Googleが開発したNotebook LMは、AIが人の知的作業に本格的に入り込んだ最初の実用的な形でした。
URLやPDFを貼り、AIに要約や整理を任せる。複数の資料をまとめ、文脈を保ちながら質問を重ねることができる――それは、「情報を人が読む」から「情報をAIと読む」への転換点を象徴するサービスでした。
しかし、その構造は、今や急速に時代遅れになりつつあります。
その理由のひとつが「AIブラウザ」の登場です。たとえば、Comet(Perplexity AI製)は、開いているページの内容を自動的に読み取り、自然言語で要約や質問ができる仕組みを持っています。
また、Dia(The Browser Company製)は、タブをチャットベースで操作でき、閲覧や執筆、学習、買物といった行動をAIが背後で支える設計となっています。
さらに、ChatGPT Atlas(OpenAI製)は、ブラウザそのものにChatGPTが統合され、現在のページを要約し、比較し、データを解析できる“エージェントモード”を搭載しています。
こうしたツールの登場によって、URLをコピーしてNotebook LMに貼り付けるというちょっとめんどくさかった“手間”がなくなりつつあります。Notebook LMが担っていた「AIに情報を渡す」という役割が、ブラウザの標準機能に吸収されているのです。コピペがあるせいで、わたしたちの思考はそこで中断させられていました。
AIブラウザは、思考のテンポを中断させません。画面にある情報をAIがその場で読み、同じ速度で反応してくれる。その自然な連動性が、人とAIの関係を根本から変えはじめています。
Notebook LMでは情報をあつめるという作業が別になっていました。Notebook LMが“知識を整理する場所”だったとすれば、AIブラウザは“知識と共に在る環境”だと言えるでしょう。
それでもNotebook LMには、いまのところまだ消えない強みがあります。
複数の資料をまとめ、長期的な文脈を保持しながらAIに考えさせる力。個人の思索を記録し、再利用できる構造。そして、マインドマップや要約構造といった、思考を「形」にする補助機能です。AIブラウザが優れるのは即応性ですが、Notebook LMは思考の「持続性」と「一貫性」でいまのところ上回っています。時間をかけて育てる研究的・創作的な作業には、今も適しています。
しかし、その優位も永遠ではありません。
AIブラウザがセッションをまたいで文脈を記憶し、個人の関心や作業履歴を学習し始めれば、Notebook LMの長所は次第に薄れていくでしょう。今はまだ両者が異なる目的で共存していますが、やがてAIブラウザはNotebook LMのような深度を内部に取り込み、知的作業のすべてを統合する可能性があります。そのとき、Notebook LMは「一時的な中間形態」として記録されるかもしれません。あぁ、そういう便利なツールがあったよね、という。
とはいえ、過渡期の存在には過渡期の意味があります。
Notebook LMは、AIが人間の知的習慣を学習するための実験場でした。人がどのように情報を蓄積し、比較し、再構成するのか。そのプロセスを可視化し、AIに観察させたことこそ、Notebook LMが果たした最大の役割だったと言えるでしょう。



