雑談

シンコ・デ・マヨ

 

アメリカに来てからというもの、様々なカルチャーショックに出くわしてきたわけだけど、中でもかなり驚いたことのひとつがセント・パトリック・デーだ。当時まだアメリカの大学に通ってたときのことだけど、その日が何の日かも知らずにクラスに行ったらば、酔っ払った学生たちが酒コップ片手に授業に参加しており、先生も先生で「ま、セント・パトリック・デーだからね」みたいな感じで全然オトガメ無しなのだ。

3月17日セント・パトリック・デーは、アイルランドにキリスト教を普及した聖パトリックの命日。転じて、アイルランド共和国そしてカソリック教の祭日となった。おそらくそこから派生して、ニューヨークやボストンなどアイルランド系移民が多い都市部でも、伝統と宗教をお祝いする日となりアメリカに定着したのだろう。

いずれにしても、今日のアメリカにおけるセント・パトリック・デーは、かなり本来の趣旨からズレた商業色の強い日となっている。この日は、アイルランドの国花シャムロックを象徴する緑色モチーフや緑色の衣服をまとい、朝からアイリッシュパブを渡り歩き、アイリッシュビールとアイリッシュウイスキーを飲んだくれる日、となってしまってるのだ。

本来の趣旨からズレてすっかり商業化してしまった日といえば、ハロウィンなんかも典型例だ。本来なら精霊・魔女を追い払う宗教的な行事の日だったはずが、いまではすっかり、お化け・魔女の枠組を超えた何でもアリの仮装をして、子供は飴玉を貰い歩き、大人はバーを渡り歩く日、となってしまっている。つまりすっかり、仮装コスチューム業者、お菓子業者、酒を取り扱うホスピタリティー業界の稼ぎ頭な日、と昇華したわけだ。

そして新たに、同じく本来の趣旨からズレて、というかズラされて商業化の餌食となり、仮装したアメリカ人が飲んだくれる日となりつつある別の日が台頭しつつある。それが5月5日シンコ・デ・マヨなのだ。

シンコ・デ・マヨ(Cinco de Mayo)は、スペイン語で5月5日、の意味。この日は、1862年にメキシコが、圧倒的に勢力の優るフランスからの侵攻を阻止した戦勝記念日だ。・・・といっても、メキシコが借金を踏み倒そうとして開き直ったのが原因でフランスは借金返済の交渉にやってきたわけなのだけど、その部分はあまり強調されないようだ。あと、1862年はメキシコが勝ったけど、フランスはその後さらに勢力を強めて戻って来て、1863年には攻略されてしまった、というところもあまり強調されないようだ。

いずれにしてもその辺の歴史的前後関係の部分は置いといて、5月5日は負け戦に勝った日として、メキシコの伝統やプライドを再確認する日というのが本来の位置づけだ。

ところが2-3年前にコロナビールがシンコ・デ・マヨを強調したTVCMを流したあたりから、その流れに乗ってか、5月5日はテキーラのショットやマルガリータ(テキーラのカクテル)を飲みましょうと煽り立てるバーやらレストランやら酒屋が勃興したのだ。

そんなわけで今年は、日本では鯉のぼりを眺め柏餅を食してたころ、こちらアメリカではソンブレロ帽やら派手なルチャ・リブレ(メキシコのプロレス)マスクをかぶったりした有象無象がバーでテキーラを飲んだくれる様子が伺えたわけだ。

シンコデマヨのブリート早食いコンテスト:いかに白人達がシンコデマヨにかこつけて飲んでるかが、背景で少しは伝わる・・・かも?

ただメキシコ系アメリカ人の立場からすると、この変貌を快く思ってない人もいるようだ。朝から飲んだくれてる大半はメキシコとは何の縁もない白人なのに、そんな飲みっぷりとメキシコの記念日を結び付けられてあたかもメキシコ人が怠惰な酒飲みであるかのように見られるのが迷惑だという陳情がメキシコ人団体から寄せられてたりもする。
※参考:メキシコ人団体から苦情を受けるきっかけとなった、MSNBCニュース5月5日のセグメント