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3桁斬りの「こじらせ女子」-とある30代女子の人生観

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Room No. 012:3桁斬りの「こじらせ女子」(30代 女性 単身世帯)

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 今回の訪問先は、国分寺駅そばの30歳女性宅。出版社で編集者として働くが、記事の中心は彼女のセックスライフである。中学生の頃「こじらせ女子」だった、という彼女は、高校2年の時にどうしてもセックスがしたくなり、ネットの掲示板で知り合った男と鶯谷のラブホテルで初体験した。

 以来、性交渉した男性は「三桁」というが、大部分はネットなどで知り合った見知らぬ男性だ。しかし見た目はむしろ地味系で、言葉遣いや人当たりも礼儀正しい。「男は生きているバイブ」という彼女の遍歴を記す。不快に感じる方もいるかもしれないが、現代生活図鑑は現代に生きるリアルな生活者の実態をお届けするサービスのため、そのままを記載します。他人の性的倫理にうるさい方は読まないようお願いいたします。あらかじめお知らせします。

 ※こじらせ女子とは 雨宮まみの著書『女子をこじらせて』(ポット出版)から生まれた言葉で、2013年の新語・流行語大賞にノミネートされて話題となった。「自らの女性性に自信が持てなかったり、自意識にとらわれ、世間でいう“女性らしさ”に抵抗を感じ、生きづらさを感じている女性のことを指す」(毎日新聞)。様々なタイプがあるとされるが、必要以上にコンプレックスを抱え、劣等感を持ち、日々空回りして過ごしている女子のこと。


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初体験はネットで知り合った男とラブホで
 高校の頃に付き合っている彼がいたが、奥手で手も握ってこない。彼女から手を握ったがそれ以上のことが起きない。内心期待はしていたが、こちらから攻めることはためらった。

 「同じ部活だったので、クラスメートとかの噂になったらいやだと思って。関係性のある中で踏み出すのは面倒にも思った」

猫が好きだが今は飼えない。テレビの横の写真集はおしゃれなので置いている。

猫が好きだが今は飼えない。テレビの横の写真集はおしゃれなので置いている。

 関係性のある男性とはセックスしないというのはその後彼女のポリシーとなる。この場合の関係性とは、友人とか学校とか同僚とか仕事関係とか、彼女が日々関わりながら生きているコミュニティのことと言っていいだろう。
 そのころ、出会いを広げたくてネットの掲示板などで男性とやりとりをしていた。いつまでたっても彼が手を出してこないので、その中の気の合う男と会ってみた。しかし彼女からキスしようとしたら、「ネットで知り合った男とそんなことしちゃダメだよ」と説教されてしまった。
 23歳の男だったが、どうもそういうシチュエーションに罪悪感があったらしい。

家具や家財は少ない。本当に必要な物しか買わない。

家具や家財は少ない。本当に必要な物しか買わない。

 仕方なく別の男と会った。今度は積極的な男で、上野で会ったらすぐに鶯谷のラブホテルに連れて行かれた。話もうまく、もともと欲求が積もっていたので「ま、いいか」とセックスした。これが初体験。
 その後も続けて会うようになり、最初は体だけの関係だったがそのうち、普通にデートしたり付き合うようになった。しかし高3になる時に、国立大学を目指していた彼女は、勉強に集中しようと別れることにした。

受験中も禁欲できず
 1年ぐらいは禁欲しないと、と思ったもののそれは長続きしなかった。
 勉強していた図書館で知り合ったイケメンの浪人生と、図書館のトイレでセックスした。しかしその男は性格が好きではなかったので別の彼と知り合い、受験後に付き合うようになった。だが彼は童貞で、しかも挿入はできるものの、最後までいけなかった。
 そのうち大学のサークルの先輩が好きになり、そちらに乗り換える。その後もいろいろあったが、大学時代は普通に男性と付き合っていたという。

本は多いようだが、多くは会社に置いてある。 出版社なので会社のお金で買えるし、置き場所も会社の方が邪魔にならない。

本は多いようだが、多くは会社に置いてある。
出版社なので会社のお金で買えるし、置き場所も会社の方が邪魔にならない。

 就職後、付き合ったのは合コンイベントで知り合った男。彼は同性愛者ではないが、お金のために男性に体を売っていた。エロい世界をいろいろ知っていたのでおもしろくて付き合う。このときに初めてハプニングバーに行くが、あまりおもしろさがわからず、この時は1回で終わる。その彼もしばらくするとスピリチュアル系にはまってしまい、違和感を覚えて別れる。

 ※ハプニングバーとは、性的にいろいろな趣味を持った男女が集まり客同士で突発的行為を楽しむ、バーの体裁をとった日本の風俗。ハプバーなどと略される(ウィキペディアより)。

 その後出会い系のサイトで気が合う人を見つけ、2年ぐらい付き合ったが、セックスがマンネリ化し、後半の1年はセックスレス状態だった。

 「1年も付き合うと、次はここ触って、こうするんだな、とかわかってつまらなくなったんです」

そして大勢の男と交わるように
 そんなとき、本を見ていて「乱交コーディネーター」という存在を知る。文字通り乱交パーティーのセッティング、あっせんをする人間だが、調べると連絡先がわかり、会ってみた。
 何回か話をして信頼できる人だとわかり、その紹介で、3P、5Pなどを体験する。

きちんと整頓されたクローゼット

きちんと整頓されたクローゼット

引き出しの中には掃除道具がきちんと納まっている

引き出しの中には掃除道具がきちんと納まっている

 「5Pは男4人と私なんですが、やっぱり鍋奉行みたいな仕切る人とかいて『まだ胸を触るのは早い』とか注意するんですよ。おもしろいです。私は男の顔とかはどうでもいいので、目隠しをしてます。コーディネーターは参加せず、ちゃんとコンドームをしているかとか、危険なことはしないかとかを監視しているので、そういう面は安心です」

 しかしこれも1年ほどで飽きる。そうした経験を重ねていた時期にも彼とはまだ別れていなかったのだが、結局別れてしまった。
 別れてやはり悲しかったが、その時話を聞いてもらった女性がハプニングバーの常連で、久しぶりに行ってみると今度ははまった。
 ここで乱交などを楽しみ、今の彼ともここで知り合う。彼とは初めは「ハプ友」(ハプニングバー友達)で、食事などをするだけだったが次第に好きになり、付き合うようになる。
 しかし出会いが出会いなだけに、お互い誰とセックスしても自由。ただ毎日連絡はきちんとする。一度泥酔して連絡し忘れたらこっぴどく怒られて、「別れる」という騒ぎにまでなった。
 他人とのセックスはよいが、連絡がないと怒る。この彼の論理については、おそらくだが彼の中では彼女と精神的に繋がっていることを確認できる唯一の手段であったのだろう。

最近はシチュエーションを自分で設定
 しかし今はハプニングバーもあまり行かない。やっぱり飽きてしまったのだ。最近はネットの掲示板で目星をつけた男とシチュエーションを楽しむのがもっぱらだ。2週間に一度ぐらいはそういう機会を作る。もちろん彼ともセックスはするが、それは愛情とか絆の確認という以上の意味を持たない。
 はまっているシチュエーションは、たとえば最近のエロビデオなどではやりの設定。マッサージに行った女性が、マッサージ師にいつの間にか裸にされ、ついには最後まで行ってしまうというもの。

 「ネットの掲示板で、『私は気持ちのいいマッサージを受けたいんです。あくまでマッサージだけです』って書き込むんです。そうするとたくさんの男が『私が私が』って申し出てくるんで、その中から安全そうな人を選び、『マッサージだけお願いします』って言いながら、結局最後はセックスするんですが、まあ男性風俗のイメクラみたいなもんですね。お互いあうんの呼吸で。私はそういうシチュエーションにすごく興奮するんです、というか何かシチュエーションがないと興奮しないです」

 ※イメクラ(イメージクラブ) 女性従業員が様々なコスチュームを着て性的なサービスを提供する日本の風俗店。日常的には容易に遭遇し得ないシチュエーション(「教師と生徒の淫行」や「(特に列車内での)痴漢(痴女)と被害者」、「上司の露骨なセクハラを受けるOL(秘書)」など)を演じる点に特徴がある(ウィキペディア)

関係性のある男とは関係しない
 ここまで見てきたように、彼女が性交渉をする相手は同僚や、友人関係などはいない。交渉は1回きり。彼になる男もネットやハプニングバーで知り合った「関係性のない」男ばかりで、付き合っていることも別れたことも、彼女の公私のコミュニティではわからない。

 だがこういう性生活をしていることは友人などにも結構話す。

 「人にもよるんですけどね。私はやりたいようにやって楽しいし、別に軽蔑されても構わない。親以外は誰からどう思われても構わない。いやなのは相手を『そんな話聞かなきゃよかった』って不快にさせること。だからそういう話が不快そうな人にはしません」

 しかしこんな生活をしていて身の危険は感じないのか?

 「メールとかでやりとりしていたら、だいたい怪しい人はわかります。実際これまで、会っておかしな人はいなかった。コンドームはきちんとしてもらいます。避妊はもちろんですが、病気も怖いので。。最近はフェラチオもゴムつきでします。ちょっと病気に神経質になってきてますね。でもまあこんなことしてたらいつ殺されても仕方ないなとは思いますけどね」

 いったい男をどう見ているのか?

男の性は消費するモノ
 「生きているバイブだとぐらいにしか思ってません。挿入して快感を得るなら別にオナニーの方がいいです。でも私はシチュエーションに興奮するんで、やっぱりそれは実際の人間じゃないとダメなんですね。ちやほやされたいわけでもないのでホストクラブとかも行きたいと思いません。男性は風俗があっていいですね。お金さえ払えば安心していろんなシチュエーションを手に入れられるんですからねえ」

 小学校高学年から中学にかけて、見た目が悪くて、モテなくて、男性から蔑まれている、と感じていた。一方で華やかな女子たちはちやほやされ、同じ人間としてみられていないとも思った。だれにもちっとも振り向いてもらえない。一度も告白されたりしない。悔しかった。

 実際の本人は、振り向くような美人、というわけではないが、かわいらしい感じで、年齢よりは若く見える普通にこぎれいな女性だ。ふだんしている眼鏡を外して、もっと着飾ればモテると思うが、「コンタクトは面倒」だし、特にモテたいわけでもないので気合い入れて着飾ったりはしない。男の気を引くために手間をかけるのは馬鹿馬鹿しい。

 「結局男って、外見だけなんでしょうと思って、男性のそういう面は今でも軽蔑しています。それを仕方のないこととは許せない」

「こじらせ女子」だった中学時代が原点
 この中学時代の思いは、今から考えると「こじらせ女子」だったなと思う。あるいはルサンチマン(弱者の持つ怨恨、憤り)とも彼女は表現した。それ以来男性にはあまり期待していない。
 いまでもかわいい服とか着たい気持ちはあるが、服に対して申し訳なく感じたりする。レースとかひらひらしたものが好きだが、ふだん着るかというとためらう。その場は幸せでも、すぐ変な目で見られないかと思う。だから買い物は楽しくない。
 背も低いし、化粧しても自分なんかじゃ似合わないと不安だ。「ちゃんとしてないでしょう」と言われるのが嫌だし、でも「かわいい」とか言われてもお世辞だと思う。だから化粧は最低限でシャドーとかチークはしない。化粧なんかに時間かけるのは馬鹿馬鹿しい。

本当に化粧道具は少ない。これでほぼ全部。「ちふれ」を使うことが多い。

本当に化粧道具は少ない。これでほぼ全部。
「ちふれ」を使うことが多い。

 そして今の日本には生きづらさを感じる。やはり中学時代、歴史の授業がつまらなかった。あとで気がつくと、あまりにも叙述が男視点だったからだ。理科の実験、アシスタントは女性。学校自体が男が主体っぽくていやだった。
 家では母親だけが家事をする。理不尽だと思った。いつでもどこでも女は二流扱い。大学でフェミニズムを学んでさらにその思いは強くなった。男性優位社会は日本ではあいかわらずひどいと思う。特に年齢を重ねれば重ねるほど生きづらく感じる。
 管理職は男性ばかりで、女目線の企画は理解されない。出産して働くことは実に大変だし、そうした中で女性が自分らしく生きるのは難しい。政治状況もそんな男社会を強化するような感じで息苦しい。これからもっと悪くなるようで怖いし、社会に対する希望はあまりない。だから自分は結婚をしようとは思わないし、子供も産みたくない。

 「自分のことを無条件に愛してくれる存在は欲しいですけどね。一人で暮らし続けるのは寂しいかな」

やり尽くしてこの先が心配
 現状には満足しているのでこのままの生活を送っていたいが、セックスライフについてはやりつくした観がある。これから新しい未来があるのか? 処女の頃の方が夢があったが、実現してしまうとがっかりな部分もある。ちょっと不安だ。

 出身は茨城県だが、東京に通勤圏の町。高校は県立で、大学は東京の郊外の大学に片道3時間かけて通った。
 本が好きだったので、就職は出版社に絞って入ったが、最初に入った会社が電子書籍にシフトして、紙の本でないとつまらないなと思い、今の出版社に転職した。7年ほどになる。

 一人暮らしを始めたのもその前後。姉が、働いていた会社の国分寺の寮に住んでいた。しかし彼と同棲することになって寮を出たのだが、寮と言ってもマンションの借り上げで近所づきあいがあるわけでもなく、家賃が安いのでばれないだろうと、姉の代わりにその寮に住んでいた。
 2年ぐらい住んだが、姉が結婚することになり、さすがに会社に届けねばならず、寮には住めなくなった。そこで知り合いと武蔵小金井でルームシェアを始めたが、特にトラブルはなかったが、2年ぐらいでやめる。

 「やっぱり衛生観念が違うし、大きな音がストレスになりました。シャワーの設定温度の好みの違いとか、細かいところが気になってきましたし。でもそういう感覚の違いがわかってよかったです」

さっぱりな冷蔵庫。東京の水をそのまま飲むのはなんだか信用できないため、水道水は浄水器を通してから飲む。

さっぱりな冷蔵庫。
東京の水をそのまま飲むのはなんだか信用できないため、
水道水は浄水器を通してから飲む。

冷凍庫。右上が冷凍した料理。

冷凍庫。右上が冷凍した料理。

隙間の多い台所の物入れ。必要なものはそろっている。

隙間の多い台所の物入れ。必要なものはそろっている。


そこで住みやすかった国分寺にマンションを借りて戻る。水回りが古いとか不満はあるが引っ越して後悔するのも嫌なので住み続けている。どうせ家は帰って寝るだけなので、あまりお金はかけたくない。家賃は5万5000円だ。

 しかし最近は自炊を心がけている。食品などの宅配サービスに加入し、作ったものを冷凍しておく。以前は外食ばかりだったが、自分の好みがわかってきたのと、節約を意識している。健康を大事にしたいという思いもある。

電子レンジの上のカバーをかぶっているのは炊飯器。ホコリや虫が入るのが心配。

電子レンジの上のカバーをかぶっているのは炊飯器。ホコリや虫が入るのが心配。


洗濯機の上にはきれいに現れた雑巾が2枚。潔癖症に近いきれいずき。「汚いのはいやです。虫とかは特に嫌」

洗濯機の上にはきれいに現れた雑巾が2枚。
潔癖症に近いきれいずき。「汚いのはいやです。虫とかは特に嫌」

キッチン

キッチン

最近お気に入りの果物入れ。折りたたんでしまえる。

最近お気に入りの果物入れ。折りたたんでしまえる。

お風呂場

お風呂場

シューズケース

シューズケース

ピンクのモノは犬型の消臭剤カバー

ピンクのモノは犬型の消臭剤カバー

取材後記
 彼女のしていることを「ふしだらだ」と怒る人もいるだろう。決して褒められた生活ではないと私も思うが、しかし視点を変えると、彼女のような生活をしている男性、彼女のように女性の性をモノ扱いしている男性はいまだにごまんといるのではないだろうか?彼女自身ルサンチマンと語ったが、そういう現代日本の男たちの感覚への復讐という感じもしないでもない。一部の男がしているように、男性の性を使い捨てにし、自分の快楽のために消費する。それによって自我のバランスを保っているようにも見える。そしてそのことは決して非難はできないと思う。社会の圧迫に敏感な分、こうした生活にならざるをえなかったのではないか。
 
 それにしてもネットで彼女に引っかかっていく男たちの情けなさ。彼女に使い捨てされているとも思わず、きっと性豪自慢でもしているのだろう。彼女は「そういう人たちって無防備でこっちが心配になります。私は本名や連絡先は絶対に明かしませんが、平気で本名は言うし、美人局みたいに突然やくざとか入ってくるとか考えないんでしょうか」と話している。気をつけてくださいよ、そこのあなた!

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