萩原朔太郎の『猫町』をご存じでしょうか。
この方は詩人として有名な方なのですが、本作は散文詩風な小説になっており、詩人特有の心がソワソワするような物言いに、仄かな面白おかしさを含んだ作品になっています。
この作品は、小さな工夫、小さな気づき、灯台下暗し、といったような、仕事においてアイデアを考える際に必要そうな視点を与えてくれる作品でした。
ただし、この話は本人の作風もあってかなり雰囲気に振り切れた部分も多々あります。そのため、あくまで私が読んだうえで考えさせられた部分のみを挙げて紹介します。
作品紹介:小旅行
主人公による「旅って楽しいはずなんだけど、『ただの移動』だなと思ったらつまらなくなっちゃった(要約)」という独白から物語は始まります。あの手この手で楽しい旅の高揚感を得ようとしますが、なかなか上手くいきません。
しかし、そこに転機が訪れます。散歩中の主人公は、考えすぎる性格と重度の方向音痴によって、気づかないうちに不思議な町に迷い込んでしまうのでした。
すごい褒め方をしている。
しかし、ここで妙な違和感を覚えます。たかだか近所の軽い散歩でこんな知らない町に着くことがあるだろうか?と……次の瞬間、景色は一変します。
まあすごい言いよう。
種明かし
さて、なぜこのような「なんということでしょう」と言わんばかりの劇的な変化をしてしまったのでしょうか。
その理由は単純。
いつもと逆方向に歩いていたから。
いい感じに言ってるけれど、そりゃ当たり前です。
本質
大事なことはここから。
このあと主人公はこうとも思考しています。
「同じ事柄も視点を変えれば新しい一面が見える」という気付きを得るに至ったわけです。
このお話、アイデアを考えるうえでものすごく大切なことなのではないでしょうか?
『猫町』からみる仕事の進め方
『猫町』を敢えて仕事の観点から読むのならば、「いつもと逆の方向から歩く(小旅行)」という普段と異なる行動をすることで「小さな気づき」が生まれ、現状を打破する「あらゆる可能性を導く」ことができる、こう唱えていることになります。
というのも、クリエイティブでは顕著にある話なのですが、一つのことだけに固執しているとアイデアはいくらあっても枯渇するんです。そのうえ、そのアイデアが没になった場合は八方塞がりになってしまいます。
それを避けるために、物事を多面的にとらえてAの場合、Bの場合とあらゆるパターンを考えることがポイントになります。
考える方法は作中同様散歩でも構いませんし、ほかの方法でもよいのですが、とにかく一度考えるのは置いておくとして、現状以外の視点で捉えられるように異なる行動を起こし続けましょう。多面的に捉えられれば、なにかしらの一面が相手の琴線に触れ、相手のためになる良い仕事ができることでしょう。
ちなみに、『猫町』方式のアイデア着想は、私の周りのクリエイティブ職の人でも行っていることが多いです。
主に行き詰った時に散歩をすることになりますが、これはこういう意味で理にかなっているわけですね。実際、制作する時間よりも考える時間の方がはるかに長いので、机の前で悩み散らかすよりも散歩をする方が遠回りに見えて近道だったりするのです。
みなさんも行き詰ったら意識的に散歩してみるといいかもしれません。『猫町』のように、普段とは違う順路で歩くのもアイデアの足しになって、現状打破のカギになるでしょう。
今回は『猫町』を仕事面の視点から見ましたが、単純に物語としての視点から読んでも興味深いお話であると思います。わたしが紹介したものはほんのきっかけに過ぎず、このあとの主人公の動向こそ『猫町』が『猫町』と呼ばれる所以となっています。
今回の本筋から外れるのでここでは紹介しませんが、気になる人は合間にでも読んでみてくださいね!
🐈『おわあ』
引用
萩原朔太郎(1995) 『猫町』 青空文庫