雑談

もうすぐクリスマス:ブラックフライデー

11月の第4木曜日は、アメリカではサンクスギビング(感謝祭)と呼ばれる祝日だ。この日は家族、親戚、近しい友人がほうぼうから訪れてきて、前日から仕込んでおいた七面鳥の丸焼きだのパイだの酒だのを飲み食いするのが恒例となっている。日本でいうならば、お正月に親戚一同が会して御節料理を食べるのと似ているかもしれない。日本のお正月よろしく、殆どのビジネスが定休日となり街は静まりかえるので、ひとりで過ごすのは寂しいけども、かといって親戚にまみれて何時間もウダウダ過ごさなきゃならないのも辛いものがあるという、一連のジレンマを感じる日でもある。

また、その翌日である金曜日は、ブラックフライデー(黒字の金曜日)といって、多くの店が朝早くから開店し、特別セールを行うのが慣習となっている。大幅値引きとなる目玉商品は最新型ゲーム、TV、おもちゃなど、約1ヵ月後に控えたクリスマス用プレゼントになりそうなものばかり。なので、プレゼント用商品や前々から狙ってたモノを安いうちに買っちゃおうと目論むアメリカ人で、どの店も夜明けから激混みと相成る。

ベストバイ

よって、木曜日は昼から夜にかけてワラワラと大人数の親戚友人が家に集まり、談笑と飲み食いをダラダラ夜中まで続け、金曜日は数時間の仮眠のあと明け方から1日中クリスマスショッピング三昧で過ごす・・・というのが、典型的なサンクスギビングの過ごし方なのだ。・・・のはずだった。なのに!今年は肩透かしな変化が起きたのだ。

根っからの社交家の人ならまだしも、私のようなやらないとできない気合型社交タイプの身にしてみれば、この手のワラワラした集まりは2時間もすれば「もう帰ってもいいかな?なんでまだ誰も帰らないわけ?誰かオイトマしてちょうだい、そしたら私も帰れるのに!」という感じで、帰りたいのに帰りづらいの葛藤がグルグル錯綜する、かなり気合を要するイベントである。去年もおととしも、がんばって4時間くらいねばって10時に引き上げたが、回りは誰も引き上げる素振りも見せなかった。

ところが今年は、夕方6時半ころになると大半の人間が帰り支度を始めて、どんどん帰っていったのだ。聞くと、8時に開店する小売店で目玉商品を買うために、早めに行って列に並びたいからだという。

そう、今年はたくさんの店が、金曜の明け方ではなく木曜の夜に店を開けセールを開始したのである。

ブラックフライデー

実際、恒例よりも早めに店を開けるチェーン店は、2011年頃から台頭していた。といっても本当に数チェーン店のみで、早目といっても従来の明け方5時6時の代わりに夜中の12時にするという程度だった。それが去年2012年には、もっと早まって木曜の夜10時などに開店する店がチラホラ出始めた。で、今年はさらにその流れが加速したようなのだ。夜8時などという、開店時間もさらに早まったうえ、そんな風に早め開店をする店の数自体もグンと増えたのだ。いま手元のチラシなどを見て数える限り、木曜夜8時開店のチェーン店が8店。さらに電器店ベストバイは夕方6時、おもちゃ店トイザラスに至っては夕方5時に開店だ。

一体、クリスマスショッピングの幕開けたるブラックフライデーの背景でナニが起きてるのか?考えられる大きな理由は2つある。

まずはじめに、サンクスギビングからクリスマスまでの日数が、例年よりも短いというのがある。例年よりも11月第4木曜日が約1週間近く遅かったため、その分クリスマスショッピングの出足も1週間近く遅れるわけだ。たとえば、去年のサンクスギビングは11月22日。今年は11月28日。去年と比べると、クリスマスまで6日間少ない。つまり、1年で一番の稼ぎ時のこのクリスマスシーズンが、通常より1週間近く短いのに例年並みまたは以上の売上を達成しなきゃならないわけで、店側としても早めに始めるに越したことはない状況に陥ってるのだ。

そしてもうひとつが、消費者の財布のしまり具合にある。アメリカではいまだ不況の影響を受けてる消費者も多い。これまでのように、「クリスマスだし、ま、いっか」みたいな感じで、刹那なお祭りムードと雰囲気で衝動買いできるようなゆとりも気分も幻滅している。前もって決めた予算内で親戚一同分のプレゼントや自分の欲しい物も買わなきゃならないとなると、ブラックフライデーの特別セールもばかにならない。だから店側としても、消費者がよその店でお金を使う前に、早めに開店して自店でお金を落としてもらおうと、囲い込みに躍起になっていると伺える。

ただ、早め開店がどれだけ経済的効果をもたらすかは、ちょっと興味深い。誰もがほしがるような需要の高い目玉商品を激しく値引きし、従業員には休日手当てをつけて出勤してもらってるわけだ。これらの店が本当に大幅値下げや余剰コストを上回って「ブラックフライデー」の文字通り、黒字をはじき出してるかはナゾだ。でも少なくとも、ワラワラした集まりからおかげで早く帰れることができた私は、早め開店万歳である。