雑談

B型にうまれるということ。

東北の片田舎から大学進学のため上京したボクである。
たしかに、標準語をしゃべるまで多くの時間を要した。
いや、上京して20年も経とうとしているが、未だ“東北訛り”がとれた自信はない。むしろ、興奮すると丸出しする。先日も、都会ど真ん中である渋谷ヒカリエでプレゼンをしたが、「んだがら、ですね~」と、東北イントネーションを爆発させた。

話は戻る。

そんな田舎者である僕が、ここ東京において、いちばん印象深いバイト先というのがある。
そこは、カウンターバー(1F)とカラオケBOX(2F)を融合した、一見敷居の高そうな“都会的小洒落感”満載のお店であった。
しかし、オーナー(50代だか綺麗な女性で、みんなにママさんと呼ばれていた)も店員もみな親切で、田舎者の僕をむしろ「それは個性よ」と、すぐに受け入れてくれた。
また、“まかない”に命を懸けているところもあって、お客さんの少ない平日は、従業員みんなで“鍋”を囲ったりすることもあった。
まさか、このコンクリートジャングル東京で、油断したらケツの毛まで抜かれるという東京で、こんなアットホームで安らげる場所を見つけられるとは。僕は、心から感謝した。
「なんぼ、運いいの~、オラ」(心の声は東北弁)

しかし、事件は起こった。

その日、いつになく苛立ったママが、みんなにヒートアップトークを繰り広げている。
バイト着に着替え、蝶ネクタイの位置を直しながら、輪の中へ近づくとママが「ねえ、ちょっと聞いてよ!」と。僕は、どんなトラブルが起こったのだろうと身構えた。ママはまくしたてる「ほんと、デリカシーのかけらもないのよ、デリカシーというか道徳がないのかしら。いや、なんだろ、頑固で融通がきかなくて、ほんと野良犬よ。野良犬じゃなくて、野良人間ね」と。
よくよく聞いてみると、ママが10年来息子同然に可愛がってきた青年がいて(ママは、この店のほかにもう1つ会社を経営。そこの社員)彼が、何を思ったのか急に“断酒宣言”をしたらしく、接待の席で大切なお客様のお酌を断ったらしい。かつ、その場で注意しても「自分の決めたことっすから」と頑として忠告を受け付けつけず恥をかいたと。

ママは、絶叫した。

「思い出した。あいつB型!あいつはB型だからダメなのよ。奇人変人のB型よ!」
今まで押し黙っていたみんなも、「ああ、B型なんですか、そりゃダメですよ」「そうだね、よく考えたらB型の人でちゃんとした人みたことない」と賛同をはじめ、B型バッシングのビックウェーブが店内を飲み込んだ。まるで、だんじり祭の騒ぎである。

そして、ついに、その時は来た。

ママが優しい目でボクに問いかける。
「○○君(ボク)は、たしかA型よね、ちゃんとしてるもの。」
0.1秒、ボクの頭の中では走馬灯のように、楽しかった家族旅行。はじめての試合で打ったヒット。はじめてのデートでキスしたことなどが浮かんでは消えた。

しばしの沈黙。固唾をのむママと従業員のみんな。
(あれあれ?まさか…、いやA型だったはずよ)

僕は、A型になろう。お父さんお母さん今までありがとう。
僕は、今日からA型として生きていきます。

「えーと、ボクは…」

言いかけた瞬間、頭に、声がよぎった。
「オメは、東京で嘘つきになるのが?東北の恥だと!」
東北の神様の声である。

「ママ、すいません。ボクB型です」

冷蔵庫のウー、ウーという音しか聞こえない。

タバコに火をつけ、深く煙を吐いてからママは満面の引きつり笑顔でいった。
「でも、BはBでも、よい方のBよ」

そして、今も僕は、B型です。