ETHNOGRAPHY

車 – 本当に賢い道具ってどんなもの? – 辻中俊樹のエスノグラフィー事例 第1回

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本コラムでは、辻中俊樹氏のエスノグラフィー事例を紹介する。今回の事例では、一般的な乗用車を取り上げ、子どもがいる家庭の車の滞在的なニーズを覗く。

観察調査が不可欠な事例としては、耐久消費財の本当の満足度を知り、そこから次の開発テーマを考えていく場面が挙げられる。典型的なのは車である。

現在保有している車の購入決定理由を、定量アンケート、インタビューでいくら調査しても、つまるところ「価格」「デザイン」「燃費」くらいしか出てこない。実際どんな使い方をしていて、どんな問題や潜在的な解決課題があるのかはわからないままなのだ。
今後のミニバンや2BOXタイプの車に求められるものは何かというテーマで、車が使われるシーンを把握するために、生活日記調査と写真記録を行ったことがある。乳幼児から小学生くらいの子供を持つ家族が車を使うシーンの典型は、いわゆるレジャー型の行動だ。

その一つは“子守り”シーンである。例えば、小学生と幼稚園の二人の子供を乗せて、ショッピングセンターの駐車場に行き、車の中で大暴れさせているのだ。アンパンマンやNHKEテレの子供番組などのDVDをかけて、大声で一緒に歌ったり飛び跳ねたりしている。自宅マンションでは、大音量でこんなことを思う存分にはできない。シートを倒してプレイルームとして使っている。1時間程大暴れすると帰りの車中では二人とも爆睡しているというわけだ。実は車はこんな風に使われている。このシーンにもっとうまく対応できる機能を持っていれば、商品の満足度は高まるはずだし、この機能を果たしてくれるのにこの「価格」ならばと、購入決定理由も明確になるはずなのだ。

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子供たちを乗せ、一足伸ばして大きな公園に行ったりすることも多い。こうしたシーンの実態を理解するには実際に同行観察することがベストなので、お出かけをする家族の車を公園まで追いかけた。

さて出かける時には単純に子供とママが乗るだけではない。トランクやラゲッジスペースには、たとえばサッカーボール、バドミントンなどの遊具、子供用の自転車、乳幼児がいればベビーバギーなどが載せられる。ペットを飼っていれば犬も一緒だ。これだけの荷物はトランクだけでは納まらないし、安定も悪く居心地がよくない。

そして帰りには、サッカーボールも子供用の自転車も泥んこになっていることが多い。使用後の遊び道具類を余計な気をつかうことなく、またうまく車に載せて帰りたいのだ。子供もママも帰路は当然ぐっすりだ。

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泥のついた自転車やベビーバギーは、自宅ならば玄関のたたきやベランダや外廊下に置かれたりするものである。車の中の構造は居室と荷物スペースからなっていて、リビングルームの機能ならば基本的には備わっているが、玄関やベランダは車にはついていない。
子供の乗り降りを考えればフルフラットで、車の左右どちらからでもウォークスルーできるのが便利だ。また、ママが乳幼児を抱っこしたまま乗り降りするにはスライドオープンの、まるでベランダに出入りするようなドアが望ましいということはハッキリしていた。

これらの課題の整理は、二一世紀に入ってからの新しいファミリーカーのあり方に直接つながっていくものだったのである。これ以降登場することになったミニバンはできる限り、このコンセプトを実現していくことになる。

たとえば、トヨタのアイシスはこれらのニーズに対応できるようなシートアレンジになっている。

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助手席がタンブルシート(前方に折り畳める)であり、二列目がフルアレンジなので、センターにラゲージスペースをこしらえたり、三列目をフラットにしたりといった、オリジナルアレンジがかなり可能になっているのだ。また、車体左右のフルオープンのスライドドアでほぼウォークスルーが可能になっているなど、子育て期のファミリーの潜在的な悩みにはかなり応えていると言える。

また、ミニバンよりはコンパクトタイプである2BOXのポルテも、低床&フラットフロアでスライドドアによって子供の乗り降りも楽だし、もちろんベビーを抱っこして両手がふさがったままでの、ママの乗り降りもスムーズなのである。シートアレンジも、自転車もベビーバギーもスライドドアからそのままうまく載せられる様な工夫もちゃんと実現されている。

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著者情報

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辻中俊樹

東京辻中経営研究所 代表取締役マーケティングプロデューサー
株式会社ユーティル研究顧問

日本能率協会などで雑誌編集者を経て、1982年ネクスト・ネットワークを設立。生活を24時間スケールで補足する「生活カレンダー」方式によるリサーチワークを確立。団塊ジュニアに関する基礎研究をまとめ、「15(イチゴ)世代」というキーワードを世に送り出すなど、その「生活シーン分析」は評価が高い。
団塊世代のみならず、出産期世代からシニアについても造詣が深い。2010年には食のマーケティングに絞った活動を行うために、東京辻中経営研究所を設立。同社代表取締役マーケティングプロデューサー。

また、2012年よりユーティルの研究顧問として調査、分析、コンサルティング活動を行う。その活動の中で「生活動線」などの視点を生みだしている。

近著に「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー出版)など編著書は多数。

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