ETHNOGRAPHY
シェア – 三世代連鎖のコミュニケーションと新しい消費 – 辻中俊樹のエスノグラフィー事例 第5回
辻中俊樹のエスノグラフィ事例母親を中心とした三世代の近接連鎖は、ジィジも巻きこんだ形での接点の日常化というところに特徴がある。接点の日常化というのは具体的にどのくらいの頻度をさしているのだろうか。最近、サンケイリビング新聞社と一緒に行なった調査でみると、「ほぼ毎日」を含めて「週に1~2回以上」会っているというのが25%以上、「月に1~2回」というのが30%以上というのが実態のようだ。これはママ側を対象にしたものであるが、同様のことをバァバに聞いたものもある。「ほぼ毎日」を含めて「週に1~2回以上」が40%以上になり、これはやや異常に高い結果ともみれなくもないが、「月に1~2回」というのはやはり30%を超えているのは完全に一致した結果といえる。
仮に週に1回程度三世代があっているという頻度は、年間でみれば50回以上顔をあわせているということになり、接点の日常化という以外にない。
実家の近くにある西松屋でセールをやっているので「一緒に行こうよ」という接点があり、帰りにお茶をしながら「今度はみんなでコストコまで行かない」と次の行動予定が決まる。コストコへ行く時にはジィジの運転となり、その車中で「やっぱりこのチャイルドシートはダメだよ」ということで、別の機会にジィジはホームセンターでチャイルドシートのリサーチをし、ディーラーに聞いてみたりもするのだ。
コストコで買ったピザを実家で食べながら、次は「手巻き寿司が食べたいよね」となったりする。ジィジ、バァバ二人ではこのピザを食べることは絶対なかったはずだ。こんな会話や食卓のシーンから、三世代の消費行動が決定されていく。たとえば、「五月人形を贈ってやりたい」とシニアたちが考えるのは非日常的な儀礼だが、それよりも年間50回以上の接点がつくりだす小さなイベント事の方が、重要な消費を決定する場面なのである。
この母系による三世代の近接連鎖にさらなる広がりがあるとすれば、この娘の姉妹、孫からみれば“おば”が入り、次に夫の姉妹という“義理のおば”が入ってくる。そして義理の母親という立場ではなく、仮りにもし価値観が共有できるとするならば、女性としてのもう一人の母親へとつながっていく。
つまり、母系は女系の連鎖へと拡大していくことになる。ここがマーケットの一つの変化の核だということになる。
この変化の代表的事例が「シェアする」という消費の仕方だ。時折利用したりするコストコでの買い物がそれだ。パンにしてもピザにしてもとにかく大きいし量が多い。たとえ家族4~5人が束になってかかっても、おいそれとは完食ができないものだ。靴下などの衣料品もそうだ。
第1回:車 – 本当に賢い道具ってどんなもの?
第2回:車 – “大切なもの”との共棲をどうするか
第3回:コーヒー – 習慣化する意味と飲まれないこと –
第4回:カレー、おでん – 本当の“時短”とは何なのか? –
第5回:シェア – 三世代連鎖のコミュニケーションと新しい消費 –
著者情報
辻中俊樹
東京辻中経営研究所 代表取締役マーケティングプロデューサー
株式会社ユーティル研究顧問
日本能率協会などで雑誌編集者を経て、1982年ネクスト・ネットワークを設立。生活を24時間スケールで補足する「生活カレンダー」方式によるリサーチワークを確立。団塊ジュニアに関する基礎研究をまとめ、「15(イチゴ)世代」というキーワードを世に送り出すなど、その「生活シーン分析」は評価が高い。
団塊世代のみならず、出産期世代からシニアについても造詣が深い。2010年には食のマーケティングに絞った活動を行うために、東京辻中経営研究所を設立。同社代表取締役マーケティングプロデューサー。
また、2012年よりユーティルの研究顧問として調査、分析、コンサルティング活動を行う。その活動の中で「生活動線」などの視点を生みだしている。
近著に「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー出版)など編著書は多数。
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