雑談

2次データ活用のススメ:国勢調査の人口移動状況から消費者の生活を見る

今回は、集計や分析した結果に振り回されてしまう事例と、その対処方法に2次データを活用しましょう、ということについて書きたいと思います。

「数字」というのは便利なもので、アンケートでも POS の結果でも、分析・集計されて出てきたものは、説得力を持って、その数値結果そのものが事実として受け入れられてしまうことがあります。

しかし数値そのものは確かに事実として表現されるのですが、消費者像の全てを映しているとは必ずしも言えないことが多々あります。

例えばこんな事がありました。

とあるスーパーが自社の IDPOS データを分析・集計をしてみたところ、「高齢者(団塊世代)に高価なマスカットが売れている」という結果が出てきたそうです。

その結果を元に、「高齢者(団塊世代)はマスカットが好きで購入している」と思ったそのスーパーは「健康」「美味しい」「国産」など、高齢者の方が好みそうと思える点を訴求ポイントとして販促活動を行っておりました。

しかし、様々な施策を売っても特に購買行動に変化は見られません。

「高齢者がマスカットを購入している」というのは事実としてあるのですが、どうも訴求ポイントが違うようだ、つまり「消費者を理解できていない」ということが見えてきました。

そこで、マスカットを購入している家庭に訪問し、生活を拝見させていただくことになりました。

訪問してみると、確かに冷蔵庫にはマスカットが鎮座しています。
ただし、話を聞いてみると、ご本人はほとんど食べない、といいます。
一緒に住んでいる旦那さんも食べない。

では、毎週毎週購入している高価なマスカットは一体誰が食べているのでしょうか。

答えは、「近所に住んでいるお孫さん」でした。

つまり、本人はほとんど食べることはないため、スーパーで訴求してる「健康」などのワードには全く関心を示していないことが分かりました。

これは今までの販促活動にかかった費用が意味もなく消えていってしまったことをも意味します。

スーパー側での高齢者向け施策が大きく変更されたのは言うまでもありません。

上記は、だいぶ詳細を省いて記載しましたが、ここまで読んでいただくと「それはそうだろう」という感じも抱く人も多いのではないでしょうか。

ただ実際に数字を扱っている人達の視点では、「高齢者がマスカットをたくさん購入している」という事実から、「高齢者はマスカットが好きなのだ」という結論に行ってしまい、そのペルソナを前提として各種施策を行ってしまうということは想像できますし、日々数字を扱っている人達でも(人達だからこそ)、数字そのものが持つ説得力に振り回されてしまい、真実を理解できないままに、分析・企画・施策実行を行うことが多々あるように思います。

高価な分析環境や分析ソフトを導入しても、そこから出てくる数値データだけを鵜呑みにしていては、効果の高い施策に結び付けられるわけではありません。

では、そのような数字に振り回されずに、目の前に出てきた結果に対して「なぜ?」「もしかして?」という疑問や仮説を持てるようにするためにどうすればよいでしょうか。

その一つの答えに「2次データを活用する」ということが言えると思います。

2次データとは、その調査目的のために固有の方法で採取したものではない、既に採取されていたデータ。典型的には、官公庁による統計、研究機関のレポートなどが該当する。また、営業実績やオペレーションのデータなど自社の業務データも、2次データに分類される。

引用:グロービス・マネジメント・スクールより
http://gms.globis.co.jp/dic/00774.php

特に、官公庁が出している各種データは、時代背景や動向を理解するにあたって非常に助けになりますし、現在は様々なデータが公開されており無料で利用することができます。

試しに先日弊社で行ったエスノグラフィ講座で利用したデータをいくつかご紹介いたします。

以下は過去の国勢調査から「団塊世代」と「団塊ジュニア世代」の年代別居住状況をグラフ化したものです。

Dankai
<図1>
Dankai jr
<図2>

「図1」は団塊世代がどこで生まれ、どこに移り住んでいったかが、非常に特徴的に出ています。

この図だけでも、団塊世代を理解するためのたくさんの気づきがありますが、ここでは以下2点に注目してみたいと思います。

  • 15歳〜24歳にかけて、地方から1都3県に大量の人が流入してきた
  • 25歳を過ぎると東京の人口が減り始め、東京周辺の3県が引き続き人口増加をしていく

これは、地方に住んでいた人達が中学・高校卒業後に東京に働きに来た人達が多くおり、25歳を境に結婚をし周辺3県に移り住んでいったことを表しています。
※就業状況や結婚時期なども様々な2次データで確認ができます。

もちろん、全ての方ではないですが多くの方がそのような行動をとっていたことが分かります。

そして「図2」の「団塊ジュニア世代」のグラフを見てみると、団塊世代ほどではないですが、地方に住んでいた人達は高校卒業後に、就職・進学などで1都3県に集まってきているのが見て取れます。ただし、元々人口が多くなっていた1都3県から他に出て行っている人はあまりいないようです。

まとめると以下のことが言えそうです。

  • 「図1」から分かるのは、1都3県よりも人口の多かった地方から大量の人達が首都圏に集まり世帯を持ち、生活拠点を持った。つまり団塊世代の親は遠く地方にいる人が多く、自信の子供と親(祖父母と孫)が接点を持てる機会は多くても年に数回程度だったと思われる。
  • 「図2」から分かるのは、元々多くの人が住んでいた1都3県の団塊ジュニア世代は、そのまま1都3県に住み続けている。つまり親は近くに住んでいる人が多く、自信の子供と親(祖父母と孫)が接点を持てる機会は数多くある。

以上の事が分かります。

この2つのことを知っているだけでも、「高齢者(団塊世代)の購買行動」には、日常品や日持ちのしない食品であっても近くに住む「子供と孫」の影響が出ているのではないか?という仮説を持つことができます。

※他にも、兄弟との関係、団塊ジュニア世代の既婚・未婚率との関係、地方と都市部との関係など様々な時代背景や動向を2次データで補足することで目の前に提示されるデータに対して疑問や仮説を持つことが可能です。

特定のデータ分析だけではなく、2次データと言われるデータを元に、今まさに目の前にデータとして提示されている人達の時代背景、生活実態、動向を大まかに理解しておくことはとても大切に思います。

ご参考までに、2次データと言われるデータについて各官公庁や民間企業からはたくさんのデータが出ています。

有名な所では日本政府が、各省庁に分断されていたデータを統合するためのサイトも作っています。

■データカタログサイト試行版(政府統計データ)

Data

民間企業では博報堂が1992年から20年以上にわたって隔年で実施している生活総研のオリジナル定点観測調査の結果をなんと無償で公開してくれています。

■生活定点(株式会社博報堂)

Teiten

後は、気になるワードを Google で検索するとだいたいヒットしてきますので、無料で公開されている沢山の2次データを活用し、自社・クライアント様の課題を解決できるような企画や分析ができるようになれればと思います。

※弊社主催のエスノグラフィ講座では、2次データを元にした消費者理解を進めるための科目もあります。
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