雑談

2度目のチャンスでよりよい社会

大雪が降った翌朝、路上駐車しておいた車を発進しようとしたものの、動いてくれない。
どうやら雪に埋もれて、というか滑ってしまって、タイヤが前進できないのだ。まだ暗い朝の6時台で人通りも殆どなく、困ったなと思ってたら、駐車してた場所のすぐ前にあるビルから喫煙者たちがぞろぞろ出てきた。
助けを求めたところ、ニコチン吸入前の寒い朝にも関わらず、快く数人が後部から車を押してくれて、おかげで無事発進でき職場に向かうことが出来た。

さて、この寛大な喫煙者たちが宿るビル、いったいどんな場所だと想像されるだろうか?
実はここ、前科者たちのための社会復帰訓練所なのだ。
いまの家を見学しに来た際、まわりは公園やら学校やら素敵なアパートがひしめくなか、なぜかこのビルだけ、いわゆるヨタついた感じの人たちが常時出入りしており、好奇心から聞いてみたので私は知っている。
でも堂々と告知してるわけでもビルの正面に看板を掲げてるわけでもないので、知る人ぞ知る、的な存在なようだ。
どうやら刑期終了間近の軽犯罪者たちがここに送られてきて、社会適用に向けシャバにあるこのビルの中で暮らし最後のオツトメを勤めあげるかたわら、履歴書の書き方だの職探しの方法だの社会復帰後に使えそうな訓練を受けてるらしい。

ま、こういうのが近所にあるのが気になる人は気になるのだろうけど、私はといえば特に迷惑をこうむってるわけでもないし、むしろ引越してきたときも荷物運びを手伝ってくれようとしたり、なんか親切な人たちだなくらいな感じだ。
むしろ、前科があっても2度目のチャンスを与えてくれるこういう仕組みが社会に存在すること自体に、立派だなとさえ思うくらいだ。

ただ、いくら市や州がこういう社会適用プログラムを設けても、そんな彼らを雇ってくれる受け皿がなくっちゃ、どうにもならない。
実際、犯罪歴があるというだけで、職に応募することすらできない会社も多々ある中、安定した仕事を見つけ確保するなんて想像を絶する大変さだろう。

しかし社会全体を大局的に捉えてみると、前科者を雇うほうが、雇わないより、イイはずなのだ。
出所後、職が無ければ収入も無く、よって住む場所も確保できない。
結局、やることも行くとこも無く絶望もするしで、昔の悪い仲間のとこにまた戻って、また悪さをして刑務所送りになるというケースが多い。
結果、犯罪率も更生率も改善されることなく、社会全体として向上しもしない。
反対に前科者が安定した仕事を得られれば、そんな悪循環を破ることができ、地域全体としてより安全で安定した社会を築くことができる。
まさに、「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」遂行の骨頂だとしか言い用がない。

全米に男性用スーツ販売チェーン店を展開するMen’s Warehouseなどが好例だ。

Men's WarehouseのHP http://www.menswearhouse.com/Men’s WarehouseのHP
http://www.menswearhouse.com/

ここでは採用する際、犯罪歴のチェックなどを行わないため、前科者でも応募・採用可能だ。
というのも、創業者・CEOであるGeorge Zimmer氏が、「2度目のチャンスはすべての人に与えられるべき」なる信条を持ってるかららしい。
結果として、前科者の従業員が商品や現金を持ち逃げすることもなく、むしろ職を得られたことに感謝し勤勉に働くケースが多いようだ。
(ただZimmer氏は、2013年6月にCEOの座を取締役会により追放されてしまったので、今後も同じ経営方針が保たれるかは分からないが。)

また、日本でも最近見かけ始めたであろうベン&ジェリー。
あのブラウニー・アイスクリームに入ってるブラウニーは、前科者たちが作ってるって、ご存知だろうか?
ニューヨーク州にあるGreyston Bakeryがブラウニーを製造してベン&ジェリーに納めているのだが、この会社、前科者やホームレスなど、職を見つけるのが本来大変な人たちに真っ先にチャンスを与えるということで有名だ。

Greyston BakeryのHP http://greyston.com/Greyston BakeryのHP
http://greyston.com/

1年間の厳しい研修プログラムを修めあげた暁には正社員として採用され福利厚生も支給されることもあり、研修に入ることすら順番待ちなくらい、人気な状態らしい。

さらにシカゴでは、前科者など職を得がたいタイプの人たち向けの雇用創出を念頭につくられた、Sweet Beginningsという養蜂家養成プログラムがある。

このプログラムに参加すると、蜂の巣箱の管理法、ハチミツの取り方、またハチが蜜を集められるような庭園造りも習得・実践できるし、時給ももらえる。
集まったハチミツは、そのまま地元のファーマーズマーケットで売ったり、またはもっと利潤の高いスキンケア商品に加工し「Beeline」というブランド名のもと販売している。
このプログラムに参加した前科者のなかで再び刑務所戻りになった再犯率は4%未満と劇的に低い。
むしろ多くの参加者は、蜂について深い知識を得てますます養蜂家としての道を究めているとか。
 
このように、前科者に門戸を開いた結果、採用する側もされる側も恩恵に授かり、よりよい地域社会の構築に貢献しているというのは、上記の例を見るにつけ明らかだろう。
とはいってもこれらはホントに少数の前例で、もっともっと後に続く雇用者が期待される。
そこで提案。やれ「企業市民活動」だの「企業の社会的責任」だの「社会貢献活動」だのとうそぶく会社は、オサレな募金キャンペーンなどする代わりに、明日からでも前科者を雇い始めたほうが、イイ。