雑談

ある慣習から生まれた商品のアイデア – メイソン・ジャーの意外な使われ方

 

ここ半年近くで急に至るところで目に付きだしたトレンドがある。メイソン・ジャーなるものだ。これは食料保存用のガラス広口瓶で、蓋を付けられるように瓶の口にらせん状の溝があるもので、デザイン発案者がメイソンという名前の人だったのでそう名付けられたのだけど、まぁ要するにガラスの広口瓶のことだ。

はじめてお目にかかったのは、いまから約5ヶ月前。職場に花を送らせる女の話を友人ヴィックとした、というお題目の記事を書いたと思うが、その会話をしてネタとして面白いと思ったのかどうか、ヴィックが私の自宅にチューリップの花束を送りつけてきた。ふうっ、職場じゃなくて自宅でほんとよかったよ、などと思いながらパッケージを開けると、このメイソン・ジャーなるブツが花と一緒に包装されていたのだ。

送られてきたチューリップ送られてきたチューリップとメイソン・ジャー

能書き曰く「メイソン・ジャーの花瓶もお付けしました。御花を楽しんだ後は、キャンドル・ホルダーとしてもお使いいただけます」などと書かれていたが、何のことはない、瓶の口のまわりに針金を巻きつけただけの代物である。

色鮮やかな花を楽しみたいのに、瓶の青色が目障りだなということと、こんな背丈の低い入れ物に花を入れるにはバランスが悪いなということで、格別よい印象の持てない初対面だった。

で、つづいて目にしたのが、同僚と昼ごはんを食べにいったとき。『バーガー(Burger)、バーボン(Burbon)、ビール(Beer)の三大”B”が極上のレストラン』みたいな謳い文句の店のためか、むさくるしさ漂う中年男性が背中を丸めてハンバーガーをビールで流し込んでるみたいのが客層の95%を占めていた。ただ店側としては、先日お話したような流行のクラフトビールだとか最近人気のバーボンなどを各種取り揃えて流行に敏感な若者を惹きつけたかった様子で、盛り付けだとか店内の内装だとかを、最近流行の「ちょっと侘びれた田舎の納屋風」に統一している。その一連の流れの演出なのだろうか、席について出された水のコップが、普通のガラスコップでなく例のメイソン・ジャーだったのだ。おかげで水を飲もうと口をつけると、唇に蓋をねじ込むためのらせん状の凸凹があたり、飲みづらいことこの上ない。またもやよい印象を持てずに終わった。

グラスとして使用されるメイソン・ジャーグラスとして使用されるメイソン・ジャー

さらにまた目にしたのが、ポッタリー・バーン(Pottery Barn)という、アメリカでは人気の家具屋。新しいアパートに先月引っ越したので、部屋の飾りつけなどのアイデアを頂こうと思ってこの家具屋をウロウロしてたところ、またもやメイソン・ジャーがお出ましになった。しかも今回は、シャンデリアとしてである。瓶の中に電球を入れて天井からぶら下げるだけという、小学生の夏休みの工作みたいな代物が、400ドルのオサレなインテリア商品として売られていた。

Pottery Barnのジャー・シャンデリア
http://www.potterybarn.com/products/exeter-pendant-large/

そして昨夜、友人の友人に誘われて「看板が出てないし扉がどこにあるかも分からないのに行列がいつも出来て、中に入るとその日のオススメカクテルしか飲めないラウンジ・バー」とかいう、聞くにつけ見るにつけ頑張った感じの店に行ったところ、もちろん、もちろんのこと、夏のおすすめフルーツカクテルなるものがメイソン・ジャーでご登場遊ばした。

いったい何が起きてるのか?この友人の友人なる男性、トレンドに追っつく努力を苦に思ってないようで、片っ端から最近流行の店を訪問した話などしてたので、このメイソン・ジャー現象について何か知ってるか聞いてみた。

いわく、アメリカ南部ではこのように、メイソン・ジャーで水や飲み物を飲むのが普通ならしい。冬の間は食品保存用としてジャーを使うけど、春になると瓶の中身もカラになり、また冬支度が始まるまで瓶は保存食用に使わないため、こうやって飲み物用に使ったりするのが古くからの習わしなようだ。

という地域限定の慣習が、南部出身有名料理家ポーラ・ディーンのTV番組で映し出されたり、昨今のクラフトビールだのクラフトバーボンだののブームにのって飲み物の器として使われることが、南部を飛び出て全国区で垣間見られるようになった。ひいては、飲み物用の器という枠を超えて、やれ花瓶代用だのやれ電灯代用だのと使われるのもまた流行として全国区に広まった様子だ。

アメリカにおける流行の流れというのは、通常海岸際(サンフランシスコなど西海岸、そしてニューヨークなど東海岸)から発祥し、中西部へと広がり、最後に南部に伝わっていく、という感じだ。でも今回のメイソン・ジャーは、その流れが逆で、南部から広まっていった、というのが何とも興味深い。

日本でこれを応用するとしたら・・・アヲハタのジャム瓶を使い終わって洗って、それで水を飲んだり電灯を作ったり花を活けたり、とかそういう感じになるのだろうか?