雑談

退職者にも利用価値を見出すアメリカ大企業

 

いま働いてる会社は3社目で、これまでに人生で2回、退職を経験している。1回目は日本で働いていた会社。2回目は、いまの会社に転職するまでいた、アメリカの会社。

日本で働いてたときの会社は、退職者が自主的に運営しているOB会というのがあって、すでにその会社を辞めてることが唯一の入会条件になっている。入会すると、メールグループに加えてもらうことができ、そこでOB会のお知らせだとか、ほかのOBの現在の近況メールだとかを時折受け取るようになる。最近ではメールグループではなく、フェイスブックのグループを立ち上げたようだ。

このように自主的にゆるーく繋がっている日本の1社目とは違って、アメリカの2社目の退職者の取り扱いは、ハンパない。まず辞めた途端、退職の際の事務手続きの一環で提供せざるを得なかった個人メールアドレス宛にメールが来る。そのメールの中で私は「○○社の卒業生」と呼ばれる。別にアイドルグループを辞めたわけでもなく、円満退社してるんだから普通に「○○社退職者」と呼んでくれたらイイのに、ここからさき常に「卒業生」と呼ばれるようになる。

そしてその一発目のメールにて、どうやら私は「○○社アルムナイ・ネットワーク(Alumni Network:卒業生の同窓会というような意味)」に勝手に強制入会されたことを知る。

それ以降週一以上の頻度で、一方的な「卒業生」へのお知らせメールが舞い込んで来るようになった。

お知らせメールの内容は大きく3種類に分けられる。ひとつは、「同窓会」のお知らせ。全米の至るとこで行われてる退職者のネットワークイベントへの参加を促すというものだ。2つめは、Webセミナーのお知らせ。転職活動の仕方を人事ディレクターが語ります!だの、これからの世界経済の行方をエコノミストが解き明かします!といった類で、同窓会のような集まりでリアルに会えない「卒業生」をWebを介してかき集めようとする内容のもの。3つめは、「卒業生」の近況をまとめたもの。2009年「卒業」のブライアンは今どこの会社でどんな仕事をして活躍してます的な内容だ。と同時に、「あなたの近況も聞かせてください!抽選でiPadプレゼント!」みたいなノリで、ニンジンをぶら下げてまで我々退職者がいまどこでナニをしてるかを執拗に知りたがってることも窺い知れる。

ほかにお知らせメールではなく、「卒業生ネットワークのみなさんは、XXホテルに格安宿泊できます、△△スマホを40%割引で買いましょう、○○レストランのお食事が25%OFFになるギフトカードを買いましょう」みたいな、全米中の退職者の多さを活かした規模の経済プロモーションみたいなノリのものも、しょっちゅうやってくる。

この、退職者を「卒業生」として丁重に扱おうという流れは、どうやらコンサルティングファームのマッキンゼーが生み出したものらしい。マッキンゼーを辞めるコンサルタントの多くは、まさにマッキンゼーのような戦略コンサルサービスを利用する側のクライアント企業に転職することが多い。であれば、今後も他ファームでなくマッキンゼーを使ってもらおうという目論見のもと、「辞めてった裏切り者、使えなくてクビにした者」としてではなく「新しい未来へと羽ばたく卒業生」というポジションで長くお付き合いするほうが将来的に利用価値があるかも、と合点したうえでの策略なのだろう。それに大学卒業生が卒業した大学に愛校心を持ってほかのひとに推薦したり良く言ったりするように、自社の勤務経験者が自社のことを良く吹聴してくれれば、よい人材を集めることもできる。とにかく辞めた人たちを丁重に取り扱っとくほうが色々マッキンゼー側にもトクがあるわけだ。

マッキンゼーがそんなこと始めるならばと、その他プロフェッショナルサービスファームも同じようなアルムナイ・ネットワークを立ち上げてすっかり定着しているようだ。

マッキンゼー卒業生のページ:
http://www.mckinsey.com/alumni

ベイン・アンド・カンパニー卒業生のページ:
https://alumni.bain.com/

PWC卒業生のページ:
http://www.pwc.com/us/en/alumni/

さらには、このようなサービスファームのみならず、P&Gやマイクロソフトのような大手一般企業でも似たようなことを始めているらしい。

P&G卒業生のページ:
http://www.pgalums.com/

マイクロソフト卒業生のページ:
https://www.microsoftalumni.com/

ただマイクロソフトのアルムナイ・ネットワークは、退職者はすべて強制入会というわけではなく、年会費99ドルを払わなくてはならないようだ。退職者相手に会費などで細かく金を稼ごうとは、かなりキテる。少なくとも私が辞めた会社からは有無を言わさず会費徴収などないことに感謝しなくてはならないかも。