雑談

不安を爆音が蹴散らした朝

小学校の頃、トイレでうんこすることが犯罪だったように、
とりわけ噂社会である田舎において、息子が
学校をやめるだの、会社をやめるだのは
とんだ親不孝であると考えられていた。

あの頃、僕は、東京に残りたい一心で、
適当に受かった会社に入社した訳で、

100%の力を出しても追いついていくのがやっとの
社会という枠組みの中で、

舐め腐っていた僕は、無知で腑抜けの中二病の状態で、
しかも、45%そこそこの力で、
仕事に取り組んでいたわけで、

音速のスピードで、テトリス状に
社会に行き詰ってしまった訳であり。

というより、「俺、なんでこの仕事してるの?」
とハタと気づいてしまった訳である。

「物心がつく」と、いうやつですな。

遅っ!

で、てっとり早くいいますと、
会社やめよか、やめへんか。

好き、嫌い、好き、嫌い、好き。

と、花びらを1枚1枚モジモジしながら
むしりとるが如く日々を過ごしたわけであり、

とはいうものの、田舎者の僕は
「会社をやめるなんて、そんな罪深いことオラにはできねえべ」

の葛藤があり、煮え切らず。

しかし、そんな時、ラジオから、
まるで、こんな僕の背中を押すようなメッセージが聞こえてきた訳である。

「おいらが、学校辞めた時さ、いちばん想ったのが、
空がこんなに青いのかってこと」

それは、ビートたけしの声だった。

僕は、その翌週、辞表を出した。

僕は、この日、いろんなシガラミから独立することにした。

ジブン独立記念日。

会社を辞めた日の空は、やはり、たけしが言ったように

高くて、青かった。

晴れて、僕はプータローになった。

徹子の部屋とともに起きる生活。

しかし、奇跡的に、まったく時を同じくして
友人のピチタケも、会社をやめてプータローになっており、

僕らは、プータローコンビを結成することになった。

そして毎日、なぜか。
僕らは飯の合間合間にプレーンヨーグルトを食う、
というブームを編み出し、
お互いのアパートを行き来し、酒を喰らい、暮らし。

当時、30歳で半ズボンという出で立ちのミュージシャン。
カジヒデキの「ミニスカート」という曲を聴いて過ごし、

「いい塩梅だ」

とか言っていた。

俺らは、どんな塩梅だ?かも問わずに。

そんな折、転職活動もままならない、このプータローコンビを
一歩突き動かす出来事が起こる。

いつものように、僕は、ピチタケと深酒し、
ピチタケのアパートで寝ていた。

早朝、ピチタケ方向から聞こえてくる爆音。

たとえるなら、オスのバッファローのケツ穴に
バットをねじ込んだら、オスのバッファローが感じながらも、激高した。

というような、得体のしれない音色の、いびき。

僕は、腹が立った。
そのバッファロー風いびきではなく、
その、ピチタケの寝顔の8割を占めるマリオのような鼻の大きさに。

僕は、プレーンヨーグルトで、不都合をおこしていた腹痛よろしく
屁を、静かに溜めていく。

バッファローの嘆き的、いびぎは、鳴り止まない。

いや、そのいびきを製造している、マリオ鼻がそこにある。

がっぺ、ムカつく。

僕は、静かに、そして淡々と屁を溜めた。

時が、来た!

僕は、波動砲をイメージしながら、全力で
ケツに、ちからを込めて、そのマリオ鼻をロックオン。

解き、放つ!

ちょっと、窓は振動したような気がした。

ピチタケは、一瞬呼吸困難を起こし、

ガコッ!

と、むくっ、と起き上がり、

目覚まし時計をバンバン、バンバン叩きだす。

そう、目覚ましは、鳴っていない。
だって、その爆音は、僕ちゃんの屁、ですもの。

僕は、心の中で、静かに、そして貴族的につぶやいた。

「ピチタケ殿、貴様は、目覚まし時計の音じゃなく、私の屁の爆音で、
目覚めたのですよ」

ピチタケは、まだ、目覚まし時計をたたいている。
ひっくり返したり、横にしたり。

僕は、その様を見て、

ふと、我に返る。

いや、物心がつく。

なんだこれ。

明日から、真面目に仕事を探すべ。