雑談

カルガモとカラス

年末、大掃除で押入れのものをひっくり返していたら
「アナタの小学校時代の古い文集を見つけたわ」と母が言った。

「アナタは、小さいころから変な子だったわね」
と言う。

その文集のタイトルは、「ブタ」だと言った。

僕は、ああ、あの詩のことかと思い出した。
たしか、こんな内容だった。

タイトル:ブタ

僕の家で飼っていたブタ

友達よく似ていた。

僕は、ブタに「ぶーすけ」と名付けた。

友達も、あだ名が「ぶー」という。

僕の家で飼っているブタは、なんでもカツガツ食べる。

僕の友達も、なんでもガツガツ食べる。

どちらも笑顔が素敵だ。

ある日、まるまると太った「ぶーすけ」はトラックに積まれて
売られていった。

友達の「ぶー」は売られない。

ニンゲンだから、売られない。

僕の実家は、比内地鶏のほかに、養豚もしていた。
動物好きの僕は、よく養豚場にブタを見に行っていた。

そこで、じいちゃんから「好きなブタ1匹お前にやる」
と言って、子豚を1匹もらったのだ。

じいちゃんとしては、軽々しく、孫かわいさに言った行動だろう。

いちばん元気のある、子豚に僕は「ぶーすけ」と名付けた。
じいちゃんは、「そうか」というと、その子豚の背中に青のスプレーで
「ぶーすけ」と殴り書いた。

ぶーすけ、はたちまち成長した。
そして、ある日、トラックで売られていった。

でも、不思議と僕は、泣かなかった。

「ぶーすけは、肉になっぺ」

とじいちゃんは、僕の肩をさすった。

中学になり、中学の裏庭の池に「カルガモ親子」が来ると
地元の新聞でも話題となっていた。
その愛らしいカルガモ親子は、たちまち学校のアイドルとなった。

ある日、学校へ行くと、
学校中が騒然となっていた。

「カルガモ親子がカラスに襲われた」

学校の裏庭にいくと、子ガモを失った親ガモがオドオド歩き回り、
その頭上をカラスが迂回している。

その下で、バットをもった野球部と警棒をもったヤンキーが
なんだか「日本代表」みたいな顔でカラスを威嚇している。

騒然とする中、颯爽と現れたのが「ヤーさん」というあだ名の
サングラス国語教師。

ヤーさんは一喝した。

「カルガモもカラスも一緒の生き物だべ!カラスだけ差別すのか?
カラスだって生きるためにやったんだべさ!」

バットをもった野球部と警棒をもったヤンキーは、その迫力に
なんだか「はなくそ代表」みたいに丸まってしまった。

そこに、国語教師ヤーさんが畳み掛ける

「カルガモは、かわいい。だからみんなカルガモの味方をする。
だけど俺はそれは、差別だど思う。カラスだって生きているんだからな」

学校中が静まり返る。
中には、その言葉にウットリしている女教師もいる。

「ヤーさん」は、うまい事言ったというような顔をしている。

僕は、その時、小学校のときトラックに積まれ売られていった
ブタの「ぶーすけ」のことを思い出していた。

「差別ってなんだよ」

だって、いちばんキレイごとを言っているのは、
ニンゲンじゃないか。