雑談

自転車泥棒

これは今からもう何年も前の、アメリカに到着したばかりのときの話。

日本ではどこに行くのも自転車で事足りてたので、その延長でアメリカ到着後すぐ、中古自転車を購入した。
他の州に引っ越さなければならない学生さんが引越し処分セールをしてたため、いたってまともな自転車をたった20ドルで買えた。

安くてラッキーなどとホクホクしてたのも束の間、購入してたった3日目に自転車を盗まれた。

いや、正確に言うと、自転車の前輪のみを盗まれた。

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日本でも見かけるような細長いワイヤーロック錠を使って、自転車を家の前の鉄格子にくくりつけてたのだが、本体フレームのみにワイヤをくぐらせてたので、お留守になってた前輪は持ってかれてしまったらしい。
ていうか、自転車丸ごとではなく、カッサラえそうなパーツだけを盗むという発想があまりにも新手というか、平和ボケした日本人である身としては予想外であった。

たしかにこの事件以来、街を見渡してみると、前輪のない自転車、両輪とも盗まれて本体フレームしか残ってない自転車、ときにはサドルまで盗られた自転車も至る所に見受けられ、切なく電柱やら鉄格子やらにくくりつけられている。

アメリカのちょっとした都市部であれば、自転車泥棒に苛まされるなどというのは日常茶飯事であるようだ。
FBI(アメリカ連邦捜査局)発表の統計によると、年間約23万台の自転車が国内で盗まれるという。なんと約2秒ごとにアメリカのどこかしらで自転車が盗まれてるという換算になる。

自転車泥棒が後を絶たない主な理由として、日本みたいに防犯登録みたいな制度がそこまで普及も整備もされてないこと、ほかにもっと被害金額の高い盗難や重大犯罪がしょっちゅう起きるため、自転車泥棒まで警察が構いきれない、などがある。

おかげさまで20ドルで購入したはずの中古自転車は、その3日後には100ドルのタイヤ代が必要になるという、なんとも高い買い物になってしまった。

前輪も取り付けられ気分を良くした初夏の夕方、近くの公園までチャリで夕涼みに出かけた。
もちろん自転車は、自分が陣取るベンチの肘掛け部分にワイヤーでくくりつけてみる。
まわりの夕涼み客よろしく、ベンチに腰掛けアイスティーを飲みながら新聞を読みふけっていたときだ。
目の前のだだっ広い芝生を横断して12-13歳の少年2人がゆっくり近づいてきた。
そのまま私の座ってるベンチまで歩いてきて、なんと私のチャリのハンドルに手をかけ、牽いて持ってこうとするではないか!

ワイヤー錠でロックされてるとは気づかず、持ち主である私がすぐ目の前に座っているにも関わらず、なんとか牽いてこうとガチャガチャ私のチャリを揺する少年たち。

あまりの事態に言葉を失ったというか、なんと言っていいのか、どう反応していいのか分からず、咄嗟に出た言葉はナントモ日本人らしく

「I’m sorry but it’s locked.(ごめんね、鍵かけてて)」

なぜか泥棒に謝ってしまった。

それを聞いた2人組の少年は悪びれることもなく、ニッコリ微笑んでゆっくり立ち去って行った。。。

ま、ある意味、人がたくさん集まる安全な公園でしかもまだ明るい時間でもこういう目に遭うんだという経験を、アメリカ到着早々にしたことは、平和ボケを一喝するにはよい経験だったのかもしれない。