生成AI

CoT(Chain of Thought)とReAct(Reasoning and Acting)の違い

AIの進化はめざましく、特に大規模言語モデル(LLM)は私たちの開発プロセスを大きく変えつつあります。AIがどのように考え、問題を解決していくのか――その「推論(reasoning)」の仕組みを理解することは、AIの能力を最大限に引き出すうえで非常に重要です。ここでは、「Chain of Thought(CoT)」と「Reasoning and Acting(ReAct)」という二つの手法を軸に、その本質、技術的な特徴、そして社会に与えうる影響を、最新の研究動向と実例を交えてわかりやすく説明します。

Chain of Thought(CoT):思考の連鎖による論理の紡ぎ方

現代のAI、特に大規模言語モデル(LLM)が高い能力を発揮する一方で、その回答がどのように導かれたか――つまり「思考プロセス」が見えにくいという課題があります。CoTは、この思考の過程を可視化し、推論の透明性と論理性を高めるための手法です。人間が難しい問題を解くときと同じように、「まず問題文から重要な情報を取り出す」「次にその情報をもとに公式を適用する」「最後に計算結果を導く」というような段階的な思考をAIに促します。これにより、結果だけでなく、その結論に至る道筋も明確になります。

このような「思考の連鎖」を示すことで、AIの回答を検証できるようになり、信頼性が向上します。たとえば医療分野では、診断支援AIがどの症状や検査結果に注目して判断したのかが明らかになれば、医師はAIの提案をより安全に活用できます。金融分野でも、リスク評価モデルが「なぜその判断を下したのか」を説明できることは、透明性と規制対応の両面で大きな価値を持ちます。

CoTの概念が注目され始めたのは2022年頃からです。Google Researchの論文をきっかけに、AIが複雑な推論を行う能力を強化できると実証されました。たとえば算数問題や常識推論のテストで、CoTを用いることで大幅に精度が向上した事例が報告されています。現在では、OpenAIやAnthropic、Googleなどの主要研究チームが、CoTを組み込んだ推論モデルの改良に取り組んでいます。

Reasoning and Acting(ReAct):推論と行動を結びつける知的な探求

CoTがAIの「思考」を深める技術だとすれば、ReActはその思考を現実世界の「行動」と結びつける仕組みです。AIがただ考えるだけでなく、外部ツールを使って調べたり、結果を検証したりするプロセスを自律的に繰り返すことで、より動的に課題を解決します。

ReActの基本構造は、「推論(Reasoning)」→「行動(Action)」→「観察(Observation)」→再び「推論」という循環です。AIが情報を分析し、行動し、その結果を観察してまた考える――これを繰り返して目標に到達します。たとえば、AIが「気象データを取得し、明日の農作業に適した時間を提案する」といったタスクを行う場合、ReActはまず天気APIを呼び出して最新の情報を取得し、そのデータを分析して最適な時間帯を推論します。得られた結果をもとに、次の行動を調整することもできます。

この手法は、ビジネス現場でも活用が進んでいます。たとえば、カスタマーサポート分野では、ReAct型のAIが社内ナレッジベースや在庫システムにアクセスし、顧客の問い合わせに対して即座に正確な回答を生成します。また、科学研究の分野でも、ReActを応用した自律的な「科学発見AI」が登場しつつあります。MITの研究チームは、AIが自ら仮説を立て、必要な情報を収集して検証する実験を行い、化学分野での物質探索を自動化する試みを進めています。

ただし、ReActが外部ツールと連携する際には、誤情報やセキュリティリスクへの対策が欠かせません。とくにIoT機器や業務データベースと接続する場合、AIが誤った指示を出さないよう、人間の監視と安全設計が求められます。現在のReAct研究では、こうした安全性や責任範囲の確立も重要なテーマになっています。

CoTとReAct:それぞれの個性と共存の未来

CoTとReActは、どちらもAIの知的な能力を高める重要なアプローチですが、焦点と得意領域は異なります。CoTは論理的な整合性を重視し、AIの「思考」を深く見える化するのに向いています。一方で、ReActはAIを「現実世界で行動する主体」として捉え、環境とのやり取りを通じて柔軟に学習・改善していくスタイルを取ります。

研究の最前線では、両者を組み合わせる試みも始まっています。たとえば、ReActの行動サイクルの中で、各推論ステップにCoTを取り入れることで、AIが「なぜそう行動するのか」を説明できるようにする研究です。これは、AIが「考えながら動く」「動きながら考える」存在へと進化する方向性を示しています。

今後のAI開発では、CoTがもたらす論理的な明晰さと、ReActが持つ実践的な柔軟さを融合させることで、AIがより信頼でき、より自律的に行動する時代が訪れると考えられます。これにより、AIは単なる支援ツールから、共に考え、共に行動する「知的なパートナー」へと進化していくでしょう。

参考

深水英一郎
小学生のとき真冬の釣り堀に続けて2回落ちたことがあります。釣れた魚の数より落ちた回数の方が多いです。 テクノロジーの発展によってわたしたち個人の創作活動の幅と深さがどういった過程をたどって拡がり、それが世の中にどんな変化をもたらすのか、ということについて興味があって文章を書いています。その延長で個人創作者をサポートする活動をおこなっています。
データ分析・AIの専門家集団 GRI