データサイエンス

ジョブ理論とデータサイエンス

「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」クレイトン M クリステンセン (著) を読んで考えたことを書きたいと思います。

ジョブ理論とはなにか、ジョブ理論の定義はこのようにあります。

顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。この「進歩」のことを、顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な言い方ををしている。

具体的には以下の例が挙げられています。よく、モノではなく体験を売れと言うが、それに近い考え方と思いました。また、ジョブ理論の原書のタイトルは、「Jobs to be Done」でした。これで結構腑に落ちた感覚があり、単にジョブと言われると能動的なニュアンスな気がするが、英語だとその消費の裏に受動的に存在している顧客体験というニュアンスと理解できそうです。

同じ日のうちに、通勤者と父親は、まったく異なる状況下で、ミルクシェイクをまったく違うジョブのために雇用した。それぞれのジョブの競合相手はまったく異なる。朝の通勤時間帯なら、ライバルはベーグルや栄養バー、フレッシュジュースなどで、夕方なら、玩具店に立ち寄ることや、急いで自宅に帰ってバスケットボールをして遊ぶことなどだ。ミルクシェイクが最高の解決策と判断された結果は同じでも、そこに至る基準はまったくちがっている。

顧客目線で考えるという意味では、デザイン思考をもう少し理論っぽくしたものという印象もうけました。本書の事例にも、実際に顧客のもとへ足を運んだという事例はいくつか紹介されていて、それは必要だと思います。

ボブ・ホイットマンは、3年かけ、同社のB2Bトレーニングサービスの400社近い既存客や見込み客のもとへみずから足を運んだ。

また、普通のマーケティングで言われていることと同じであるが、単に顧客に聞けばいいわけではないです。自動車のない時代に、顧客にニーズを聞いたら「もっと速く走る馬車が欲しい」と言うだろうという話の件です。

消費者が自分の望みをつねに明確に説明できるとは限らない。たとえできたとしても、彼らの行動と一致しないことがある。

上記のことをここでは、ジョブを適切に定義すると言っています。また、イノベーションや、ニーズとの関係については以下のように書かれています。

適切に定義されたジョブはイノベーションの青写真になる。これは従来のマーケティングでよく言及される「ニーズ」とは大きく異る。ジョブはそれよりはるかに細かい明細化を伴うからだ。ニーズはつねに存在し、漠然としている。「私は食べる必要がある」という表明は、ほぼつねに真実である。「健康的でいたい」や「定年後に備えて貯蓄する必要がある」も同様だ。これらが消費者にとって重要なのはたしかだが、そのニーズをどのように満たすのかはぼんやりした方向性しか示されない。

データについては、以下のようにあります。その通りで、データは見落とすことがあると思います。つまり妻はその新しい服を、どこで何をするために雇用したかはデータに表れないことに注意しなさいということです。

企業が集めるデータは、ビッグ・ハイアしか反映しておらず、実際にその品が顧客の片付けるべきジョブを解決したかどうかは表れない。妻は新しい服を購入はするが、値札を切って身に着けるまでは消費していない。

ここでデータに関連して、データを素晴らしく活用しているネットフリックスについての記述がありました。

ネットフリックスCEOのリード・ヘイスティングスだ。彼は著名なベンチャー・キャピタリストのジョン・ドーアに、ネットフリックスはアマゾンと競っているのかと問われ、こう答えた。「リラックスのためにすることなら、なんでも競争相手だ。ビデオゲームと競い、ワインを飲むこととも競う。じつに手ごわいライバルだね。もちろん、他の動画配信サービスとも競う。ボードゲームで遊ぶこととも」

いくつか引用してみましたが、読みながら若干モヤッとしていることは、それは何度も紹介されているエアビーアンドビーのブライアン・チェスキーは、ジョブ理論を知らなかったはずであるということです。他にも多くの会社の事例が紹介されているが、そのイノベーションやサービスの転換が、ジョブ理論で説明できることは理解したが、ジョブ理論を明示的に使って起こしたイノベーションの例はどれだったのか(あったのか)はいまいちピンと来ませんでした。これは多分書いてあるはずなので、もう一度読み返してみようと思います。

ここまでの私なりの理解をまとめると

  • 商品が売れていることの背景には、何種類もの異なるジョブが存在しうる
  • ジョブをみつけるために顧客のもとへ足を運ぶことは重要だが、消費者が自分の望みをつねに明確に説明できるとは限らない
  • ジョブ理論はイノベーションの種になりうるが、イノベーションを起こすためにジョブ理論を必ずしも知らなくても良い

です。間違っていたら教えてください。

では、弊社のForecastFlowのような自動機械学習ツールが、ジョブを見つけることはあるか?を少し考えてみました。

これは基本的にデータサイエンティストやAIエンジニアは新しいジョブに気づけないことの方が多いように思います。普通は、既にみえているジョブをどう成長させるかという問題を設定して、機械学習で解くことの方が多いからです。逆に優秀なマーケターが機械学習を使ったら、気づくと思います。まずミルクシェイクの売上ではなく、ミルクシェイク愛にあたるものをTargetにしたモデルを作り、「なぜその重要特徴量に、夕方の父親が食い込んでくるのか?」その感覚は無かったな、と思うはずです。両者の違いは、ありがちであるが、機械学習をまわすことは目的だったか、顧客体験を深く理解するためのあくまでツールとして使っていたかだと思います。機械学習が悪というより使う側の問題であるかと思います。適切に問いを設定し気の利いた特徴量をつくることが人間よりAIが上手くなるのはもう少々時間がかかるのではないかと思います。

もし、私がクライアント企業にどっぷり入り込んでいまの延長線上じゃないレベルで、サービスをグロースさせようと思ったら、最初はそんなにデータに頼らない可能性があります。その時ジョブという言い方をするかはさておき、顧客体験は重要であるが、データは必ずしも最初からそれを適切に定義するために最も有用な情報でないこともあるからです。