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Causal AI(因果推論AI)と予測用AI 何が違う?

近頃、従来の予測用AIとは異なる用途のAI技術が注目されるようになってきました。1つがブームの真っ盛りの中の生成AI(Generative AI)で、もう1つの代表例は「因果推論AI(Causal AI)」です。この記事では因果推論AIの概要と応用例について紹介します。関連記事(https://gri.jp/media/entry/35866)では因果推論AIの具体的な手法についてまとめています。

ちなみに、生成AIの元となる大規模言語モデル(LLM)の限界を補完するためにも、因果推論AIが活躍しています。LLMは多様な自然言語処理のタスクの性能が高いものの、 因果関係を推定する上では限界があります。

因果推論AIの定義

因果推論AI(Causal AI)は、データを用いて原因と結果の関係、つまり「因果関係」を明確にする技術を指しています。代表論文  “The Case for Causal AI” (Segaier et al. (2020))によると、因果推論AIを用いることで「行動や出来事の背後にある因果のネットワーク」を特定することが可能になります。「ネットワーク」とあるので、原因は1つとは限らず、そして原因の原因というものももちろん存在します。因果推論AIの一部の手法ではグラフ理論を用いてこの因果関係の連鎖を表現しています。

従来のAIは主に精度の良い予測結果を出すことに着目しており、その結果に至った背後にあるメカニズムの抽出の優先順位は高くありません。予測モデルの脱ブラックボックスに向けてモデル解釈の技術(Explanable AI; XAI)は開発されているが、これらはあくまでも、特徴量が予測に及ぼす影響の理解であり、因果関係の抽出とは趣旨が異なります。

従来のAI手法は、データから相関関係、つまり「ある変数がこのくらい変動した際に、予測対象の別の変数がこのくらい変動する」を明確にすることができます。しかし、因果関係、つまり「どの変数が「原因」でどの変数が「結果」であるか」を特定することができません。

これに対して、最新の因果推論AIは、相関関係と因果関係を識別することができます。複雑なデータセットであっても、そこから因果関係を抽出する能力を発揮します。そうすると単なる予測の結果よりもデータに関する深い洞察を得ることができ、この洞察を元に、より確実は意思決定や問題解決を行うことができます。

※ 相関関係と因果関係の違いに関しては次の記事を参照してください

【DS検定の最強情報集】相関関係と因果関係と交絡因子相関関係と因果関係は違う 相関関係とは 相関関係について知識を持っている方が多いかと思います。相関関係の定義は至って単純です。 ...

因果推論AIの応用分野

因果推論AIは、幅広い分野での応用が期待されてい ます。

ビジネスにおいては、因果推論AIを用いて、広告キャンペーンなどのマーケティング施策の効果を評価し、その後の意思決定や戦略の最適化の重要な題材にすることが可能です。また、顧客の購買行動に関しても、購買とそれに寄与しうる変数(製品、店舗、配置、曜日、天気など)の間の因果関係を分析すれば、需要により合った製品やサービスを提供可能になります。

ハイリスクな医療分野では、特定の治療を行なった結果として症状の緩和が観測されたとしても、治療のどの部分がどのような影響を与えたのか、そもそも病状が改善したのは治療の影響なのかを保証することが難しいです。もし因果推論AIの技術を通じて、治療(原因)と患者の状態の変化(結果)の真の関係性をデータから抽出することができれば、病気の原因を明らかにし、患者の健康状態や病歴に基づいて、効果的かつ安全な個別な治療計画を選択することができるかもしれません。

医療と社会学に関して、 “The Case for Causal AI” (Segaier et al. (2020))の中で、発展途上国における人々のウェルビーイングへのCausal AI の貢献が挙げられます。発展途上国における重大な健康問題である幼児の下痢の原因を家計調査データを元に分析し、従来の多変量解析では十分に実用的な結果に至らなかったところを、Causal AIを用いることで、幼児の下痢に影響を与える要因を「水源」「乾式トイレ」「ごみ収集の有無」の3つまで突きとめることができました。また、発展途上地域では出産時に母子の死亡率が高いことを受けて、Causal AIを用いた解析により、交通アクセスや(自宅ではなく)医療機関での出産が重要な要因であることを明らかにすることができました。

次の記事(https://gri.jp/media/entry/35866)では、因果推論AIの3つの主要な手法についてまとめています。合わせてご覧になっていただけたら嬉しいです。

執筆担当:ヤン ジャクリン (GRI データ分析官・講師)

yan
データ分析官・データサイエンス講座の講師