雑談

エスノグラフィー事例:「Elmo Calls」アプリ

※この記事は、米国デザインコンサルティング会社IDEOから掲載許諾を得て、IDEOの事例からエスノグラフィのビジネス活用法を紹介する記事です。

 
NHKやテレビ東京などでテレビ放映されていたセサミストリート。自分の子供に見せたり、子供の頃に見ていた人もいると思います。
セサミストリートは、アメリカの非営利番組制作会社「セサミ・ワークショップ」が制作する子供向け教育番組です。1969年にアメリカで放送開始して以来、150以上の国と地域で放映され、キャラクターグッズが販売されるなどしています。
番組内では、英語の読み書き、数の数え方・計算、保健・衛生などを取り上げ、子供の生活習慣や就学前の教育に役立つ内容となっています。

世界中にファンがいる強力なコンテンツを持つセサミ・ワークショップは、2009年ごろからiPhoneなどのスマートフォン向けアプリ・コンテンツを強化し始めます。
その理由について、セサミ・ワークショップのメディアディストリビューションビジネス開発担当Jeffrey Fleishman氏は、「多くのセサミファンが、いつでもどこでも、ベストな“セサミストリート体験”ができるようにするため、メディア環境に合わせて革新し続けなければならない」と語っています。
今回は、その中でもヒットアプリとなったスマートフォンアプリ「Elmo Calls」の事例を取り上げます。

「Elmo Calls」は、アメリカのデザイン会社IDEOとパートナーを組み、人間中心のアプローチで開発されたiPhoneアプリです(後に、Android、Windows Phoneにも対応)。このアプリは、2-5歳の子供とその両親向けに「楽しく生活習慣が身につけられる手助けをすること」を目的として作られました。例えば、お手洗いや着替え、歯磨き、早寝早起きなど、毎日繰り返し行う生活習慣を、親に加えてエルモからも教えてもらえるのです。

エルモは、セサミストリートの中では、3歳の設定で、このアプリの対象となっている子供と歳が近いキャラクターです。

このアプリが提供するのは、以下のような機能です。

■子供向け機能

  • エルモからの電話、テレビ電話、ボイスメール
  • エルモから、アルファベットや数の数え方を教えてもらえる機能
  • エルモと一緒に歌を歌える機能、ゲームが出来る機能

■両親向け機能

  • Elmo CallsアプリのON/OFF
  • 生活習慣やイベント/行事に関連したエルモからの電話をスケジュールできる機能

このアプリは99セント(約1ドル)でAppStoreGooglePlay、Windows Phoneから購入することができます(いくつかの機能はアプリ内課金で追加購入が必要です)。

このアプリが実現する最も重要なユーザー体験は、“歯磨きやお風呂、就寝・起床といった「躾をしたい習慣と時間帯」を親がスケジュール設定することができ、その設定時間にエルモが子供に「電話」をかけ、エルモが「生活習慣を教えてくれる」”という点です。

実際のアプリでは、親が設定した時間にプッシュ通知の受信音として電話の受信音が鳴ります。電話を取ってアプリを起動すると、エルモは子供にこのように語りかけます。

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「ボク歯磨きするよ。歯磨きって楽しいよ!(歯磨きの仕方を語る)」
「ボクそろそろベッドに入るよ。ボク寝るの大好きだよ!(子守唄を歌ったり物語を聞かせてくれたりする)」
「おはよう!エルモだよ!朝だよ!」

子供にとっては、自分と近い幼い年齢のキャラクターであるエルモから「ボク歯磨きするよ!」と“お誘いされる”感覚なのだと思います。
アプリのレビューを見てみると、「3歳の子供が、エルモが話したとおりに歯磨きをし、ベッドに入った」「子供が朝、エルモとおしゃべりしながら起きるようになった」といったことが書かれています。

親にとっては、子育て中の時間管理を容易にし、生活習慣の躾のサポート役となる効果がありそうです。一方、子供にとっては、より自分の目線に近い“友達”が教えてくれることで一緒にがんばろうという やる気がでる効果があると言えます。

また、このアプリでは、単なる子供向けアプリコンテンツとして終わらせず、“電話”というモチーフにこだわった点が鍵を握っているとも言えます。

IDEO社がこのアプリを作るために幼児観察をした時、彼らは子供が「テレビのリモコンを電話のように耳にあて、両親が携帯電話で話す姿の真似をしていた」点に着目しました。大人の真似をしたがるというのは、幼児期に見られる特性だそうですが、アプリの利用を通じて「パパとママと同じように、エルモと携帯電話で話せる」という一種 背伸びした体験ができることは、子供がアプリを喜んで使う動機付けになるのではないか、とIDEO社のメンバーは考えたのです。

キーとなるユーザー体験を決めた後、IDEO社のメンバーはアプリのプロトタイプを作り、子供を持つ親やAppleのインターフェイスの専門家、セサミ・ワークショップのメンバーからのフィードバックを元に、改良を重ね、シンプルなアプリを制作しました。

両親向けのメニューと子供向けのメニューを明確に分け、両親向けメニューはiPhoneの基本動作であるUnlock the iPhoneと同じように左から右へのドラッグ操作で表示できるようにしました。このメニューでは、子供に躾けたい生活習慣の1日のスケジュールを設定できたり、サプライズコールなどの設定ができたりします。またイースターやクリスマスのように年間行事に関連する動画や音声、エクササイズなどのコンテンツを設定画面でスケジュールすることも可能です。

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子供向けの画面は極力シンプルに、大きなボタンと色分けで簡単に機能を識別・操作できるようにし、全てのコンテンツでオリジナルのエルモの動画や音声を用意しました。

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リリースされたアプリは1ヶ月の無料期間中に400万回以上利用(※)され、2012年6月には利用回数2000万回以上、さらにはApp Storeで子供向けの必須アプリにランクインされました。
ともすれば硬くなりがちな教育アプリですが、ユーザー観察から見えてきた子供の心理と、プロトタイプをベースとした関係者とのすり合わせにより、ユーザーの支持を得ることができたのです。
※電話のコール発生数

参考 URL:

■IDEO事例ページ
http://www.ideo.com/work/elmo-calls-iphone-app/
http://www.ideo.com/work/sesame-street-iphone-apps/

■セサミストリート日本公式サイト
https://www.sesamestreetjapan.org/

■スマートフォンアプリ
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