キーワード解説

FOMO(Fear of Missing Out:取り残されることへの恐れ)について

「自分だけが取り残されているのではないか」。SNSの普及とともに、こうした漠然とした不安を抱える人が増えています。FOMO(Fear of Missing Out:取り残されることへの恐れ)は、他者の経験や情報に触れることで強まり、私たちを精神的に疲れさせ、行動を変えてしまうことがあります。ここでは、定義から背景、心理メカニズム、社会への影響、そして今後の展望まで、最新研究を踏まえてわかりやすく整理します。

FOMOの定義:見えない不安の正体

FOMOは、価値ある情報や経験、機会を他者が手にしている一方で、自分だけが逃しているのではないかという強い不安や焦りのことです。単なる情報不足の不安ではなく、他者との比較から生じる劣等感や、つながりから外れてしまうのではないかという孤独感と結びつきやすい特徴があります。

この感情が現代で目立つのは、スマートフォンとSNSの広がりが大きいからです。SNSは他者の日常をリアルタイムに、しかも視覚的に流し続けます。人がもともと持っている「機会を逃したくない」という傾向が、可視化と即時性によって増幅され、「自分だけが取り残されている」感覚につながりやすくなりました。

FOMOの心理構造には、通知を見るたびに確認せずにいられない衝動、選んだ行動よりも他に良い選択があったのではという疑い、比較によって自己評価が下がるプロセス、そして不安と後悔が重なって慢性的な疲労感にいたる流れが含まれます。これらが連鎖すると、集中力の低下や気分の落ち込みなど、日常の質にも影響が出やすくなります。

デジタル黎明期からSNS全盛期へ:FOMOの歴史的変遷

FOMOという概念は、1990年代後半にマーケティング研究者のDan Hermanが注目し、2000年に学術論文として公表されました。その後、2004年にHarvard Business Schoolの学生だったPatrick J. McGinnisが学生誌に寄稿したコラムで用語が広く知られるようになります。2000年代以降のスマートフォン普及と2010年代のSNSの一般化が重なり、FOMOはマーケティングの枠を超えて、心理学や社会学など多分野で扱われる普遍的なテーマになりました。

企業はこの心理を利用し、期間限定や数量限定といった訴求を強めました。消費者は「今逃すと損をする」という感覚に背中を押され、予定外の購入をしてしまうことがあります。一方で、FOMOに対置される概念として、取り残されること自体を楽しむJOMO(Joy of Missing Out)も広がり、デジタルデトックスやマインドフルネスなどの実践が注目を集めています。

FOMOの深層:主要な論点とその影響

1. FOMOの心理メカニズム:見えない比較と承認欲求の螺旋

人には社会に属したい、認められたいという根源的な欲求があります。SNSはそれを満たす場でありながら、同時に歪める場にもなります。理想化された他者の断片に触れ続けると、比較が習慣化し、「自分は平凡だ」という感覚や自己肯定感の低下につながります。そこで不安を打ち消そうとSNSにさらに足が向きますが、根本の不安が解消されないまま比較が増え、気分や睡眠、集中の質まで損なわれやすくなります。

2. 社会的影響と行動変容:SNS依存から消費行動まで

FOMOは、常時接続の生活様式を強めます。通知への過敏な反応や頻繁なSNSチェックが続くと、対面のやり取りが減り、関係の満足度が下がることがあります。消費行動では、タイムセールや「残りわずか」といった表示が、逃したくない気持ちを刺激し、衝動買いにつながることがあります。こうした動きは短期的には購買体験を活性化しますが、過剰消費や後悔という反作用も生みます。

3. 若年層への影響:成長の光と影

大学生など若年層は、SNSが生活の中心に近いことやアイデンティティ形成の時期にあることから、FOMOの影響を受けやすいとされています。研究では、FOMOが生活満足度の低下や気分の悪化、睡眠の質の低下と関連することが示されています。学業との関係については、成績を下げる媒介要因として働くという報告がある一方で、有意な関連が見られないとする報告もあります。共通して言えるのは、FOMOが注意の分散や疲労を通じて、日々の学びの質に影響しやすいという点です。

4. 関連用語との区別:FOMO、FOBO、そしてJOMO

FOMOは「他者の体験や情報から取り残される恐れ」です。これに対して、FOBO(Fear of Becoming Obsolete)は「時代遅れになる恐れ」を指し、主に自分のスキルや価値の陳腐化への不安を扱います。JOMO(Joy of Missing Out)は、情報や機会から意図的に距離を取り、落ち着きを取り戻す姿勢を表します。自分の不安の正体を見極め、どの概念に当てはまるのかを理解することが、対処の第一歩になります。

社会の鏡に映るFOMO:影響と統計データ

1. SNS依存と精神健康への影

FOMOの高さは、SNSやスマートフォンの利用時間の長さと関連し、その結果として睡眠や気分の乱れ、疲労の増加が報告されています。夜間の長時間利用は体内時計を乱し、翌日の集中力を下げます。職場でも、注意の散漫さや生産性の低下が懸念されるようになりました。因果関係の方向は研究で議論が続いていますが、関連が確認される知見は着実に蓄積しています。

2. 若年層への影響:大学という環境で起きること

大学生活は、人や知識との出会いが多い時期です。FOMOが強いと、学びの機会に十分没頭できず、常に別の選択が気になってしまうことがあります。自己肯定感が揺らぐと、他者との比較ばかりに意識が向き、目の前の学びの手触りを感じにくくなります。一方で、FOMOが必ずしも成績低下をもたらすとは限らないという報告もあり、個人差への配慮が重要です。

3. マーケティング戦略におけるFOMOの活用

限定セールやカウントダウン表示、他者の購買行動の可視化は、FOMOを刺激する典型例です。「今逃すと損をする」という気持ちが強いほど、即断即決の購入が増えます。過度な誘導は後悔や家計の圧迫につながるため、消費者側は必要性や代替を一呼吸おいて見直す習慣が役立ちます。企業側にも、短期的な煽りに頼らない設計が求められます。

4. 新たな領域への広がり:性的FOMO

近年は、性的な機会や経験を逃す不安という文脈でもFOMOが研究されています。FOMOの高さが、地位獲得志向や同性愛競争性、短期的な交際志向と関連するという報告や、若年層のセクスティング行動と結びつく可能性を示す研究も出ています。個人の価値観や同意、プライバシーを守る視点を改めて確認する必要があります。

現代社会におけるFOMO:最新動向と変容

FOMOは個人の問題にとどまらず、学校や職場、地域など社会全体で向き合う課題として扱われつつあります。教育の現場では、SNSとの距離の取り方や情報過多の影響を学ぶ取り組みが増え、企業でもメンタルヘルス支援や勤務中のデバイス利用ガイドラインが整えられています。

一方で、JOMOという考え方が静かに広がっています。通知をしばらくオフにする、オフラインの時間を確保する、自分の興味に合った少数の情報源に絞るなど、小さな工夫が心の余白を生みます。これはテクノロジーを拒むのではなく、主体的に選び取る姿勢です。

さらに、AIやメタバースといった技術の発展は、FOMOの形を変えています。高度にパーソナライズされた推薦が関心を刺激し続けたり、仮想空間での出来事が欠かせない体験として扱われたりすると、「知らない」「参加していない」ことへの焦りが新しい次元で生まれるかもしれません。こうした環境で、自分のペースを守るスキルがより大切になります。

これからの見通し:FOMOの将来像

1. 技術進化との関係深化:新しい「取り残され」の形

ARやメタバース、生成AIによって、体験の定義は拡張されています。より没入的なイベントが当たり前になると、そこに不参加であることへの不安が強まる可能性があります。情報推薦が巧妙になるほど、見逃したくない対象も増えやすくなります。だからこそ、通知設計や推奨設計の透明性、利用者側の設定のしやすさが重要になります。

2. 精神健康対策の強化:個人から社会へ

FOMOが気分障害や睡眠の質と関連する知見が積み上がるにつれ、学校教育や医療、職場での支援が広がるでしょう。カリキュラムにおける情報リテラシーと自己調整学習、医療現場での早期介入、企業での勤務時間中の通知管理など、実践的な枠組みが求められます。

3. マーケティング手法の進化と倫理

パーソナライズされた限定オファーは今後も高度化します。一方で、脆弱性につけ込む過度な誘導は批判の対象になりやすく、規制やガイドラインが強化される可能性があります。短期の売上だけでなく、顧客満足と信頼を重視する設計が、長期的な関係構築につながります。

4. 多様化するFOMO:文化・世代を超えた理解へ

FOMOの感じ方は個人差だけでなく、文化や世代によっても異なります。集団主義的な価値観が強い文脈では「孤立への不安」が、個人主義的な文脈では「自己実現の機会損失への不安」が強まるなど、表れ方が違う場合があります。多様性を前提にした支援や教育が必要です。

さらなる深掘り:これからの研究テーマ

FOMOと気分障害や不安障害などの臨床的な問題の関係は、因果方向や神経生物学的メカニズムを含めて、まだ十分に解明されていません。介入法についても、認知行動療法やマインドフルネス、デジタルデトックスの効果を、厳密な比較試験で検証する余地があります。AIとメタバースの普及がもたらす新しいFOMOの形についても、定義や測定のアップデートが必要になるでしょう。文化間・世代間比較や、マーケティングの倫理と規制の動向も、今後の重要なテーマです。

FAQ

Q: FOMOとは具体的にどのような感情ですか? A: 他者が得ている価値ある情報や経験を自分だけが逃しているのではという不安や焦燥です。比較や孤立感と結びつきやすい特徴があります。

Q: なぜ現代でFOMOが目立つのですか? A: スマートフォンとSNSの普及で、他者の体験が常時可視化されたためです。即時性と視覚性が、不安を増幅させます。

Q: FOMOの心理構造は? A: 通知確認の衝動、より良い選択があったのではという疑い、比較による自己評価の低下が重なり、不安と後悔が循環します。

Q: 日常ではどう現れますか? A: 頻繁なSNSチェック、集中の途切れ、睡眠の質の低下、必要のない衝動買いなどの形で現れます。

Q: FOBOやJOMOとの違いは? A: FOBOは自分の価値やスキルが時代遅れになる不安、JOMOは意図的に距離を取り落ち着きを楽しむ姿勢です。FOMOは他者の体験から取り残される不安に焦点があります。

Q: 若年層への影響は? A: 生活満足度や睡眠との関連が報告されています。学業との関係は研究で結論が分かれますが、注意の分散や疲労を通じて学びの質に影響しやすい点は共通しています。

Q: 企業はどう活用していますか? A: 限定訴求やカウントダウン、他者の購買の可視化などで、今逃すと損という感情を刺激します。消費者は一拍置いた判断が役立ちます。

Q: AIやメタバースはFOMOをどう変えますか? A: 推薦の高度化と没入体験の一般化により、参加していない・知らないことへの焦りが新しい形で生まれる可能性があります。設定の見直しや時間管理が鍵になります。

アクティブリコール

基本理解 FOMOは、他者の体験や情報を逃しているのではないかという不安や焦りです。現代で目立つのは、スマートフォンとSNSの普及により、他者の出来事が常時可視化されたためです。通知を確認せずにいられない衝動や、より良い選択があったのではという考え、比較による自己評価の低下が組み合わさって、不安と後悔の循環が起きます。

応用 旅行写真を見て置いていかれた気分になるのは、比較による自己評価の低下や「他の選択肢への疑い」にあたります。オンラインで「本日限定」「在庫わずか」を見て衝動買いしてしまうのは、FOMOによる即時的な意思決定の変化と説明できます。JOMOはその対極で、意図的に距離を取り、落ち着きを楽しみます。

批判的思考 大学生はSNSの利用が多く、自己形成の過程にあるため、比較が強まりやすく、FOMOが学びの没頭を妨げることがあります。企業のFOMO活用は効果がある一方、過度な煽りは倫理的課題を生みます。消費者は必要性と代替を確認する習慣が助けになります。AIやメタバースが広がると、仮想イベントや生成コンテンツからの「非参加」への不安が生じやすくなり、通知と推奨のコントロール力がより重要になります。

深水英一郎
小学生のとき真冬の釣り堀に続けて2回落ちたことがあります。釣れた魚の数より落ちた回数の方が多いです。 テクノロジーの発展によってわたしたち個人の創作活動の幅と深さがどういった過程をたどって拡がり、それが世の中にどんな変化をもたらすのか、ということについて興味があって文章を書いています。その延長で個人創作者をサポートする活動をおこなっています。
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