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NO.3 銀座・豊岩稲荷参道の細道

NO.3 銀座・豊岩稲荷参道の細道
大銀座のはらわたを見るビルの隙間
中央区銀座
長さ およそ90メートル
最狭幅 50センチメートル
歴史度 ★★★★
狭隘度 ★★★★★
魅力度 ★★★
この道(道と言っていいかは疑問だが)はテレビなどでも取り上げられており、ご存じの方も多いと思うが、細道についての連載を書くとなると、紹介しないわけにはいかない。
銀座の中央通りを南に向かう。
交詢社通りとの交差点で、妙な臭いが漏れてくる海外ファッション小売店の角を右に曲がると、南側にとんかつ屋がある。
よく見ると隣のビルとの間に隙間が見える。ここが銀座ワンダーランドの入口だ。

細道の入口。中はよく見えない
昼間であれば中は薄暗くよく見通せない。
ビールケースやゴミ箱が雑然と置かれ、入るのは躊躇してしまうが、勇気をふるって踏み込んでみよう。
すぐ右側に、とんかつ屋の厨房とおぼしき窓があるが、あとはパイプが這うコンクリートの壁が続く。
上を見上げると遥か遠くに細い細い空が見える。ここはビルとビルの隙間が通路になった空間なのだ。

踏み込むと細い通路が続いているのがわかる
「タバコは吸わないでください」などという張り紙はあるが、立ち入り禁止とは書いていない。
むしろ看板のようなものや、「ノックしてください」という張り紙、集合ポストまである。
ところどころドアもあり、人が出入りしていることがわかる。

配管や空調の室外機が雑然と張り付く
幅は60センチから1メートルあまりか。
2メートルあるところはなさそうで、しかも柱や空調機材やらが置かれてでこぼこしている。
床面はコンクリートでしっかり舗装され、排水口らしきものもところどころある。
やがて細い空が消え、天井ができてトンネルのようになる。
すると奥に金色に輝くガラスのドアが現れ、横には「通り抜けできます」の表示が。
永井荷風の世界かっ! と思って自動ドアを開けた。

そして「通り抜けできます」の文字が
ところがである。
中は明るくモダンなカフェで、拍子抜けするやらびっくりするやら。
ドアを入った左右ともカフェチェーンの店内で、いすに腰掛けた人たちがくつろいでいる。

中は夢を見ていたかのような明るいカフェ
そしてすぐにまた自動ドア。
ここは目の前を人が横切っている。左右の通路と交わっているのだ。
その通路の先にはまたまた自動ドア。
今度はこちら側とは落差の激しい、金網や配管などが交錯する薄暗い空間、きらびやかな銀座の表とは対照的な、いわば銀座のはらわたとでも言うべき空間が押し込められている。
しかしけっこうな数の自転車が停めてある。
曲芸師でもないかぎりここの通路の幅は走れないだろうから、押して来て駐輪しているのか。
やがて少し明るくなり、右側にオレンジ色の優しい光が見えてくる。
覗いてみると、なんとビルの壁の前に狐の像とお賽銭箱があるのではないか。
間には半透明のガラスの向こうにお灯明のような明かりが見える。
上を見ると「豊岩稲荷大神」の額が! そう、ここはお稲荷さんの社殿なのだ。

豊岩稲荷神社の社殿と参道。燈籠まで並んでいる
壁の説明板を見ると、なんと創建は江戸時代の初期。
明智光秀の元家臣が祀ったもので、明治の頃は芸能関係者の崇敬が厚かったという。
今は銀座7丁目町会が管理をしているようだ。
社殿の前には真新しいお揚げが置かれ、見ている間にも参拝する方が訪れる。
さらに先へ進むと表通りに出る。
出口の脇には「豊岩稲荷神社」との立派な石の道標が建つ。
ここは神社の参道なのだ。

参道入口には立派な石柱が建つ
銀座は日本最大の商店街であると同時に、もっとも古い部類の商店街だ。
その道筋は、徳川家康が造った当時とほとんど変わらない。
先の交詢社通りや、みゆき通り、中央通り、並木通りは、家康が造った当時の道筋、幅のままだ。
歴史のある町には神社も多い。
ここのほかにも、小さな小さな社が銀座という住所の中に14ほどもある。
そして権利関係が複雑になった土地と土地の間には、これまた古くからの歴史を持つ細道が数多くある。
店舗の裏口の道として使われてきた道が、周りがビルとなろうとも、生活道路として生き残ったというか、残すように注文されたのだろう。
先の、カフェを貫通する通路も、おそらくもともとは両側の土地は別々の建物だったのが、合わせてビルを建てることになり、その際、神社へ続く道は残すよう条件がついたのだろう。
今回の細道が「道」と言えるのかは難しい。
しかし地図によっては、この通路を道の形式で表示しているものも多い。
実はここほどでないにしろ、銀座には似たような細道がいっぱいある。
みなさんも銀座の表通りだけでなく、隙間歩きを楽しんでみてはいかがだろうか。
■細道を実際に散歩した動画です。
細道とは
ここで紹介する細道は、私・黒田涼の独断で選んだものだが、おおまかな定義は頭にある。
まず、表通りから見えにくく、歩く楽しみと驚きのある狭い道が条件。
自動車は通行できないが、公道もしくは近隣の生活道路として機能していること。
歴史が古く、曲がりくねってアップダウンがあればなおよい。
■著者紹介
黒田 涼(くろだ・りょう)
- 作家・江戸歩き案内人
- 大手新聞社にて記者を16年務めるなど編集関係の仕事に携わったのち、2011年に作家として独立。現代の東京に残る江戸の痕跡を探し出すおもしろさに目覚め、江戸歩き案内人として各種ガイドツアー講師などの活動も行っている。江戸と言われる範囲をのべ2000キロ歩いて探索。江戸の街の構造、江戸城はもちろん、大名屋敷、寺社、街の変遷などに詳しい。
- 各種講座や講演講師、NHKはじめテレビ・ラジオ、新聞、雑誌などの媒体露出多数。「江戸城天守を再建する会」参事 専門委員。
■著書
※各書籍名はAmazon.co.jpへリンクされています
- 「東京名所 今昔ものがたり」(祥伝社黄金文庫) 2013年 現代東京の名所の土地が、どのような変遷をしたか、およそ50か所を案内
- 「江戸の神社・お寺を歩く(城東編・城西編)」(祥伝社新書) 2012年 江戸から続く東京の寺社1600を案内
- 「江戸の大名屋敷を歩く」(祥伝社新書) 2011年 東京に残る大名屋敷の痕跡を歩いて案内
- 「江戸城を歩く」(祥伝社新書) 2009年 東京に残る江戸城の跡を歩いて案内
■講師歴
- 「江戸城天守を再建する会」江戸ウオーク講師 2010年〜
- 雑誌「いきいき」江戸ウオーク講師 2010年〜
- 淑徳大学公開講座講師 2010年〜
- 新宿歴史博物館講演 2011年、2012年
- 千代田区シンポジウムパネリスト 2012年
- 三越 日本橋街大學講師 2014年〜
■ブログ
http://ameblo.jp/edojyo/
■フェイスブック
http://www.facebook.com/ryo.kuroda.96
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