用を行います。

•営業、システム開発、事務関連の事項に関しては、分析官である開発者(=本記事の著者)が社内の担当者からFAQ形式で知見を入手し更にボットに組み込んでいきます。

•流動的な情報を与えるプラスアルファサービス:例えば最寄駅を教えるだけではなくユーザーの現在地に合わせて最適なルートを提案し天気予報ウエブサイトに自動的にアクセスし交通の乱れを予測すること、クローリング系を裏で立ち上げてWEBページから情報を効率的にかき集めて来ること、クライアントとの会食の飲食店を予約してくれること、などを構想しています。

ボットを作成する工数としての個人的な感覚ですが、辞書を整備しある程度スムーズな会話ができる状態に仕上げ、さらに実装までに数日から1週間程度かかるように思います。そこからログを分析しチューニングを重ねて改善していくのは数ヶ月を要します。

ツトムくんを作り、チューニングしていく中で溜まった知見を活かして幅広いクライアントにボットを開発しソリューションを提供できたらと願っております。

(アナリティクスチーム:YJ)