ETHNOGRAPHY

3桁斬りこじらせ女子の彼は徹底して合理主義

Room title

th_DSC_0086

Room No. 016:3桁斬りこじらせ女子の彼は徹底して合理主義(30代 男性 単身世帯)

H26_5_02

 今回伺ったのは、渋谷の円山町、つまりラブホテル街のど真ん中に住む34歳のシステムエンジニア。以前この欄でご紹介した「3桁斬りこじらせ女子」の彼氏である。お互い誰とセックスしてもオッケー、ってどんな恋人同士じゃい!と思いつつ会うと、想像していた感じとはまったく違い、人生を合理的に突き詰めて考える、しかし極端ではなくバランス感覚の取れた「好青年」と言ってもいい人物。人生はいかに楽しむか、という割り切りの一方で倫理観もある。ここに至るには、結構大変な時代も合ったようだ。

 まず彼女とのハプニングバーでの出会いから聞いてみた。
 そもそもなぜハプニングバーに行ったのか?

360banner 016

思い立ったら即ハプニングバー
 「30を過ぎて東京に転勤になって、いろんなことをしてやろうと思ってたんです。好奇心旺盛なんで。マラソンとか、ダイビングとか、それからエロいことも。ハプニングバーも、あるとき行ってみたいなと思って、たぶんネットで調べてすぐその日に一人で行きました。危なかったらすぐやめようと思ってました。もうやろうと思ったらすぐ行動しちゃうんですよ。あんまりじっくり調べたりしません。やってみてつまらなかったりしたらすぐやめればいい。まず自分の目で確かめることです。もちろん怖いなあ、と思うこともありますよ。でも好奇心の方が勝っちゃうんです」

th_DSC_0092

本は読んだら基本手放すので蔵書は少ない。本は読んだら基本手放すので蔵書は少ない

 昔から猪突猛進だったので、保守的な田舎は合わなかったという。別に人生平穏無事に暮らしたいわけではないので、平穏無事が第一の人たちと過ごすのはつまらなかった。
 勇気を奮って行ってみたハプニングバーは面白かった。

 「そこで知り合った人同士がその場所でセックスするっていうのが面白かったですね。サクラもいるかもしれませんが、基本的に商売ではない。趣味の世界。私もキャバクラとか風俗とか一通り行きましたけど、当然ながら『女の子は仕事なんだな』と感じます。まあ女性の質は愕然と落ちますけどね」

 客の女性と知り合って、その場ですぐ口説いてセックスまで持ち込むというその過程が面白い。普通のバーではなかなかそうすぐにはいかない。一般に女性と付き合うとしたら、何回もデートして、お金をかけて、でその先何があるかといったら結婚?なんて考えたらつまらなくなってくる。
 ハプニングバーはすっかりはまって週2回行っている時期もあった。お金は大変だが、いろいろ楽しむために仕事も頑張っている、という意識もある。また、付き合っている以上はほかの女の子とは遊んじゃいけないと思っていたので、通い始めた当時付き合っていた女性とは別れた。

パソコンとデスク

パソコンとデスク

 「基本的に一人の方が居心地いいので、気が向いたらハプニングバーで女の子とセックスして、っていう方が楽でした」

社会的リスクを冒してまで続けるつもりはない
 しかしこうした遊びをしていることは、会社の人間や古くからの友人は知らない。それなりの社会的地位も得てきて、世の中の目も気になっては来ている。出世すればするほどその地位を失うリスクも高まるので、危なくなったらハプニングバーはやめるという。
 そのあたりは今の彼女とは違う。社会の目や出世への影響をしっかり意識している。彼女は、職場や仕事づきあいの人でも「相手が不快感を持たない人であれば」話している、という。基本的に出世や社会的地位といったものに関心がない。男女の違いだろうか。

 さてその今の彼女と知り合ったのは1年くらい前。

1階なので床下収納がある

1階なので床下収納がある

 「ハプニングバーに通っている以上は女性とは付き合えないと思っていたのですが、彼女は、私と付き合っていてもほかの女性と遊んでもいい、って言うし、趣味も合うので付き合い始めました」

 彼女は彼のことを人間的にも魅力がある、と話していた。サブカル、アングラに興味がある点も共通している。「男は生身のバイブ」と発言しているが、LINEで「あなたは違うのよ」と言ってくれる。二人でハプニングバーに行って別の相手とセックスしたりもするので、ほかで誰とセックスしようと報告すればいいし、彼を1番に置いていてくれればいい、という。
 しかし彼女は性欲処理の部分と人付き合いの部分が分離しているようで、彼とセックスしなくてもいい、とインタビューでは言っていたが、彼の方はそれについては若干違うようだ。彼女と付き合うのにセックスレスでいい、というわけではない。

クローゼットの扉は、キッチンとの仕切り戸を移動させると閉まるもの。

クローゼットの扉は、キッチンとの仕切り戸を
移動させると閉まるもの。

黒、青、白しかない服。あまりファッションでは 冒険しないタイプのようだ。

黒、青、白しかない服。あまりファッションでは
冒険しないタイプのようだ。

やはりセックスに愛はある
 「私は愛のない人とセックスはできません。彼女は大事ですが、やはり他の女性とセックスするときは気持ちが入ります」

 セックスするのは寂しさを埋めるためだという。欲望だけではない。ふだんが寂しくて仕方ないわけではないが、セックスすることで寂しくならないで済む。

冷蔵庫や電子レンジは備え付け[

冷蔵庫や電子レンジは備え付け

 「いろんなところでセックスしたいので、彼女にもいいよ、と言っているわけで、そこで彼女にだけ、ほかの男とは関係するな、と言うのは傲慢」

 きちんとしている。そしてほかでしてもいいよ、というのは自分とはしなくていいよ、ではないというわけだ。

大学受験失敗して専門学校に
 いろいろ聞いていると非常に合理的にものごとを考えている。どうしてそういう考えになったのか。
 出身は中国地方の内陸部。地元では進学校に通い、頭も良かった。東京の大学に進むつもりだったが合格判定を甘く見て浪人、その後も遊んでしまって結局大学は一つも受からず、ずっとやりたいと思っていたシステムのことを東京の専門学校で学んだ。人生最初の挫折だという。

ほとんど外食なので冷蔵庫の中身はあまりない

ほとんど外食なので冷蔵庫の中身はあまりない

見事にすっからかんの野菜室

見事にすっからかんの野菜室

 ファミコン世代、ネット普及世代で、高校の時にパソコンを買ってもらい、そちらの方面の勉強がしたかった。東京に来たのは単純に憧れで。専門学校は脱落者が多いが、2年間存分に臑をかじった一方でまじめに勉強し、卒業後システムエンジニア(SE)になった。
 しかし仕事はきつかった。就職先の会社で仕事をするというより、そこから派遣されて請負先で働くことが多かったが、3日間寝ないとか、36日連続勤務とか、月350時間労働などという状態だった。それが業界的には普通だという。ネットビジネスなどが伸び盛りの時代だったのでそれなりに収入は良かったが、使う時間もなかった。

 「寝て起きて会社にいる、という状態で、家は風呂に入るだけ。納期は近づいてきているけどシステムは全然できていない、などというのが当たり前で、いわゆる『デスマーチ』(死の行軍)の日々でした。友達もいなくなり、だんだん病んできて」

 最初の会社は1年で辞めて、多少待遇がいい会社に3、4年いたが仕事はあまり変わらなかった。そのうちこのままでいいのか、と人生について考え込むようになった。たとえばスマホのゲームを作って大ヒットして儲けたとして、世間のみんながスマホのゲームにはまってる社会ってどうなの?などと疑問に思えてきた。やるなら社会に貢献する仕事、あるいはそれを裏から支える仕事をしたいと思うようになった。

台所回りもさっぱり

台所回りもさっぱり

デスマーチ経験して人生考える
 「もう疲れた、っていうのもあるんでしょうね。地元に戻って、システムとかの会社ではなく、比較的社会貢献系の企業に転職しました。20代後半ぐらいの時です。でも田舎の暮らしは1か月で飽きちゃったんですよねえ。やっぱり田舎はたまに帰るがいいなと思いました」

 何が居心地が悪いといって、保守的な人間が多いところだという。地元を目指してくる人間などいない。いるのは「残っている」人間。やる気がある人間は東京なりどこかに出ていく。4年我慢したが希望を出して、その会社の東京支店に配属してもらった。4年前のことだ。

 いまは日々の仕事には満足している。残業時間は月80時間ぐらい。自分の会社の仕事なのでいろいろ融通が利く。さらにもうプロジェクトを仕切るポジションなので、プログラミングなどは下請けに出しているのでデスマーチになることは無い。

 東京来てから今の場所に住んでいる。周りはラブホテルだらけだが、歩いて渋谷駅に行ける築浅1Kマンションで9万5000円だ。会社は近くなので通勤も楽。不満があるとすれば、1階といいながら半地下なことぐらい。日当たりはよくない。

住居が半地下でほとんど日が当たらないので、洗濯物はユニットバスで乾かす。下の除湿器をつけて、上のファンで風を当てる

住居が半地下でほとんど日が当たらないので、
洗濯物はユニットバスで乾かす
下の除湿器をつけて、上のファンで風を当てる

 超ハードな労働の日々の経験から、人生の時間をどう使うかよく考えるようになった。通勤に時間をかけるなら職住接近がいい、と思う。通勤時間を減らして自分の時間にするのが最優先だ。ここに住んでいる限り自動車もまったくいらないから無駄な出費もない。

自分の人生にプラスかどうか、常に考える
 人生についていろいろ考えたのは20代での地元リターンの時。突き詰めていくと人間という生物の生きる目的は子孫繁栄。そしてその中で死ぬまでの間どう楽しむか。限られた時間で楽しむことを考えると、自分がやりたいことをしっかり見極めていくことが大事だという。みんながやるからゴルフをやる、のではなく、とりあえずやってみるのはいいが、おもしろくなければすぐやめていい。
 また人生お金がすべてかというと、それも違うと思う。お金がないときはあれも欲しいこれも欲しいと思いがちだが、少し頑張ってお金ができて欲しいものが手に入ると、次のステージのものが欲しくなる。これではきりがない。ものを売りたい人たちのマーケティング戦略にはまっているだけだ。自分にとって何が大事なのか。何に時間やお金を注ぐべきかしっかり考えるようになった。

 「テレビを見て何が得られるのか?買うときにすごく迷いました無駄な時間過ごしているだけじゃないか、って。当たり前だと思っていることのかなりな部分は企業マーケティングに乗せられている、と思っているので、何かをするとき、買うときは考えます。一方でいろんな景色を見て、何が自分にとっておもしろいのか、大事なのかはどんどん試していきたい」

手前下のドラム型洗濯機も備え付け

手前下のドラム型洗濯機も備え付け

 女性とデートするのもお金がかかる。じゃあその先に何があるの、と考える。時間が大事なので女性と海外旅行に行ったりはしない。買い物とか自分に価値のないものに時間を取られたくない。富士山に登ったり、ニューヨークのタイムズスクエアで新年のカウントダウンを経験したり、様々な絶景を見に行ったり、一人で出かけていく。

 いまのところ、人生を色々楽しみたいので結婚したいとは思わないが、将来的には結婚して子供も欲しい。でも人を不幸にしたくないので、子育てや結婚生活を継続していける自信ができるまでは手が出せない。

取材後記
 すごくまっとうな方である。というかいろいろまじめに考えすぎ、と思われるくらいだ。タバコを吸ったことがないそうだが、60歳ぐらいになったら吸ってみたいという。今は健康被害を考えると吸うのは得策でないが、それぐらいの歳になってからなら吸っても、がんのリスクは高くない、という計算だという。普通そこまで考えない、というか今吸わなかったら一生吸わなくていいと思うのだが、好奇心が止められないのだという。
 ハプニングバーに行くなんてなんと不道徳な、と思う人もいるかもしれない。彼の道徳観はそういうところにない。結婚するつもりもないのに、普通の女性とつきあうことの方がよっぽど不道徳なのである。それよりお互い合意の上で自由なセックスを楽しむ方が、人生の時間の節約になるし、無駄なコスト(デート代とか)の節約になって有意義なのだ。
 彼が言うように、何も考えずテレビのくだらない番組をだらだら見ていたり、周りと横並びになること汲々としている連中よりははるかに賢い人生を送っているとも言える。
 大学受験失敗という現代日本ではけっこうな大失敗をしているにもかかわらず、そこで腐ることなくしっかりと、現在のそれなりにゆとりのある生活を築いている精神力も立派だ。というかその時点で学んだのかもしれない。地道にやっていかないと人生取り戻せないと。
 60歳ぐらいで結婚してこどもを作るのが漠然とした目標のようだ。実現しているかどうか楽しみだ。60歳を過ぎた頃に是非また取材をさせていただきたいと思う方だった。

現代生活図鑑では、部屋と人生を取材させて頂ける方を随時募集しております。普通の人のちょっと変わった人生を取材させてください!お問合せはこちら

この記事をシェアする