雑談

“キャサリン”はそこまで人気にならなかった!? -データで名前の傾向を分析する

イギリス王室で誕生したばかりのシャーロット王女。日本でも動物園の赤ちゃん猿に同名をつけるとは何事だなど色々話題になったようだが、アメリカではどんな感じなのだろう。やはりイギリス王室にあやかって命名ブームなど起きたりするのだろうか?

今日はそんな純粋な疑問を、データを使って紐解いてみよう。

アメリカでは社会保障番号(Social Security Number: SSN)というのがあり、社会保障局が9桁の番号をアメリカ市民・永住者・外国人就労者に対して発行する。そもそもは徴税の際に個人を特定するのが目的で作られた制度だが、今となってはある意味、国民背番号のような感じでも機能している。

そんな社会保障局が、SSNを取得にやって来るアメリカで生まれた赤ちゃんの名前を集計し、そのデータを一般公開している。毎年、届出の多かった名前を多かった順に男女それぞれランキングして発表するのだ。これがなんと1880年生まれ以降の分があるので、現在存命中の殆どの人が、自分が生まれた年の人気の名前を見ることができる。

さて、過去約30年間のアメリカにおける「シャーロット」の人気の推移を見てみよう。横軸が生まれた年で、縦軸はその年に「シャーロット」名の届出があった数だ。

charlotte

1998年まで毎年3桁の人数で横ばいだったのが、1999年には1002人と4桁台に突入。その後21世紀に入ってからは順調に伸び続け、2012年以降は女子命名人気ランキング20位以内に食い込んできた。

2012年 19位(7,468人)
2013年 11位(9,274人)
2014年 10位(10,048人)

この横ばいの壁を破り成長へと動き出すタイミングと同期しているのが、ある人気ドラマの放映タイミングだ。1998年-2004年放映の『Sex and the City(セックス・アンド・ザ・シティ)』という大人気ドラマの主人公のひとりが「シャーロット」だったのだ。少なくともアメリカの人気ドラマが名前の人気推移と相関関係にあることが伺える。これにシャーロット王女がさらなる起爆剤となり、来年発表される2015年名前ランキングで「シャーロット」は更なる上位に食い込んでくるかもしれない。

ちなみにお兄さんであるジョージ王子はアメリカ人男子の命名に影響を与えたのだろうか?「ジョージ」の人気推移はこちら。

george

ひたすら減少傾向にあった「ジョージ」だが、ジョージ王子が生まれた2014年には対前年比で18%も上昇している。明らかに王室効果アリ、な感じだ。

もうひとつ「ジョージ」における面白い観察は、1990年から1999年への坂道を転げ落ちるかのような減少っぷりだ。これがまた、アメリカの人気ドラマの放映タイミングと同期しているのだ。

1989年-1998年に放映された大人気ドラマ『Seinfeld(となりのサインフェルド)』の主人公のひとりの名前が「ジョージ」だ。ジョージは、チビ・デブ・ハゲで卑屈で怠け者という人物。だからこそドラマの中では面白い存在なのだが、「自分の息子がこんな卑屈になったら困る……」という反面教師作用でも発生したかのように、「ジョージ」命名がこの放映時期に逆相関している様子がなんとも興味深い。

そして誰もが憧れたダイアナ妃は、アメリカ人の名付けにも影響したのだろうか?ダイアナ妃が結婚した1981年と、事故死した1997年の前後約20年間の「ダイアナ」人気推移がこちら。

Diana

結婚した1981年に対前年度比52%と激増したのみならず、亡くなった1997年度にも対前年度比21%と大きく伸びている。ダイアナ妃がアメリカ人女子の名付けに大きな影響を与えたことが明らかにデータから見て取れる。

では、ダイアナ妃に負けらず劣らず美しくて憧れてしまうキャサリン妃はどうだろう?

catherine

ウイリアム王子と結婚した2011年には前年度比20%増となっているものの、実質前年度比で約300人増えた程度だ。ダイアナ妃結婚の際とはインパクトがだいぶ低く感じる。

ダイアナ妃結婚前後の「ダイアナ」命名:
1980年生まれ 2616人
1981年生まれ 3970人
前年度比52%増(1354人増)

キャサリン妃結婚前後の「キャサリン」命名:
2010年生まれ 1610人
2011年生まれ 1934人
前年度比20%増(324人増)

この理由は、おそらく1990年代から2000年代にかけてアメリカを席巻した「ケイトリン」ブームのせいではないかと思う。

「キャサリン(Catherine)」も「ケイトリン(Caitlin)」も実は元は同じ名前で、「キャサリン」は英国英語名であるのに対し、「ケイトリン」はアイルランド名。そして何故か「ケイトリン」が1990年初頭あたりからアメリカで大人気の名前となった。しかも本来のつづりCaitlinのみならず、Kaitlin、Caitlynなど変形つづりで名付けるのも流行りだす始末。

社会保障局が集計するデータは、それぞれの綴り名ごとなので、綴りを超えた「ケイトリン」読みの女の子の総計数は発表されていない。なので、名前人気ランキングなどを見ると、「ケイトリン」は綴りごとに分散されてしまって、どれも20位以内に入ってきやしない。ところが、綴りはさておき「ケイトリン」だけをまとめて集計したとしたら、1990年代後半から2000年代前半の人気名第1位はブッチギリで「ケイトリン」のはずなのだ。

caitlin katelyn_ranking

で、アメリカの小中高大学のクラスを見渡せば、クラスメートの女子の半数近くが「ケイトリン」と相成っており、アメリカ中が「ケイトリン飽和症候群」に見舞われてたそんなときにキャサリン妃がご登場遊ばしたわけだ。どんなに美しい憧れの方の御名前といえども、これだけ身の回りにキャサリンと同由来の名前であるケイトリンが溢れたぎっているとなると、そりゃ自分の子供にキャサリン名を付けるのは躊躇するというものだろう。

「そんなにケイトリンって多いのか?」と半信半疑の皆さんにおかれては、こちらの証拠写真を見て欲しい。女子学生6人組の注文カップを、とあるスターバックスのバリスタが撮影したものだ。これによると6人組のうち5人が「ケイトリン」と相成っている。

 

View post on imgur.com

昭和の日本人の感覚としたらば、良子(よしこ)、芳子(よしこ)、淑子(よしこ)、好子(よしこ)、佳子(よしこ)と多佳子(たかこ)が一緒に遊ぶ……という感じなのだろうか……

参考文献

アメリカ社会保障局が発表する名前人気ランキング

アメリカ社会保障局が発表する名前データ