雑談

「かとうちあき」の野宿でレリゴー!少しも寒くないわ。な部屋と人生

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Room No. 017:「かとうちあき」の野宿でレリゴー!少しも寒くないわ。な部屋と人生(30代 女性 単身世帯)

今回伺ったのは東京都町田市に住む、かとうちあきさん。初の(ほぼ)実名での登場である。そして野宿女子である。野宿女子とは野宿をこよなく愛好する女子のことで、かとうさんはそのうえ「人生をより低迷させる旅コミ誌」「野宿野郎」の編集人なのだ。「野宿愛好家なのに家があるんですか?」なんて突っ込みはやめてもらいたい。時たま好んで野宿に出かけるから愛好家なのだ。いっつも野宿ではただのホームレスである。お宅に伺ってどんなヤマンバみたいな人が現れるかと思ったら、小さくてやせててかわいらしいのでビックリ。話してみると頭もいい。しかしながらその脱力感はハンパない。頭の良さを、自分の生活向上に役立てようなどという気持ちは少しも持ち合わせないのだ。いかに目前の人生を最小の労力で切り抜けるか。これが肝心なのである。ある意味羨ましい。

土足であがる日本家屋

取材に行った日は猛烈な暑さの日だった。「野宿女子だし、エアコンなかったらどうしよう」なんて思いつつ着いたのは案に相違して一戸建ての家。しかし壁にはツタが「大自然」に絡まり、不安をあおる。玄関はどうにもシーンとしており、裏口に回るとご当人が汗だくで大きなゴミ袋をいくつもかたづけていた。どうやら来客に備え掃除をしていたらしい。この取材ではできるだけ掃除はしないでくださいとお願いしているのだが、けっこうな量のゴミ袋を出していた。

びっくりしたような顔をしていたので聞いてみると、アポイントの時間を1時間勘違いしていた。「あと1時間後かと思いましたー」。声がすでに脱力系である。どこかから空気が漏れている感じがするが、けっして不愉快な漏れ方ではない。癒やし系だろうか。裏口から入ろうとするが、今度はきっぱりと「土足で入ってください」という。「とても汚くて汚くてひどいので、私も土足で上がってることが多いんです。ですから是非土足で」と言われ、日本家屋に土足ってあんまり経験ないなー、と思いつつ中へ。これではエアコンは望み薄かと思ったらちゃんとあった。ほっとした。が、ついていない。「あの、これつけていいですか?」「あ、どうぞどうぞどうぞ」。冷風が出てきたのでようやく安心した。部屋の佇まいを拝見するに出ないかと思った。

「3年くらい前に買いました。素晴らしいですねエアコンは」。それまで7年間、エアコンなしで過ごしていたらしい。

ここが今のメインエントランスとなっている勝手口ここが今のメインエントランスとなっている勝手口

一度も稼働していないコピー機

まず入った部屋は流しがあるのでダイニングなのだろう。パソコンなどがあり、仕事場所に使っている。「仕事も食事もこのパソコンの前です」。いろいろなモノが所狭しと積み上げられている。椅子がないが椅子を置ける場所もない。「すいません座るところもなくて」と恐縮しきり。「これでも結構かたづけたんですが」と話す。あのたくさんのゴミ袋だろう。「こんな汚い家ではお茶を出してはいけないに違いないと思って」と言って、500ミリリットルのお茶のペットボトルをくれた。冷蔵庫はあるので冷えていた。

それなりに食器と鍋などはあるそれなりに食器と鍋などはある

仕事机の横にはひときわ大きなコピー機がある。しかし上には本やらなにやらいろいろ乗っかっていて、とても実用に供されているとは思えない。「このコピー機は使うんですか?」「あ、これは友達の友達がくれるというんでもらったんですが、最初からドラムが入ってなくて」。それは処分代詐欺とでもいうのではないか、と思った。いい人、いや人がいいようだ。

いわくつきのコピー機。 運び入れるのに友人たちにごちそうしてやってもらったのにいわくつきのコピー機。
運び入れるのに友人たちにごちそうしてやってもらったのに

女子高時代に50日かけて本州を野宿踏破

野宿デビューは高校時代。「青春っぽいことをしたくて」野宿を始めた。そのころは野宿なんて10代でしかできない、と思っていた。まさか33歳になっても野宿しているとは考えもしなかった。しかし高3の夏、友達と青森から下関まで野宿徒歩旅行を計画、実行する。「受験の夏なのに何をやっているんだ」と父は激怒し、以来関係はぎくしゃくしている。母は止めはしなかったが「危なくないか」と心配していた。

50日かけて下関に着くが、そんな長い夏休みの学校はない。10日ほど学校をさぼったが、「担任は仕方ないなあ」と全然怒らなかったそうだ。友人は新潟でリタイア。しかし東京までは歩いて帰ったという。本当は九州まで行きたかったが、あんまり学校を休み過ぎるのもどうかと思いあきらめた。夏休みを過ぎると、警察官などは家出少女扱いするし、ほかの大人も夏休み中は「がんばれ!」と言ってくれるが、夏休みが終わると「何やってんだ!」と怒られることもあった。

しかし一人になってからの間の方が、周りの人との交流がダイレクトだったりいい経験になった。この時一人で歩かなかったらいまだに野宿を続けていることはなかった、という。野宿開眼してしまったのだ。

ちなみに途中まで同行した友人は、大学時代は野宿に付き合ってくれたが、大学3年になって面と向かって「私はまっとうな生き方をする」と宣言して就職活動して会社員になり、さらに結婚、今は育休中だという。その後「私はかとうさんと遊びたかっただけかも」と言われた。「いい話でしょう」とは本人談。

 玄関は荷物で塞がれて出入りできない。しかも鍵がない、ような気がする玄関は荷物で塞がれて出入りできない。
しかも鍵がない、ような気がする

就職はせずに野宿活動を続ける

卒業を前にしても、できるだけはたらきたくないなあ、と思い就職活動はせず、今は大学時代のアルバイトの延長で介護福祉士の仕事をして暮らしている。といってもどこか施設に勤めているわけではなく、個人の希望に応じて出かけていく仕事だ。その合間に野宿活動を続ける。そして2004年に「野宿野郎」を一人で創刊。野宿の楽しさをとにかく大勢の人に知ってほしかったからだという。2008年までに7号を出したが、以降出ていない。出すのが大変、ということで要はサボっているのだ。

また「野宿野郎」では利益はあまり出ないようだが、これまでに「野宿入門」(草思社)、「野宿もん」(徳間書店)、「あたらしい野宿(上)(」(亜紀書房)と3冊も本を出している。この印税などもあり、年収は100万円から300万円の間だそうだ。ちなみに最後の本は「あたらしい野宿(上)」とあるが、(下)はない、(下)が出る予定があるのか、なぜ(上)なのか、本にはまったく説明がないのでわからない。本人にも聞きそびれた。

2階に行くには一大決心がいる。2階に行くには一大決心がいる。

生活苦しくなるが、ホームレスは・・・

ここ10年ほどは、その介護の仕事を週3回ぐらいやりつつ、野宿を楽しんだりして過ごしている。しかしさすがに10年も経つと飽きてきて、週3回の仕事もいやになり昨年は1年間仕事をしなかった。とにかく何か予定にしばられて働くのが嫌。でも本を書いて生きていくなんて大変だし、フリーはなんだかんだで大変だ。どこまでこの理想的な生活が続けられるのかな、と不安がないわけではないが、働きたくない気持ちの方がまだ勝っている。

だからもうすこし安定してお金を稼ごうというより、節約しようという方に考えは向いている。実は今の家にはまもなく住めなくなるので、そうなると家賃もかかってくる。得意の野宿で暮らせば家賃はかからないが、それでは野宿を遊びとして楽しむのではなく、生活になってしまう。つまりホームレスになってしまうわけだ。「多摩川の河原とか暮らしてみたい気もするんですけどねえ」

お金はとっても欲しいが、稼ぐためにがんばることはしたくない。得意の「野宿」で何か、というのも考えない。「野宿って基本的に技術いらないんです。アウトドア、キャンプ、登山ってなると技術がいりますけれど、私はそういうの面倒くさいです。テントは重いし、面倒だし、雨の時とかたいへんなので、使いません。サバイバル知識もないです」野宿は雨が降っても大丈夫なところを探して寝る。公園の遊具の下とか、駅とか、屋根のあるバスの待合所とか。

寝室の本棚寝室の本棚

父に反発、母の期待にプレッシャー

横浜市生まれ。父は会社員で母は専業主婦。弟が一人という。昔懐かしい典型的核家族だ。父親は昨年定年を迎えた。

実は中学ぐらいから働きたくないと思っていた。父の姿を見て、毎日会社に行って、遅くまで働いてなんて大変だなあ、と感じていた。その一方で研究職だった母は、自分を出産して育てるために仕事を辞めて鬱屈していた(と感じた)。そんな二人の姿を見て、「一生懸命働くなんていやだ」という気持ちを育んだのだろう。

「母は教育熱心でした」。いろんなところに連れて行かれ、旅行や観劇など、仕事を辞めたエネルギーを向けられた気がする。何か他の子より手厚いぞ、期待されてるぞ、というのが重荷だった。11歳年下で弟が生まれたときは弟に母の意識が向いて、淋しくもあったがホッとした。

「過保護だなって感じてました」。過保護に育てられればわがままになる。幼稚園では、「なになにしなさい」と色々いわれるのが嫌で、自分から「やめる!」と言ってやめた。しかしそうなるとお友達がいなくなり、不安になってまた1年後に別の幼稚園に入った。

そんなこともあって、小学校のころには自分の生活態度はまずいぞ、と感じて中学生ぐらいまではがんばった。まっとうな人間になろうとした。だがそれも高校ぐらいであきらめた。外面をよくして過ごしてきたが、無理をするのはやめようと思った。
今風に言うならば「レリゴー」である。

びっしりびっしり

亡き祖父母の家に10年一人暮らし

市内の私立高校を出て、系列の大学に進む。大学は八王子の山奥だったので、西八王子に初めて一人暮らしをした。3年まで暮らしたが、4年になると単位もほとんど取って大学に行かなくなったし、旅ばかりしていたので下宿は引き払う。

今の家に住み始めたのは10年ほど前。もともとは祖父母の家で親も昔住んでいたが、祖父母が亡くなって空き家になっていたところに、大学卒業後、ほとんど占拠するような形で住み始めたという。木造2階建てだが2階はいまだに祖父母のものがあったりしてほとんど使っていない。よく知らないが築50年以上は経っており、まともに手入れをしないのであちこちガタが来ている。床は1か所抜け落ち、怪しい場所もある。風呂はガス湯沸かし器が壊れているので使えない。玄関にはモノを置きすぎて通れないので裏口から出入りしている。

風呂場は物置兼洗濯物干し場。 風呂は銭湯か友人の家で風呂場は物置兼洗濯物干し場。
風呂は銭湯か友人の家で

奥に行くともう一部屋あってそこが寝室になっている。さすがにそこは畳で土足ではない。しかし壁の大部分は本棚で、ぎっしりと本が詰められ、さらにあふれた本が床に積み上げられている。洋服の棚は一つあるが、これだけ衣装の少ない女性宅も珍しい。というか本以外の家財道具の数が圧倒的に少ない。本7割、食器1割、服1割、その他1割ぐらいな感じだろうか。しかし大きな発電機などという見たことのないものはある。

本はいろいろ読むが実用書的なものはほとんどない。あえて言えばサブカル的なものが多い。ちなみに卒論のタイトルは「みうらじゅんと観光」だった。

寝室のベッド。ベッドは買わずにマットレスだけ買った。寝室のベッド。ベッドは買わずにマットレスだけ買った。

結婚にはいろいろ抵抗感あり

残念ながら消費生活で特筆する内容には乏しい。だいたいの買い物は徒歩10分ほどのスーパーで済ます。食事はまあまあ作るが波がある。疲れると総菜を買ったりする。外食はあまりしない。野宿の時はみんなで何かを持ち寄って食べる。お酒は弱いが好きで、家でもビールを飲んだりする。
服はヤフオクで買うか、友達からお古をもらう。あんまりファッションに関心はない。たまに化粧はするが化粧品を買いに行くのは年に1回ぐらい。テレビはあったが、地デジ対応でなかったので地デジ移行以後見ていない。しかし新聞は取っている。掃除機はあるがほとんど使っていない。

結婚とかはあんまりする気になれない。そもそも婚姻制度が気に入らない。個人的なことなのになんで国に申し出なきゃいけないのか、納得いかない。子供を作るなら結婚制度にのっからないとデメリットが大きいと思うが、しかしこの生活で子供を作れるのか、育てられるのかはなはだ疑問だと自分で思う。

男性との交流がないわけではないが、「付き合っている」とか言うのも面倒くさいので、そういう言い方はしたくない。「付き合ってるのに〜」とかしばられたりするのがいやだ。「相手には何も求めないから、私にも何も求めてほしくない」

このキャスターバッグは本に使う撮影のためだけに買ったこのキャスターバッグは本に使う撮影のためだけに買った
台所上はまあまあきれい。 金属製の湯たんぽに、ゴム製の氷枕まである。台所上はまあまあきれい。
金属製の湯たんぽに、ゴム製の氷枕まである。
スイカのアイスは必須。多いときは一日3本食べるスイカのアイスは必須。多いときは一日3本食べる

「取材後記」

取材中「面倒くさい」という言葉を38回ぐらい聞いた気がする。とにかく潔く「面倒くさい」と宣言する。ぐだぐだ言い訳はしない。「面倒くさいんです。働きたくないんです」と告白する。それを開き直って正しいと主張するわけではない。あんまりまっとうではない生き方なんだろうなあ、と申し訳なさそうに話すのだ。

インチキな内容を臆面もなく売り込む本が多いが、彼女の本はたとえば「野宿入門」というタイトルロゴに「野宿(ざっくりと・・・)入門」と入れてみたり、帯に「遠回しにおススメする」と書いたり。控えめきわまりない。

いい人なのである。いい人がひっそりと、だらだらと世の片隅で、他人に悪いことをしたりせずに生きていく。なんと美しいことか。おまけに彼女には「何々しなければならない」といったしがらみがほとんどない。素晴らしい生き方だ。ちょっと羨ましい(あくまでちょっと)。
この世の中の様々なことに抵抗をせず、逃げるというわけでもなく、するっと身をかわしてひらひらと舞っている蝶のような生き方だ。とても本能的で自分に正直に生きているのである。

 

個性診断ゼータによる「家主の個性」

今回の家主さんの診断結果は「デルタ型」です。

デルタは「攻め」の因子。周囲の要素を上手く取り込んで、新しい物事を生み出す「攻め」の個性の影響が強い人です。よく言えば開放的でアイディア豊富な人。一方で、衝動的になったり、熱しやすく冷めやすところがあります。人にない特別な能力や才能が組み合わさると、独創的な仕事をやりとげることがあります。

今回の家主さんは、野宿という誰も知らなかった(?)新しい世界を切り開き活動されているので、まさにデルタ型の人ですね。また、幼稚園を辞めた!(そして戻った)話や、働きたくない!事に正直で自由に生きる考え方も、デルタが強い事を裏付けているエピソードだと思います。

また興味深いのが、この家主さんは「こだわり」の因子であるアルファが弱いという結果が出ていることです。あまり社会的な通念や常識といったものにこだわりが無く、他人の価値観や道徳に対しても、あまり厳格に突き詰めることはないタイプです。恋愛で言えば、愛していれば、不倫でもかまわないと思うこともあります。また、不倫をしても、相手に対して強く離婚を迫ったりはしないでしょう。

家主さんのあまり一般的とは言えない(?)恋愛観、結婚観はこのアルファの弱さから来ているものだと思います。

個性診断ゼータとは?

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