こんにちは。
特許権を取得するための3つの要件のうち、「新規性」と「進歩性」については以前の記事で詳しくに説明しました。今回は3つ目の条件である「産業上利用可能性」について触れていきたいと思います。
一見シンプルに思える「産業上利用可能性」ですが、実は医療行為をはじめとする様々な「例外」が存在します。特に医療分野では複雑な判断基準があるため、発明や特許に関心のある方は正しい知識を整理しておくことが重要です。
特許権の3つの要件
改めて復習すると、特許権が認められるための条件として主に以下の3つがあります。
●産業上利用可能性
発明が産業上利用できるものである必要がある(特許法の第 29 条第 1 項柱書)
●新規性
発明がいまだ社会に知られていないものである必要がある(特許法の第 29 条第 1 項 第 1 ~ 3 号)
●進歩性
発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、特許の出願の時点における 技術常識に基づき、容易に発明できないものである必要がある(特許法の第 29 条第 2 項)
産業上利用可能性とは
それでは、「産業上利用可能性」について見ていきましょう。
特許を受けるためには、特許出願を行う際に当該発明が産業の役に立ち、産業の発展に寄与することを証明する必要があります。
ここで「産業」とは主に以下の分野を指しています。
製造業、鉱業、農業、漁業、運輸業、通信業など
理解度チェック
どのような用途の技術が産業上利用可能として認められないのか、と言う説明に入る前にまず次の問いについて考えて見ましょう。
【質問】特許出願を行う際には、発明が産業上の利用可能性を有することを明確に示す必要がある。この要件に関して、最も適切な選択肢を1つ選べ。
- 学術的な研究も産業上の利用可能性が認められる可能性がある。
- 実験的な段階にある発明であっても、産業上の利用可能性が認められる可能性がある。
- 人間を治療、診断、手術するための技術は産業上の利用可能性が認められない。
- 医療機器や医薬品などの発明は産業上の利用可能性が認められない。
【回答・解説】
正解は選択肢3
以下のものに該当する発明は、産業上の利用可能性がないと判断される可能性があります(注:すべてのケースが産業上の利用可能性がないというわけではない)。
- 学術的な研究のための発明
- 実験段階にある発明
- 医療行為に該当する技術
- 個人の趣味や嗜好としてのみ利用され、販売や営業の対象とならない発明
医療行為と特許の関係
医療行為に関連する技術が「産業上利用可能」と認められない理由は重要な論点であるため、その理由について調査した内容を説明させてください。
簡単にいうと、これは人道上の観点から、医療行為の適正・公平・迅速を保つためです。
一般的に、何らかの技術を業として使用する際に、その技術の特許を確認することがあるが、医療従事者が緊急性を要する患者を前に、いちいち特許を確認してから治療や手術や救命を行うのでは倫理的に不適切とされるからです。あるいは、本当はもっと適切な治療法があるにも関わらず、発明者の承諾を得ずにそれを必要としている患者に適用できないことも医療倫理に反しているでしょう。
法的根拠と審査基準
日本の特許法では、医療関連発明を特許することができないという明文の規定はありません。しかし、医療行為の発明は「産業上の利用可能性」がないとされているため、実質的に特許を受けることができません(参考:特許法29条1項柱書)。特許審査基準には「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」は産業上の利用可能性がなく、特許とならない」という旨の記載があります。
特許出願の際に、「実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明であるかどうか」が判断のポイントとなり、もし該当した場合「産業上利用することができる発明に該当しない」とされます。
「方法」がポイント
特許法上、産業上の利用可能性がないゆえに特許を受けることができないとされる発明は「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」です。「方法」がポイントの1つのようです。
つまり、これに該当しない医療関連の発明は産業上の利用可能性が認められる可能性があります。
多くの場合それは医療に関連する(「方法」ではなく)「物」の発明です。医薬品や医療機器などは「産業上の利用可能性」があり、特許を受ける可能性があります。
ところで、現代医療の大きな部分は最先端の薬品や医療機器に依存しています。そのため、実質的に医療行為は特許による影響を受けてしまうケースもあります。
執筆担当:ヤン ジャクリン(GRI講師・分析官)



