ETHNOGRAPHY
「損」がカギ? – リピーターを増やす方法、教えます
お店ってとにかく「一度来店してもらう」のが大変です。
初めてのお店って「すごく美味しいらしい」とか「とにかく安いらしい」とか「店員がイケメンあるいは美人らしい」とか、何か「行きたい理由」が必要なんです。
で、やっとの思いで、一度来店していただきますよね。その次の2回目に来店してもらうのが、これまた大変なんです。
あなたはそういう「たまに行く小さな飲食店」ってありますか?
スターバックスとか吉野家みたいな大手は何度も行くという経験あると思います。でも小さいお店で通うって「ちょっとだけ心理的負担」のようなものがありますよね。「距離間をどのくらいにしたら良いのか」とか「通いすぎじゃないか」とかちょっと難しいです。
それが「大手」だと、最初から向こうが「お久しぶりです」とか「今日は暑いですね」とか言ってこないから、毎日通っても良いし、たまに行ってもいいわけです。
でも、小さいお店ももちろん「たまに来店してもらう」のが全てなんです。
とか言いながら、僕も正直に言ってしまうと、お店って「一回行くともう満足」です。すごく美味しかったり、すごく良い雰囲気だったりしても、もう一回行く理由って本当にあまりないんですよね。
でも、もう一度来店してもらうためにいろんなお店で試みるのが「スタンプ・カード」とか「次回来店の時、一杯目サービス券」とかでしょうか。
もう一回行ったら「得をする」というパターンです。
ところで人間って「得をする」というのではあまり動かないけど、「損をする」のにはすごく動くという「行動心理」があるのはご存知でしょうか。
有名なのがこれです。
スーパーで「レジ袋をいらない」って伝えると「2円安くなる」というのがありますよね。「2円得する」わけです。でも「2円得するからマイバッグを持っていこう」とは僕らは思いません。
逆にスーパーで「レジ袋は2円かかります」というお店ってありますよね。あれは「2円損する」から、僕らは「損をするのはイヤだから」マイバッグを持っていくわけです。
同じ「2円」なのに、得をする場合はマイバッグは持参せずに、損をする場合はマイバッグを持参するんです。
「損をする」って僕らはかなり「行動してしまう」んです。
僕の自宅の近所にワインバルが出来まして、そこ、とにかく入ってるんです。大繁盛しているんです。「何か美味しいおつまみがあるのかなあ」とか「ワインのセレクトがすごく良いのかなあ」とか「スタッフがすごく良い感じなのかなあ」とか、すごく気になってたんですね。
で、先日、行ってきたのですが、どうして入っているのかわかりました。
「コイン方式」にしているんです。
まず最初にそのお店のコインを買うんですね。
それがコイン5枚500円か、コイン10枚1000円しか買えないんです。
で、ハウスワインは300円だったり、おつまみは100円だったり、女性の初めては100円引きだったり、とにかく「コインが少し残ってしまう」んです。
僕と妻は1杯だけ飲んですぐに帰るつもりだったのですが、コインが中途半端に残ったので、また500円で5枚買って、もう1杯飲んだのですが、またコインが1枚残りました。
これ、たぶんもう一回、行っちゃうんです。
というのはコインが1枚手元に残っているということは「100円支払ったのにそれを使っていない」ということなので、僕は「損をしている状態」なんです。
これが「次回、またどうぞ」という「1ドリンク無料チケット」の方が「500円とかの得」なのに、僕はそのお店に行かないんです。
でも「損をしている」ってどういうわけか「取り返したくなる」んですよねえ。
すごい発明だなあと思いました。もちろん「流行っている理由」は他にもあるとは思うのですが、この「コインを買って残ると損をした感じがするからもう一度行く」という理由はすごく大きいと思います。
「損をするくらいなら」という方式、すごく「行動する理由」になりますよね。
僕、ヨガのスタジオに毎月1万円払っているんですね。これも「払った以上は通わなきゃ損」って自分で思っているので、通うんです。
だからライザップも「大金を払った以上は時間をたっぷり使った以上は、これだけ頑張った以上は元を取りたい」という気持ちをうまく利用しているのかもしれないですね。
ビジネスも「もう10億円もつぎ込んだから、今さらやめられない」という時がさらにつぎ込んじゃうんですよね。
「お客さまに先に払っていただいて、それを全部使わなければもったいない。元をとらないともったいないから何度も通う」というスタイル、色々と利用できそうです。
例えば「普通のメニューだと生ビールは500円だけど、10枚つづりのチケットだと3000円で、1杯300円」っていうのってみんな買うと思うんです。
でも当日には使いきれないから、また来店しますよね。そしてもちろんビール以外のものをたくさん頼んでいただけます。そしてまた…という風に何度も来店してもらえるというわけです。
洋服のお店でも「1年間10万円分パスポート」というのを買ってもらって、その1年の間は、スタッフが色々と面倒を見てくれるなんていうのも出来そうです。
■著者について
林 伸次
林 伸次 1969年徳島県生まれ。中古レコード店、ブラジルレストラン、バー勤務を経て、1997 年渋谷にbar bossaをオープンする。選曲CD、CD ライナー執筆多数。『カフェ&レストラン』(旭屋出版)、『cakes』で、連載中。著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』(DU BOOKS)
また cakesの連載をまとめた恋愛本『ワイングラスのむこう側』が好評発売中。
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