この記事では、ある発明を行なった人が特許権が認められるために、その発明が満たさなければいけない条件について具体的に考察します。
データサイエンス・AIの分野において、開発したアプリケーションで特許を出願することがあるので、特許法のうち、自身の業務と深く関連する内容を理解するとよいでしょう。
特許権が認められるための条件として主に以下の3つがあります。
●産業上利用可能性
発明が産業上利用できるものである必要がある(特許法の第 29 条第 1 項柱書)
●新規性
発明がいまだ社会に知られていないものである必要がある(特許法の第 29 条第 1 項 第 1 ~ 3 号)
●進歩性
発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、特許の出願の時点における 技術常識に基づき、容易に発明できないものである必要がある(特許法の第 29 条第 2 項)
ただし、産業上利用可能性、新規性、進歩性の3つの条件を満たすことが特許権を得るための必要十分条件ではありません。例外として、公の秩序、善良の風俗または公衆の衛生を害する恐れがある発明については、 上記の要件を満たしても特許権を取得することはできません(特許法の第 32 条)。これについては後続の記事で詳細に説明する予定です。
この記事の目標は、具体的にどういう場合に「新規性」と「進歩性」が失われるのかについて説明することです。もう1つの「産業上の利用可能性」についてはもう少し複雑なので、これも別の記事で詳細条件を説明する予定です。
■新規性と進歩性がなぜ必要なのか
まず、ちょっとした言葉の整理….
「特許を受ける」ということがありますが、「発明が特許を受ける」という表現は、厳密には正しくありません。「特許を受ける」ということは、発明した技術を特許法に基づく段取りに沿って国に登録することで、発明をした者がその技術の利用を独占し、他社によるその技術の無断利用を防ぐことができます。したがって「技術が特許を受ける」のではなく「発明をした者が特許を受ける」または「発明をした者が特許権を取得する」のです。
特許法1条を引用すると…
「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的」とした制度です。
ここでなぜ「新規性」や「進歩性」が特許を受ける条件として課せられるのか、それらの目的について考察してみましょう。
そもそも特許権は、発明を特定の人が独占できるようにするために付与される権利です。すでに誰かによって開発され、公として知られているまたは活用されている技術を後から他の人が独占できるようになってしまうと、技術発展の重大な弊害になります。その場合、新しいアイデアを生み出すモチベーションがなくなるからです。
■新規性の条件
原則として、以下に挙げる「新規性喪失事由」のどれか1つ に該当すると、新規性はないと判断されてしまいます。
- 特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明
- 特許出願前に日本国内または外国において公然実施(公用)された発明
- 特許出願前に日本国内または外国において,頒布された刊行物に記載された発明、又は、インターネットを通じて公として利用可能となった発明
注意点として、日本国内だけではなく、日本国外においても公として知られたり、実施されたり、刊行物に掲載されたりしてはならないことです。発明は国によらないものですから…
特許出願された発明が新規性を有するかどうかを確認するためには、特許調査を行い、既存の技術と比較する必要がある。これを「先行技術調査」と呼びます。
実は一点興味深い点があります。私自身も前職は研究者(理工学分野)で、学会や勉強会などで口頭発表を行うことが多く、その他論文などへの投稿もありました。なんと、特許出願前に学会などで発表した技術内容(発明)は新規性を失うことになり、その発表内容に係る発明については新規性が失われたとみなされ、出願は拒絶されてしまいます!学会だけではなく、発明が何らかの刊行物に掲載された場合、公の勉強会で口頭説明された場合、インターネットを介して公開された場合も、新規性が失われることになります。
こうしてみると、うっかり発表をしてしまうリスクが常に潜んでいるのではないでしょうか。しかも、自分(特許出願しようとしている人)以外の人によってうっかり(または故意に)発明を漏洩することも考えられます。
危ないですね…
しかし、実は新規性が喪失した場合 であっても、一定の条件を満たすことにより、特許権を取得できることもあります(特 許法の第 30 条))。これは一体どういうことなのか、また別の記事で明らかにしたいと思います。
■進歩性の条件
特許出願された技術が既存技術と比べて、どのような意味や改善効果を持つのかを具体的に比較検討し、それを明確に示す必要があります。
では、どのようなケースにおいて進歩性が認められないのでしょうか。理解度を確認するために、具体例をクイズ形式で見てみましょう。
【質問】進歩性が認められる可能性のあるケースとして、最も適切な選択肢を1つ選べ。
- ある分野において公として知られている技術を別の分野に転用しただけの場合。
- 既存の技術の簡単な設計の変更や改良である場合。
- 既存の技術の組み合わせを参考に発明された場合。
- 既存の技術と同一または類似の効果しか得られない場合。
【回答・解説】
正解は選択肢3である。
「単なる既存技術のシンプルな組み合わせ」では進歩性の主張が弱いです。一方で、2つ以上の既存の技術の組み合わせを「参考」として考案した技術である場合は進歩性が認められる可能性があります。
他の選択肢は進歩性が認められにくいシナリオです。
一般的に、以下のようなものが発明として出願されたとしても、進歩性が認められない可能性が高いです。
- 既存の技術や知識から、当業者(その分野における専門家)が簡単に考えつくような発明
- 既存の技術をわずかに改良・設計変更しただけ、あるいは既存の技術を別の用途に転用しただけの発明であり、既存の技術に対する改善が顕著ではない場合
- 既存の技術を単に組み合わせて容易に想到できる発明(例えば、既存の家電に既存のチャットボットを組み合わせたもの)
進歩性を確認するために、当業者が既存の技術や知識を参考に、その発明が容易に思いつくかどうかを判断します。ここでのポイントは「誰でも思いつく」ではなく、発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、特許の出願の時点における 技術常識に基づき、容易に発明できないものである必要がある(特許法の第 29 条第 2 項)
特許権を取得するために、発明した技術が満たすべき3番目の条件「産業上の利用可能性」については(後で記事リンク貼る)をご覧になってください。
新規性喪失後の救済措置についてはこちらの記事をご覧になってください。
執筆担当者:ヤン ジャクリン (GRI講師・分析官)



