元旦になると、毎年「禁煙」という誓いを立てていた僕も、
タバコをやめて、10年以上がたった。
きっかけは、なんてことはない。
風邪ひいたとき、のどが痛いのでタバコを控えてみる。
すると、なんとなく3日ぐらい吸わなくてすむ。
そうなると、もう1日ぐらい我慢してみるか、となる。
それでも、吸いたくなるとガムを口に放り込む。
1枚じゃなくて、メジャーリーガーみたいに、
1パック全部。口寂しさを完全にふさぎ込む。
それと、タバコを止める時期は、冬に限る。
世の中的に、喫煙者は虐げられているため、たいていは外(会社なら非常口、家ならベランダとか)で吸うことになる。
吸いたいときに、コートを着ないで外へ出る。なんだったらTシャツ1枚で。
「タバコ≒凍え死ぬ」というのをフィジカルに教え込むのだ。
(僕の場合は)そうして、ひと冬が過ぎる頃には、完全に
「脱ニコチン」に成功した。
まあ、運が良かっただけかもしれない。
じつは、それに至る前にも、1度、タバコを辞めかけたことがあった。
しかし、完全に心が折れてしまった。それがなければ、もう少し早く
タバコを辞められていたかもしれない。
数年ぶりに、共通の友人の結婚式でピチタケ(友人のあだ名)と会った。
安月給、駆け出しコピーライターだった俺に比べ、ピチタケはIT系企業で
バリバリやっており、20代で部長待遇というイケイケである。
同郷同級生でありながら、いろいろと業界のことや、年上の部下の使い方などピチタケの言うことは勉強になり、刺激的であった。
家の近くで、天然記念物のオオサンショウウオが捕れるぐらい、ド田舎出身であるのに、出世したもんだ。
せわしなくタバコに火をつけるボクに、ピチタケは真剣な表情で言った。
「おいおいタバコは、止めた方がいいよ」
ピチタケは、禁煙したことによって人生が好転したという。
朝型になり、朝ご飯をきちんと食べて会社へ行く。それによって仕事もはかどるし、
アイデアも浮かぶ。何よりも、ごはんがうまい。禁煙することによって、味覚が鋭角になるという。体調もよく、快便かつ快勉な人生を謳歌していると。
朝飯も、どんぶりで食べている、と。
しかし、そうして説得するピチタケのベルトの上には5段腹。
さらに、興奮してしゃべったからか背中から湯気が出ている。
「おい、いま体重何キロ?」
ピチタケは、その問いには答えず
「タバコは、辞めた方がいいべ」
と念を押す。
こんなに説得力がない説得ってあるかね。
僕は、くっきりと言った。
「おめみたいになるくらいなら、タバコは辞めない」
ピチタケは、少しさびしそうに答えた。
「あ、んだ…。」