データサイエンス

【超優しいデータサイエンス・シリーズ】人工知能(AI)の定義 〜ATMはAI?〜

データサイエンスの活用があらゆる業界で加速されている今、人工知能、機械学習、ディープラーニングなどのブームワードをよく聞きます。皆さんはそれぞれの用語の正しい定義をご自身の言葉で説明できますでしょうか?
この記事は、まず人工知能にまつわる重要概念の正しい定義をお伝えし、それらの本質を理解していただきます。

人工知能の定義は難しい

人工知能はAIと略記されることが多いです。AIとは「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」の頭文字をとったものです。「Artificial = 人工的な」と「Intelligence = 知能」という意味で、和訳は人工知能になります。
実は、人工知能(以降、AIと呼ぶ)の「絶対的な定義」を定めることは難しいです。AIの定義は大いに議論されてきたのですが、計算機科学者やAI研究者など専門界の中でも意見の食い違いがあります。以下にいくつかの定義の例を挙げます。出典:『人工知能学会誌』

  • 「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術」(松尾豊 東京大学大学院工学系研究家准教授)
  • 「人工的につくられた、知能を持つ実態。あるいはそれを作ろうとすることによって知能自体を研究する分野である」(武田英明 国立情報学研究所教授)
  • 「人間の頭脳活動を極限までシミュレートするシステムである」(長尾真 京都大学名誉教授)

なぜ人工知能の定義を定めることがこんなに難しいでしょうか?
それは、「知能」や「知性」そのものの定義が一意に決められないから、と思われます。
それでも、研究者たちの中で、概ね以下のニュアンスを持つ意見がほとんどです。
「人間が持つ知的な情報処理能力を機械に持たせること」
「周囲状況(入力)によって行動(出力)を変える能力を持つ機械」

この「人間と同じ知能や情報処理能力」のレベルは人によって解釈が異なるため、「どこまでがAIと呼べるのか」が難しい問題となるわけです。推論、探索、認識、判断などの具体的なタスクに落とせるケースであれば、AIの解釈がまだ比較的しやすいです。一方で、人間は捉えづらい感情、心、身体と神経の交互作用など複雑な要素を持っており、これらをAIで再現できるでしょうか? AIと呼べるためには、どこまで要求すべきでしょうか?

上記のように様々な葛藤があるために、同じ自動化システムでも「AIと呼べる」か「AIとは認めない」など意見が食い違うわけです。

  • 洗剤の自動投入機能のある洗濯機はAIと呼べますか?
  • ATMはAIと呼べますか?
  • お掃除ロボットはAIと呼べますか?
  • SiriなどのスマートスピーカーはAIと呼べますか?

人工知能という言葉が初めて登場したのは?

人工知能という言葉が初めて定義を与えられたのは、米国の著名な人工知能研究者および計算機科学者のジョン・マッカーシー(John McCarthy)でした。

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上記の定義は、1956年にアメリカで開催されたダートマス会議にて与えられました。ダートマス会議は、「考える」「行動する」能力を持つプログラム全般をテーマとする会議であり、ジョン・マッカーシーの他に、マービン・ミンスキーなどAI研究の有名人、心理学、神経科学、情報科学、言語学、哲学の分野における専門家たちが参加しました。この会議を境に、「人工知能」は学術分野の1つとして正式に認められました。

人工知能の4つのレベル

AIは、一般的に「人間の知能をコンピュータ・プログラム上で実現したもの」として定義づけられているため、多くの方は、AIと聞くと、「まるで自ら考えて行動しているもの」のようなイメージを持つでしょう。
上で述べた、AIの定義のもう1つの捉え方である「周囲状況(入力)によって行動(出力)を変える能力を持つ機械」の視点によると、AIを次の4つのレベルに分類されています。

■レベル1: シンプルな制御プログラム

入力に応じて、あらかじめ決められたルールに忠実に従って出力するプログラムです。上記で述べたような典型的な「ルールベース」のプログラムです。エアコンの温度調整の自動化、洗濯機の洗剤投入や水量調整の自動化、ベーシックなモニタリングなどの、わかりやすくて単純な振る舞いを行うシステムが例として挙げられます。レベル1のAI技術は、制御工学、システム工学などの分野で長年培われてきました。

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■レベル2:古典的な人工知能

レベル2のAIは、探索、推論、知識データベースを利用したAIです。レベル1のAIに比べて、より複雑な判断を行うことができ、対応できる入力と出力の組み合わせの数も比較的に多いです。お掃除ロボット、診断プログラム、ルールベースのチャットボットが例として挙げられます。
「古典的な人工知能」と呼ばれるのは、レベル2になってはじめて、一般の利用者によって「人工知能らしい」と思われる段階であるためでしょう。「古典的」とはいえ、特定の専門分野に限った場合は人間を十分に補助できる、高い性能を発揮します。実は、レベル4で現れるディープラーニングの技術の研究開発も元は、このレベル2の人工知能から出発したと言われています。

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■レベル3:機械学習を取り入れた人工知能

レベル3のAIでは、機械学習の手法を取り入れ、大量な学習データの分析を通じて、入力と出力を結ぶ汎用的なパターンや法則を見出します。更に、導出済みの法則(学習済みモデル)に基づいて新しい入力情報に対する判断を行います。レベル3のAIは、2000年以降のビッグデータの時代に台頭しました。スパムメール検知、レコメンドエンジン、売上予測、顧客分析などがレベル3のAIを応用した例として挙げられます。
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■レベル4:ディープラーニングを取り入れた人工知能

先述の通り、機械学習では、学習対象となるデータの、特徴りょう、つまり、どの特徴が学習結果に大きく影響するのかを知る事が重要です。ディープラーニングの手法を用いると、特徴量をデータから自動的に見出すことが出来ます。つまり、学習の部分までが自動化されていることになります。非構造化データを分析対象とした、顔認識、自動翻訳、自動運転、難易度の高いゲームなどは従来の機械学習の手法では高い精度を実現する事が難しく、レベル4のAIが活用される場面です。

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AI効果とは

一部の人は、知能・知性は人間しか持つ事ができないものと思っており、現象論的にそれに似たものが機械で実現されると、「それは単なる自動化であって、知能ではない」と主張し、「人工知能」という概念に違和感を抱きます。このような人間の心理的な効果はAI効果と呼びます。

【ATMはAIと呼べるのか?】

レベル1のAIの例として挙げたAI家電は「本当にAIと呼べるのか」、「人間が決めたルールに従って動作している機械だけではないか?」と疑問に思う方がいてもおかしくないです。AIと「呼べる」判断基準はいったい何でしょうか?
以降、私見がやや入り込む可能性がありますが、以下のような考え方が出来ます。AIと認められるために、最低限クリアすべき基準は「自動化」と認識しています。
AI搭載洗濯機は、洗濯物を入れるだけで、その重さや嵩によって、水の量や洗剤の量を調整し、洗浄・脱水・乾燥まで一通り人間の手を介さずに完了させてくれます。お掃除ロボットは、スイッチをオンにするだけで、家中を満遍なく掃除してくれます。
ではATMの場合はどうでしょうか?(これは、私が講座の初学者の受講者によく問う事です。)
ATMでは暗証番号を入れると、背後のデータベースとパターンマッチングを行った上で、人間が入力した金額だけ吐き出したり、逆に金額を吸い込んで暗証番号とマッチした口座に加えたりします。ある意味で「ルールベース」のAIに似ていませんか?しかし、ATMを操作するために、逐次的に人間が操作しなければいけないため、上記の「自動化」という最低限条件を満たしていません。よって、少なくとも私はATMはAIではないと判断します。
将来的に、暗証番号の入力なく、顔認識で個人を特定でき、音声認識(もしくは振り込みカードの読み取り)で引き出したい金額を認識できれば、立派なAI(レベル4のAI)と認められるでしょう。
皆さんも、もう一度ここで、自分の中のAIの基準について考えてみてください。

人工知能は、ルールベースの手法と機械学習の手法に分けることができます。次の記事では、それらの違いについてディスカッションしたいと思います。
次回にまたお会いしましょう。

担当者
分析官・講師
ヤン・ジャクリン

yan
データ分析官・データサイエンス講座の講師