雑談

今後のスマートデバイスの未来

 

今回は、今後のスマートデバイスの未来、IoT(Internet of Things)と関係の深そうなプロジェクトの紹介です。
2013年、当時まだGoogle傘下にあったモトローラの研究開発部門ATAP(Advanced Technology and Projects)は、アメリカの大学やMaker Faire(米国発 世界最大のDIYイベント)をトラックで回り、ハッカソンならぬMAKEaTHONを開催するキャラバンを展開しました。
※Maker Faire:米国発 世界最大のDIYイベント

12の大学と4つのMaker FaireでのMAKEaTHONに費やした期間は、5か月間。若手のエンジニアやデザイナーが集まり、モトローラのDroid Razr MaxxというAndroidスマートフォンのリデザインを通じて、参加者各々の理想的なスマートフォンを短期間で実装するというものでした。
モトローラが会場に持ち込んだ2台のトラックには、参加者の創造性を刺激する様々なグッズが詰め込まれていました。
例えば、
・3Dプリンター、レーザーカッターなどプロトタイプを作るための工作用具
・補助センサー、超音波エミッター、電子グローブ等、モバイル端末やウェアラブル端末を作るための材料

などです。

クリエイティブ性の秘訣は、このトラックにアリクリエイティブ性の秘訣は、このトラックにアリ

参加者は、これらの材料を使い、1日目にアイデアラッシュ、2~3日目はひたすら実装を行い、とにかく短期間でアイデアを形にしていきました。

なぜ、モトローラはこのようなプロジェクトを実行したのでしょうか。
それは、モトローラの機種を使う若い世代のユーザーが、「自分独自の端末」を求める傾向にあり、それを後押しする環境作りを進めるためでした。各々のユーザーが「理想的」と思える端末を作ることのできる「オープンハードウェアプラットフォーム」を構築し、従来の端末メーカーVSユーザーという構図ではなく、デベロッパー&ユーザーの共存世界を作ろうとしたのです。最終的には、個人が自分に最適なスマートデバイスを自由に作れるような世界までイメージしていました。
そのためには、将来ユーザーとなりうる若い世代で、且つ最先端のテクノロジーやオリジナリティを求めるタイプの人が集まる場所で、彼らが何を課題と感じているのか、またその課題を解決するデバイスのアイデア、実装のトライ&エラーを繰り返す模様の観察が必要でした。そこで、IDEOと協力してプロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクトを推進してくことで、将来実現する「スマートデバイスのDIY」に必要な技術や開発者支援環境などの構想を温めていったのです。

若手のエンジニアやデザイナーが集まった若手のエンジニアやデザイナーが集まった

長い時間と費用のかかった実験プロジェクトですが、このMAKEaTHONはその後「Project Ara」と名付けられ、2013年10月に正式に世に出ます。「Project Ara」は、スマートフォンの基本的な部品であるディスプレイ、バッテリー、カメラ、プロセッサ、WiFi・Bluetooth等通信機能を、モジュールとして組み合わせられるようにした「モジュール式携帯電話製品」として発表されました。言わば、ユーザーの好みやライフスタイルの多様化に応じて、個々にとって必要なスマートフォンをカスタマイズして自作できる機種です。
たとえば、先の手話を認識するモバイル端末の利用者と、バイクライダー用のモバイル端末では、用途に応じて必要なスペックが違っていて当然です。手話用モバイル端末であれば、手の動きを認識するセンサーと付属品、CPUなどをハイスペックにして、より正確な言葉の認識と速い言語変換を実現した方が、利便性が良いはずです。一方、バイクライダー用モバイル端末であれば、ナビやGPS、通信機能に特化している方がより安全性を高められます。

スマートフォンもカスタマイズされる時代にスマートフォンもカスタマイズされる時代に

このようなユーザー個々の課題や好み、ライフスタイルがどの程度多様化しているのか、というユーザーニーズの把握に、先のMAKEaTHONが大きな役割を果たしたのは想像に難くありません。
一連のプロジェクトを通じ、モトローラは自社の携帯電話事業の未来のために、今後の中心的なユーザーとなるエッジの立った若者のユーザー観察からヒントを得ることができました。MAKEaTHONキャラバンにおけるユーザー観察は、事業の方向性の検討に、ユーザー観察とプロトタイピングのサイクルを取り入れた事例だと思います。

2014年1月、Googleはモトローラ・モビリティをレノボに売却することを発表しました。しかし、「Project Ara」の実行部隊であった旧モトローラの研究開発部門ATAP、およびモトローラが取得していた携帯電話関連の特許は、引き続きGoogleに残ることも明らかとなっています。そして4月、Googleが改めて「Project Ara」の構想を発表し、スマートデバイスを取り巻く事業環境が変化するのではないかと話題になりました。

上記のプロジェクトページはまだ準備中となっており、基本的な思想はモトローラが行っていた時代と変わりません。もともとの「モジュールでカスタマイズ可能なスマートデバイス」という基本思想に、Androidのプラットフォームを構築してきたGoogleのノウハウを投入して、「オープンなスマートデバイス市場」に向けた環境整備が進められているのです。
たとえば、デベロッパー向けのMDK(Module Developers Kit)を用意したり、モジュールメーカーの参入を促すために、モジュールコンテストとマーケットの用意をしたりするなど、エコシステムが成立するような仕掛けを作っています。
新生「Project Ara」は、2014年の秋に整備される模様です。大学やDIYイベントでの地道なMAKEaTHONから、新たなスマートデバイスの世界がどのように育っていくのか、楽しみです。

※記事内の写真は、実際のMAKEaTHONの様子

参考URL・記事
■A Taco Truck for Makers
IDEO http://www.ideo.com/work/makewithmoto/

■MAKEaTHONが行われた大学の記事(2013)
http://news.vanderbilt.edu/2013/08/make-a-thon/

■スマートフォンをレゴみたいに組み立てる、モトローラの実験プロジェクト(2013)
readwrite.jp http://readwrite.jp/archives/1786

■モトローラ、モジュール式携帯電話Project Ara で3D Systems と提携。3Dプリントでスマホ生産(2013)
Engadget http://japanese.engadget.com/2013/11/25/project-ara-3d-systems-3d/

■モトローラ売却後もグーグルに残ったR&D部門「ATAP」(2014)
Wired http://wired.jp/2014/02/03/google-atap/

■グーグル仕掛けるメーカーの終焉、欲しいスマホは自作(2014)
日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK3001F_Q4A630C1000000/

※西暦は記事の掲載年