G検定

AI・データへの独占禁止法の適用・デジタルカルテルとは

ビッグデータの時代である今、企業はAI技術の開発とデータの利活用を通じて競争の優位性を維持しようとしています。AIに使われるデータは、デジタルプラットフォームを通じて収集され、それらを分析した結果に基づいて市場価値の高いサービスが提供されます。さらに、データ量が多ければ多いほど分析の価値も高まります。
このように、データは今や非常に重要な資産となり、ビジネスの成功の鍵を握っています。

本記事で述べる内容は、G検定の最新のシラバスにも追加された項目となります。学習不足になりやすい場所ですので、G検定を受験予定の方はぜひ読んでください。

■データ市場における独占の動き

はじめに、デジタルプラットフォームとは、インターネットを通じて事業者に提供される、電子商取引や情報配信などのための利用基盤や利用環境として定義されています(出典:デジタル大辞泉(小学館))。簡単にいえば、デジタル技術やデータ等を用いてシステムやサービスを提供しています。

多様なデータ(個人データ、産業データ)を大量に保有するデジタルプラットフォームが、それを他の事業者に提供したり、自社で戦略的に活用したりすることによって、市場において重要な地位を占めるようになります。

しかし、この状況により市場の健全な競争が阻害されるリスクももたされます。

そのうちの一つとして、デジタルプラットフォームによる独占の動きが問題視されています。

例えば、単一のプラットフォーマーによって特定の産業のデータを独占されると、その産業分野全体を支配することになってしまいます。そうすると、競合事業者の活動が制限され、新規事業者の市場参入が困難になり、競争が健全に機能しなくなる可能性があります。

また、事業者同士でAIサービスの値段について取り決めを設定してしまうと、価格競争が行われなくなります。このような状況では価格の吊り上げが容易になり、最終的に消費者も不利益を被ることになります。

AI時代の独占禁止法の役割

独占を禁止するといっても、全てをオープンデータとして公開するのは非現実的な話です。機密情報を保護できなくなり、データ利活用への意欲も失われます。それを避けるため、代わりに競争を健全化するためのルールを設定します。

AI時代においても、健全な市場競争を保障する役割を果たしているのが独占禁止法です。健全で活発な市場競争があれば、企業はインセンティブを得られ、消費者向けに良質で良心的な価格でAIサービスを提供できるようになります。その働きを担うのが独占禁止法です。

 独占禁止法(正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)は、公正かつ自由な市場競争を促進する目的で制定されています。複数の事業者が「協力して」市場での競争を阻害する「不当な取引制限」「私的独占」を禁止しています(独立禁止法2条5項、6項)。

引用:公正取引委員会のサイト

「不当な取引制限」の典型例は、事業者間でカルテルを結ぶことが挙げられます。「私的独占」とは、他の事業者の事業活動を制限し、その開始や継続を阻止することを指しています。

AI分野において、独占禁止法(以降「独禁法」)で問題視されている典型的な行為は以下のものとなります。

デジタルカルテル:AIを用いた市場支配

データ寡占:個人情報や産業データなどを少数の事業者が独占する

「デジタルカルテル」とは、AI およびデータに関しては、事業者がAIやアルゴリズムを利用して価格を調整し、利益を最大化するような最適な価格を自動的に決定するような行動です。その一部は、AI等の働きによって市場から価格競争が排除されると見なされるため、独禁法によって規制されます(詳細は後ほど)。

デジタルプラットフォームにおける公正で透明性のある取引を担保有するために、取引条件の開示や運営状況の報告・評価を義務付ける「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が成立し、2021年5月に施行されました。

ここで、デジタルカルテルと独禁法の関係性をより詳しく見ていきましょう。

独禁法上の「不当な取引制限」で禁止されているカルテルは以下のような条件で定義されています。

  • 事業者と他の事業者と意思の連絡をしていること
  • 市場の競争を制限・支配していること

カルテルの定義のうち、「複数の事業者の間で協力していること」、「意思の運絡をしていること」という要件が重要です。これには黙示の意思の連絡も含まれるとされています。

デジタルカルテルの全種類ではなく、一部のみが上記に該当し、独禁法で禁止されます。

以下は、デジタルカルテルの4つの類型です。

① 監視アルゴリズムを利用した協調的行為

事業者間で価格合意を行ったあと、AIを用いて、合意通りの価格で販売されているかを監視して、市場を支配することです。一部の事業者が合意した価格よりも低い価格を設定して抜け駆けすれば、その商品ばかりが売れてしまいます。そのような事態を防ぐために価格の監視が行われます。従来どおり「」が価格の監視を行うと人件費が高くなるため、「AI」で監視しています。
監視型アルゴリズムは、事業者間の協調的行為であり、AI を使って監視して市場を支配しているため、「不当な取引制限」に該当し、独占禁止法によって禁止される対象となります。

そもそも、「AIを使用」して監視する以前に、そもそも事業者間で価格に関する合意(意思の連絡)が存在するため、「不当な取引制限」に該当します。

② パラレル・アルゴリズムを利用した協調的行為
競争事業者間で価格の合意が行われている場合に、その合意に従って価格を付けるように設定されたアルゴリズムを当該事業者間で共有して利用することです。「パラレル・アルゴリズム」は、共有・併用されているアルゴリズムのことです。
事業者間で、価格に関する明示または黙示の合意があったため、「不当な取引制限」に該当し、独占禁止法によって禁止される対象となります。

シグナリングアルゴリズムを利用した協調的行為
値上げのシグナリングを行い、それに対する競争事業者の反応を伺うためにアルゴリズムを利用することです。他の事業者との間に明らかな合意がない限り、「不当な取引制限」には該当せず、独禁法違反にはなりません。

自己学習アルゴリズムを利用した協調的行為
競争事業者が自律的に学習を行う機械学習モデルを利用して価格設定を行った結果、互いに競争的な価格を上回る価格に至ることです。現在ここまでのレベルがAIが達していないため、現在は独禁法でカバーされていません。

 

執筆担当者:ヤン ジャクリン

yan
データ分析官・データサイエンス講座の講師