キーワード解説

Snowflake Cortex —— SQLで解き放つ、データ活用とAIの新たな地平

Snowflake Cortex は、Snowflake Data Cloud(Snowflake AI Data Cloud) 上で提供されるフルマネージドな AI/LLM 機能群です。SQL と Python から直感的に使える AISQL(LLM/マルチモーダル関数群)、自然言語から SQL を生成する Cortex Analyst、ハイブリッド検索の Cortex Search、手順実行まで担う Cortex Agents、さらに非構造化データの抽出を行う Document AI などで構成されます。テキスト・画像・音声といった多様なデータを、Snowflake のセキュリティ境界(secure perimeter) の中で処理できるのが特徴です。


Snowflake Cortex の定義と基本機能:データとの対話をより自然に

Cortex は、Snowflake Data Cloud を土台に、最先端の AI/LLM を企業内の広い職種が扱えるように設計された機能群です。従来の AI 活用では、インフラ構築やモデル運用(MLOps)に専門知識と時間が必要でしたが、Cortex は フルマネージド でこれらの障壁を下げ、既に馴染みのある SQL/Python から AI を呼び出せます。

主なコンポーネント

  • AISQL(LLM/マルチモーダル関数群) SQL から要約・翻訳・感情分析などの LLM 推論を呼び出せます。テキストをベクトル化する Embedding(埋め込み)生成 関数も提供され、テキストの意味情報を数値として扱えます。たとえば、顧客レビューの極性判定や特徴抽出を SQL 内で完結できます。
  • Cortex Analyst(自然言語 → SQL) 「先月の売上トップ10商品を表示」といった自然言語の要望から、正しい SQL を自動生成・改善する中核機能です。Snowflake Copilot はこの体験を Snowsight 等の UI で提供し、日常的な分析作業をアシストします。
  • Document AI(非構造化ドキュメント抽出) 請求書・契約書・マニュアル・画像などから、顧客名、金額、日付、製品コード等の項目を抽出し、構造化データとして取り込めます。手作業入力の負荷とヒューマンエラーを抑制します。
  • Cortex Search(ハイブリッド検索) ベクトル検索とキーワード検索を組み合わせて、自然言語質問に高い関連性で回答するための基盤です。RAG(Retrieval Augmented Generation)構成の要となる検索を、Snowflake 内の統治(RBAC 等)と一体で運用できます。
  • Cortex Agents(自律的タスク実行) Analyst / Search / LLM 関数などを“編成”し、複数ステップのタスクを実行します。FAQ 生成、関連情報の検索、必要時のエスカレーションなど、一連の業務フローの自動化に向きます。
マルチモーダル対応について 画像については マルチモーダル LLM(例:COMPLETE 系) を SQL から呼び出して内容理解や要約が可能です。音声については AI_TRANSCRIBE で音声→テキスト変換を行えます。これらは現時点で公開状況(GA/プレビュー)が機能やリージョンによって異なるため、最新ドキュメントの提供ステータスを併記するのが実務上安全です。 セキュリティ境界(Secure Perimeter) これらの処理は Snowflake のセキュリティ境界内 で実行され、外部サービスへの任意のデータ持ち出しを前提とせず、アカウント内の統治・監査と整合します(ただし読者が「データが自分のアカウント外へ一切出ない」と誤解しないよう、製品の最新仕様と設定に従った表現・運用が必要です)。

歴史的背景:データプラットフォームの「知」への進化

2022 年以降の LLM/生成 AI の急速な普及を受け、Snowflake も「データを動かさずに AI を当てる」設計を強化しました。従来、外部 AI サービスへデータ転送する方式は、機密性・遅延・コスト の課題がありました。Cortex は インプレースな AI 実行 を掲げ、Snowflake のセキュリティ境界内 で推論・検索・抽出を行える方向へ進化しました。

2024〜2025 年にかけては、Anthropic などの最先端モデル連携 の拡充や、Cortex Agents の公開プレビュー、マルチモーダル関数 の拡張などが進んでいます。長文処理・推論能力の高いモデルを Snowflake 内で扱うことで、長文ドキュメントの処理や高度な問い合わせが現実的になりました。


主要な論点:Cortex がもたらすパラダイムシフト

  1. SQL による LLM アクセス データベースや BI に親和性の高い SQL から、要約・抽出・分類・ベクトル化を呼び出せます。データエンジニアやアナリストが、専任の ML チームに依頼せずとも AI 機能を活用しやすくなります。
  2. セキュリティとレイテンシの両立 センシティブなデータを Snowflake のセキュリティ境界内 で処理でき、ネットワーク経路に依存する待ち時間や情報漏洩リスクの低減が見込めます。統治・監査と運用が一体化します。
  3. 構造化×非構造化の統合 RDB の事実データと、PDF・画像・チャット・メール等の非構造化データを横断的に扱い、Cortex SearchDocument AI と組み合わせて RAG を企業内で完結できます。
  4. マルチモーダルの拡張 画像理解や音声認識(文字起こし)を SQL から呼び出し、製造の外観検査、コンタクトセンターの会話要約、マーケティング素材の分析などのユースケースを広げます(提供ステータスは機能・リージョン別に要確認)。
  5. エージェントによる業務自動化 Cortex Agents が、問い合わせへの回答作成→根拠検索→要約→エスカレーションといった複合タスクを遂行。単発の「回答」から、プロセスの自動化 へと重心が移ります。

社会的影響:データとAIの民主化

  • 業務生産性 レポート生成・定型抽出・一次分析の自動化で、アナリストは探索・設計・意思決定支援へ時間を振り向けられます。
  • データ民主化 SQL と自然言語で AI を呼び出せるため、部門横断でセルフサービス分析が進み、DX の推進力になります。
  • 新規ビジネス機会 感情分析、要約、翻訳、画像理解、音声認識、RAG を組み合わせ、パーソナライズ、サポート高度化、品質改善など多様なアプリが現実化します。
  • プライバシーと統治 Snowflake の統治と一体で AI を運用でき、コンプライアンス対応(GDPR/CCPA など)と両立しやすくなります。
参考事例(公式に公開のあるもの) Siemens Energy ではドキュメント Q&A 等の構築が紹介されています。Nissan(Nissan Motor Corporation) でもレビュー分析などの取り組みがウェビナー等で紹介されています(地域名の特定は避けるのが適切)。

将来の展望:Cortex が切り拓く次のフロンティア

  • 多言語・多文化対応の強化 日本語を含む多言語での精度向上・UI 連携の深化が見込まれます。
  • マルチモーダルの高度化 画像・音声に加えて、動画やリアルタイム解析への拡張が想定されます。
  • エージェントの実務適用 ワークフロー自動化、権限境界・承認フローとの統合、対話と行動の往復が洗練されます。
  • ファインチューニング/カスタムモデル 企業ドメインの用語や文体に合わせた軽量微調整(例:PEFT)が標準運用化し、汎用モデルとのハイブリッドが一般化します。
  • エコシステム連携の拡張 他クラウド、SaaS、社内システムとの連携強化で、統合データ・AI 基盤としての一体感が高まります。
  • プライバシー・ガバナンスの精緻化 監査ログ、ポリシー適用、データ最小化などの機能強化により、持続可能な AI 利用を支えます。

FAQ

Q. Snowflake Cortex とは具体的に何ですか?

A. Snowflake Data Cloud 上で提供されるフルマネージドな AI/LLM 機能群です。AISQLCortex AnalystCortex SearchCortex AgentsDocument AI などを含み、SQL と Python から自然言語処理・検索・マルチモーダル解析を実行できます。

Q. 従来の AI 活用と比べた利点は?

A. インフラ/MLOps の負担を抑え、SQL/Python から直接 AI を呼び出せます。処理は Snowflake のセキュリティ境界 内で実行され、統治・監査と整合しやすく、レイテンシとリスクの低減が見込めます。

Q. AISQL では何ができますか?

A. 要約・翻訳・分類・抽出などの LLM 推論に加えて、Embedding(埋め込み)生成 でベクトル化が可能です。顧客レビューの感情分析や特徴抽出を SQL 内で完結できます。

Q. 自然言語から SQL を作りたい場合は?

A. Cortex Analyst が自然言語→SQL を担います。Snowflake Copilot はその体験を UI(Snowsight 等)で提供し、クエリ生成・改善を対話的に支援します。

Q. Document AI はどのようなデータを扱えますか?

A. PDF・画像などの非構造化ドキュメントから、顧客名・金額・日付・製品コード等の項目を抽出して、構造化データとして取り込めます。

Q. セキュリティ上のメリットは?

A. 推論・検索・抽出の処理を Snowflake のセキュリティ境界 内で実行でき、RBAC 等の統治と一体で運用できます。外部転送前提ではないため、機密性・遅延・コスト面で有利です(実運用は最新仕様・設定に依存)。

Q. ファインチューニング(微調整)は可能ですか?

A. 軽量な微調整(例:PEFT)等の手段が提供され、企業の専門用語や文脈に合わせたモデル最適化が可能です(提供ステータスは機能別・リージョン別に確認)。


アクティブリコール

基本理解

  1. Snowflake Cortex はどのプラットフォーム上で提供されますか? 答え: Snowflake Data Cloud(Snowflake AI Data Cloud)
  2. SQL 以外に、どの言語から AI 機能にアクセスできますか? 答え: Python
  3. データを Snowflake の外へ動かさずに実行する設計は何と表現されますか? 答え: Snowflake の セキュリティ境界(secure perimeter) 内での実行
  4. テキストを意味ベクトルへ変換する処理は何と呼びますか? 答え: Embedding(埋め込み)生成

応用

  1. レビューの極性(ポジ/ネガ/中立)を SQL で判定したい。どの機能? 答え: AISQL(感情分析関数 等)
  2. 「先月の売上トップ10商品を表示」を自然言語→SQL で実行したい。どの機能? 答え: Cortex Analyst(UI 体験は Snowflake Copilot
  3. 請求書 PDF から顧客名・金額・日付を抽出して格納したい。どの機能? 答え: Document AI
  4. 医療分野の専門用語に強い応答をさせたい。どの機能? 答え: ファインチューニング(微調整)(提供ステータス要確認)

批判的思考

  1. セキュリティ境界内実行のメリット(セキュリティ/パフォーマンス/コスト) 答え例: 外部転送を前提としないため漏洩リスクを抑制。ネットワーク往復が減り遅延を抑制。転送・外部推論に伴うコストを抑え、統治・監査と整合。
  2. 従来の分析フローと Cortex 導入後の違い 答え例: 従来は抽出→前処理→モデル実行の多段プロセスと専門知識が必要。Cortex では SQL/Python から直接 LLM/検索/抽出を呼び出せ、Copilot/Analyst がクエリ作成を補助し、探索と意思決定に集中できる。
  3. マルチモーダル対応が開く新可能性 答え例: 画像の外観検査、マーケ素材の自動要約、音声の議事化+感情分析など、テキスト中心の分析を超えた多角的な洞察と新規体験の設計が可能(提供ステータスは機能・リージョンで要確認)。

まとめ

Snowflake Cortex は、AISQL / Analyst / Search / Agents / Document AI を核に、SQL/Python から AI を一体運用 できる基盤です。構造化・非構造化・マルチモーダルを横断し、Snowflake のセキュリティ境界 内で統治・監査と両立させながら、RAG やエージェントによるプロセス自動化へ踏み出せます。今後も多言語・マルチモーダル・エージェントの実務適用が進み、企業のデータ活用は「質問に答える」から「業務を動かす」段階へと進化していくでしょう。

イノベアーくん
あたらしいガジェットや、めずらしいサービスが大好き。AIやデータ、そしてテクノロジーがわたしたちの仕事や生活をどう便利にしていくのか、ということについてすごく興味があります。いつもメモ帳を忍ばせていて、おもしろいと思ったことはすぐにメモしています。そのメモ帳をときどき眺めながら甘いお菓子を食べるのが至福の時間です。
データ分析・AIの専門家集団 GRI