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俺を凌駕しろ男のこと。
週末は、だいたい赤羽近辺の赤ちょうちんの店にいる。
お決まりのコースとしては、まず赤ちょうちん系に行く前に、焼肉屋に入る。
焼肉屋といっても、狭小空間にひしめき合い煙にまみれて肉をつっつく系。
サイドメニューには、冷やしトマトやポテサラ、ハムカツもある。
僕らは、いつも、ホルモンMIXという得体のしれない肉類の盛り合わせ(たまに特上カルビの切れ端も混じる)を特盛で頼み、ホッピーの黒で流し込むスタイルである。
その夜も、その店からスタートした。
結構混み合っていて、とあるサラリーマン二人組の席の隣に座った。
その二人組も、ついさっき店に入ったようである。
どうも、どちらも20後半〜30代で先輩後輩の関係らしい。
ま、ひよっこサラリーマンである。
1時間も経過しただろうか。
不意に、隣の席の先輩の方のボイスボリウムがあがり、
こちらの(僕らも二人で呑んでいた)会話を遮るようになってきた。
隣を見やると、“ひよっこ先輩”はデロンデロンになっている。
けど、(僕は隣席だから知っているが)彼は、グラスワインを1〜2杯しか飲んでいない。
後輩の方は、生ビールを4〜5杯いっているようだった。
しかも、“ひよっこ先輩”の2杯目のグラスには、まだ半分以上ワインが残っている。
かつ、肉くっているのに、白ワイン。
僕らアラフォー組は、アラフォーらしく我慢して呑もうと。
大人の対応を選択。
しかし、しばらくすると
“ひよっこ先輩”のトークに気が散って全然、肉どころじゃなくなったわけである。
“ひよっこ先輩”「おい、貴様は、おれを凌駕できるのかい?」
“後輩”「いや、無理っす。先輩を凌駕できるなんて思ってません」
“ひよっこ先輩”「凌駕できないって言ってるから、いつまで経ってもダメなんだよ!」
“後輩”「いや、いつかは・・・」
“ひよっこ先輩”「何?凌駕できると本気で思っているのか?」
“後輩”「・・・」
“ひよっこ先輩”「なんとか言えよ、貴様は俺を凌駕できるのか?」
空気を変えたいと思ったのか、後輩君が追加オーダーを叫ぶ。
「あ、すみません、生ビールもう1杯!」
すると、“ひよっこ先輩”
「あ、すみません。ボク、お水ちょうだい。ジョッキで」
僕は思った。
後輩君よ、君はすでに“ひよっこ先輩”を凌駕している。
“ひよっこ先輩”の飲みかけのワイングラスの水滴が、
なんだか涙に見えた。
(著者について)
10%(テンパー)。
実家は、秋田で比内地鶏放し飼いにより差別化を図るきりたんぽ屋。稼業を継がず東京へ出て数十年。現在の職業は広告系ディレクター。週末は、だいたいホッピーを飲みながら、赤羽近辺で面白人間を受信中。
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